「だいじょぶですか…?イルカせんせ…!」 覗き込む色違いの瞳は涙で一杯で、無駄に綺麗な顔はくしゃくしゃに歪んでいる。 …これで相手が全裸でのしかかってきてるんじゃなければ、多少は感動できたんだろうか。 「どけ。…あとなんで勃ってるんだ!?そもそも…これじゃ全然賭けにならねぇだろうが!」 長いこと煩わされていたあの頭痛が消えている。 そりゃそうだ。コイツが術を解いたんだから、もう消された記憶を戻そうとあがく必要もない。 記憶を消す術は恐ろしいことに結構な数があるが、この男が使ったのは幻術だろう。ぐるぐる回る赤い目玉は便利だってことだな。 全くもって当初の目的は果たせていないんだが…ある意味己の精神力を試せたと思えばいい方か。 元々幻術は苦手な方だ。それを精神力でなんとかできる可能性を見出せただけでも良かったと思うしかないだろう。 ベッドの上に転がって俺の股間にしがみ付いてる変態には…今何を言っても無駄だろうから。 「ぶ、無事でよかった…!いきなりすっごく痛そうな顔して倒れちゃったからすっごくすっごく心配したんですよ…!」 安堵のせいかそれとも単に興奮しているのか、鼻息も荒く頬を擦り付けてくる駄犬をとりあえず踏んでやった。 「ほら。このとおり健康そのものだ」 「あ、ぁあん!あ、も、もっと容赦なく…!激しく…!」 「ちっ!」 勝手に家に入り込む気狂いの上忍だと思ってたからな。記憶がなかった時の方が容赦がなかったかもしれない。 残念ながらここはコイツの家でもあるし、何を言っても無駄だというのが骨身に染みて…いや。だからといって諦めるつもりはないけどな! 踏みつける俺を見上げてうっとりと眼を細めている駄犬。 いつものことなんだが、これが異常だということを再認識できただけでもマシだ。 「イルカ、せんせ…!俺、俺もう…!」 どうやら駄犬の我慢も限界らしい。 今にも襲い掛かってきそうな気配だ。 そういやなんだかんだ記憶がない間はシてない…か。一応そこの約束は守られたということか。…まあ単に縛られたり踏まれたりするのが楽しくて忘れたかのどっちかだろうけどな。 「賭けは当然俺の勝ちだ。…なぁ駄犬?」 訳の分からん行為に付き合わされて酷い目にあったが、その甲斐があったというべきだろう。 コレで俺の平穏な生活が一部取り返せる…はずだ。 なんだかんだと駄犬がセクハラとストーカー行為を止めなかったのは気になる所だとしても、一応!一応だが、いきなり襲ったりはしなかった。 …まあ裸エプロンはアウトだけどな。限界が着たんだろうが…まさか服着てると死ぬのかこの馬鹿上忍は。 今も一糸まとわぬ姿で俺に踏まれているわけだが。…俺も脱がされてる件についてはもう深く考えないことにする。 「え!で、でもぉ!一目ぼれしてくれましたよね!やっぱり!」 「してねぇ!欠片もびた一文一切ない!むしろストーカー行為に悩んで同僚に相談しようとしたくらいなんだぞ!?」 そうだ。賭けの勝利条件は俺に分がありすぎたとはいえ、こんなにうまくいくとは思はなかった。 「同僚…ああ…あの間男なら…ふ、ふふふふふふふ…!」 「…部外者にちょっかいかけたらその時点で賭けは負けだぞ…!?まさか何かしたんじゃないだろうな!?」 今なら同僚が怯えていたわけも分かる。こいつが俺とできずにいるとそれでなくても情緒不安定になるってのに、その上目的はどうあれ俺から二人っきりになろうとした訳だ。 無事でいてくれ…! 「ちょーっと記憶消してぇ…あとはぁ…!うふふ!ひ・み・つでぇす!」 「ふざけんな!吐け!なにしでかしやがった!」 「だって!だってイルカせんせの貞操を付けねらったんですよ!?天井からイルカせんせの媚態を眺めようだなんて…!それを許されるのは俺だけなのに!」 「貴様やっぱり覗いてやがったのか!?」 ぎゃあぎゃあと喚いている間に夜が明けていったことには気づいていたが、途中でそんなことすら意識から外れていった。 …結果的に賭けの勝敗に関する会話が、駄犬の飯を食ってからってことになったのは…べ、別に駄犬とやりあうのが日常になってるって訳じゃない…はずだ! 「うぅ…負けねぇ…!俺はまだ…まだ戦える…!」 色々な意味で変わり果ててしまった日常。…それをすこしでも取り戻すんだ。 そのためには今倒れるわけにはいかない。そもそも倒れるなんて危険なまねしたら、今度こそ駄犬に訳の分からん行為を…! 「イルカせんせ!特製!元気のでちゃうジュースつきのあさごはんですよー!」 「ジュースはいらん。飯だけよこせ」 とりあえず、飯だ。腹が減っては戦ができん。 油断なく怪しげな食い物をすすめてくる駄犬を押さえ込みつつ、せっせと飯を食うことにした。 …絶対に勝ちをもぎ取って見せると近いながら。 ********************************************************************************* 変態さん。 というわけであといっかいくらいのはず。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |