失われた記憶3(変態さん)


「なぁ。今日ちょっと付き合ってくれないか」
同僚をそうやって誘うのは特に珍しいことじゃなかったはずだ。
にもかかわらずまるで術でも食らったかのように距離をとり、全身を慄かせて泣きそうな顔をされるってのは…一体どういうことなんだ。
「か、勘弁してくれ!俺には彼女…はいないけど!母ちゃん…はまああんまり気にもしないか…あーえーうー!あ!妹!妹がいるんだ!もう嫁にいっちまったけど!だから許してくれ…!」
「落ち着けって!どうしてお前の母ちゃんだの妹だのがでてくるんだ!?」
なだめようと近づいただけで飛び退り、挙句に天井を某害虫のようにかさかさと移動される始末。
これはもう無理だろうということだけはよくわかった。
「…あー…もうさそわねぇから降りて来いよ」
「ほ、ほんとにほんとか?まだ死にたくない!死にたくないんだ!」
酒飲んだくらいで死ぬようなら忍なんてやってられないだろうに。
…というかこれは…もしかしなくても例の件が関係しているに違いない。
勝手に家に住み着いているという認識でいたアレが、実はもっと恐ろしい裏があるのではないかということには薄々気づいていた。
だからこそ原因を探りたくて、アレがくると挙動不審になる人間の中でも話しやすい同僚を選んだというのに。
「…これだけ、聞いていいか。答えられなかったら言わなくていい。…なんで死ぬなんて話になるんだ?」
じりじりと床に下りようとしている同僚に声を掛けただけだ。
それなのにどうしてか涙で瞳を一杯にした同僚は、そのまま叫びながら姿を消してしまったのだ。
「死にたくないいいいいい!」
それもそんな叫び声をあげながら。
「一体なんだってんだよ!ただ飲もうっていっただけだぞ…!?」
人気のない時に誘ったのが幸いしてか目撃者は少ないだろう。
…まあそれでも職場放棄にはちがいないんだが。
あんな風に怯えられる原因が知りたい。
死にたくないってことは俺と酒を飲むとなにかが起こるということなんだろうが、心当たりなんて…いや、ある。一番可能性が高そうなのが。
「アレが、原因なのか…!?」
家に居つかれたのは迷惑千万だが、とりあえずは殺されるような気配はない。…セクハラ染みた言動は酷いが。
時折何かを耐えるような顔をして訳の分からないことをいうのももう慣れた。
あとはこの違和感を何とかできればいいだけだ。
自分の家なのに、いつも通りの日常のはずなのに、なぜか時折恐ろしくすわりが悪いというか…なにかがおかしいと痛切に感じさせられるのを解消したかった。
そのための手がかりが欲しくて動けばこの状況。よっぽど恐ろしいなにかがあるらしい。
これまでのことを総合して、うっすらと理解できたことがある。
「アレは、違う」
へらへら笑いながら毎回違う衣装で出迎える気色の悪い男は、きっと何か隠している。
…これはもう、最後の手段をとるしかないだろう。
何もかもわからない俺には、それ以外に手が残されていない。
「直接締め上げてやる…!」
縛り上げて拷問…なんてのは趣味じゃないし、敵はさっさと切って捨てる派だが、こんなことで拷問尋問部の皆様の手を煩わせるわけにも行かない。そもそもあいては一応格上だしな。
…実力はともかく、頭の中身では俺の方が…とおもわなくもないんだが。
心は決まった。後はアレを捕獲するだけだ。
幸い日ごろから邪魔をしてくるアレを撤去するために用意したワイヤーも縄もある。
「待ってろよ…?ぎっちぎちに縛り上げてやる…!」
くすくす笑ってたら同僚たちが戻ってきて、なぜかさめざめ泣かれたのでしっかりと謝っておいた。
アレへの制裁を心に誓って。


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変態さん。
イルカてんて暴走中。
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