失われた記憶2(変態さん)


「おっはようございまぁす!」
今日も今日とて朝からにこやかというか…気でも狂ってるんじゃないかと言う位これでもかとテンションが高い上忍が舞い降りてきた。
縛って踏んで転がして、それから眠ったはずなのにな。
「…はぁ…」
飯を食ったのが不味かったんだろうか。心なしかずうずうしさが増している気がする。そもそも最初からずうずうしいこと極まりなかったが、流石に俺の上に乗り上げてきたりはしなかったはずだ。
床に座り込んでなぜか首輪をつけ、子犬のような目で見上げてくることはあったが。
最初の頃は確か一応は縛られたままで子犬みたいな目で見やがるから、なんでかしらないが異常に腹が立って踏みつけたあと窓から捨てたりしてたのに。
いつの間にか縄抜けして朝飯用意して待つようになったもんな…。
まあいい。…食っても問題がなかったということは、今更警戒しなくてもいいってことだろう。
「おいしいですよー!」
顔を洗う間もぴったり背後から着いてくるのがなんだが、そこは綺麗に無視しておいた。
ちなみに着替えとトイレに関してはより一層凝視が激しいのでさくっと目隠しをしておいた。
なんかしらんがずーっとはぁはぁ言って大人しくしてるから、気色悪いがとりあえずなんとかはなった。
…時折手をわきわきさせながら慌てて自分で自分の腕を押さえてるんだが、もしかして病気なのか?
小声でこんなことしたらプレイがだのなんだのと言ってた気もするが。
食卓には美味そうな飯が並んでいる。
とりあえず食うことにした。
「…お茶」
「はぁい!」
試しにつぶやいたら即効お茶が出てきた。…ある意味便利だな。
それにしても俺はいつ引っ越したんだっけ…?
家具は確かに昔から使っているものが多いが、こんなクソ高そうな白いソファなんて俺の趣味じゃない。
妙に広いし。…いや、広い風呂は気に入ってるんだが、質実剛健を旨とする身としては、こんなめったやたらと広い家よりは、教師用借り上げ住宅でよかったんだが。
こんなまるで新婚カップル…いやむしろ大家族でも住み着いてそうな広さで、しかもベッドがそういや訳のわからん布キレで囲まれてるんだよな。
…どうして…?いつ引っ越したか思い出せないんだろう。
「う…っ」
軽い頭痛を覚えて頭を押さえた途端、怪しさ満点の男が大慌てで頭を撫でてきた。
「あぁ!やっぱりイルカせんせ意思が強いから…!そういう所もす・て・き…!じゃなくて!どうしようどうしよう!」
喚かれると頭痛が酷くなりそうだ。
…とりあえず、教師としてはなんだが八つ当たりすることにした。
「あー最低でも三日くらいは姿も見たくないんで出てってくれ。大体アンタなんで俺の家にいるんだ?」
八つ当たりと言っても、正当な要求なはずだ。
少なくとも他人の家にあがりこんであばれるような馬鹿相手にくれてやる優しさなんどない。
「ひ、酷い!忘れちゃったんですね…!あ、まあ忘れてもらってるんですけど!この指輪みて思い出さないんですか!」
男が手甲をはずすと、確かに銀色の指輪を身に着けていた。
なんでだ。こんなものが…怖い?思い出したくない。
「黙れ。出て行け!」
結局けりだして、それから飯だけはもりもり食ってから気がついた。
「俺、も…指輪してる…!?」
それもそっくり同じ形に見える。…まあ指輪なんざみんな同じような形してるし、石なんかついてないからたまたまだろうけどな。
それよりなにより恐ろしいのは…はずれないんだ。その忌々しい銀色のわっかが。
「…きっと寝不足でむくんでるんだ。そのせいだ」
己に言い聞かせてとりあえず通勤かばんを持った。
これ以上は何も考えたくない。
見たくないといったせいか、男の姿もないし、この間に平和に暮らすことだけを優先しよう。
なんか、多分だがきっとすぐ側に潜んでるんだろうけどな。
頭痛はずっと続いている。それから…指輪への恐怖も。
だがなぜかアレがいないことに確かに安堵しているのに、どうしてか少し、ほんの少しだけ不安なのはなんでなんだろう。
「あー…とりあえず。仕事だ仕事!」
訳の分からないものすべてから逃げ出してしまいたかった。
このもやもやする心からも。


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変態さん。
続き。ちょいちょい性癖を隠し切れない変態さん。
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