失われた記憶17(変態さん)


「イルカせんせ…」
駄犬の分際で勝手に人の上に乗り上げてくるとはどういうことだ。
ぴったりくっついて今にも喉をごろごろ鳴らさんばかりに蕩けた顔を晒している。
普段なら飛び掛ってきたら最後、抵抗する隙さえ与えられずに咥えられたりもまれたり…とにかく確実にそっちの方向に持ち込もうとするはずだった。
それが今はいつも通り無駄にみなぎったブツをもどかしげにこすり付けてきてはいるが、強引なマネは鳴りを潜め、俺をねっとりと見つめているばかりだ。
変態上忍のくせに!…こんなときだけ塩らしいのも、あの日の再現のようだ。
油断は、禁物だ。
同じ失敗を何度も繰り返すほど、俺はアホじゃない。…はずだ。
あの日も、駄犬がこんな顔で俺を見たのを今でも覚えている。
いなくなったりもしないし、幻でもないし、残念なことにすっかり駄犬の存在にもなれてしまって、気がつけばいないと不安になるようにすら…!
まあいても不安なんだが。常に。駄犬が何するか分からないからな。
とりあえずこの甘ったるい空気をなんとかしたい。
それに不安げにちらちら俺を見るくせに離れようとしない駄犬との縁なんて、とっとと切ってしまいたい。
…ほだされたら終わりなんだってことはよくわかってるってのに、どうしてこうも…俺は動揺してるんだろうか。
「…駄犬で、変態で、しかも頭も悪いのにな…」
「も、もちろん!俺はあなたの犬…!もういっぱいいっぱい気持ちイイコトだってしちゃうし、ご飯も下の世話も間男からも守りますし、もうなんていうか全てを俺でいっぱいにしたいです!」
きらきらした目でそう主張されても、実際のところ駄犬のおかげで散々な目に遭ってばかりだ。
どこでもいつでも側にいて、一方的なセクハラを仕掛けてくるから、一日中気の休まる暇がない。
大好きな風呂でだってくつろげないし、温泉に行こうとすればついてくるし、修行しようとしてもなんだかわけのわからん結果になったしな…。
殴っても蹴っても避けられる。まあ最近修行の成果か、多少は掠ることもあるから多少は…!
そのくせ踏まれるときだけは、自ら全身を投げ出してくるほどに積極的だ。
目を潤ませて俺を見上げて、もっともっととしきりに強請り、聴きたくもない、理解もできない意味不明な…恐らく卑猥な言葉を連発する。
なにかっていうとすぐ脱ぐし、すぐ襲い掛かってくるし、縛ると喜ぶし鞭も一時期よだれをたらすくらいよろこんでたっけなぁ…。
ヤリ始めるととまらんし、訳の分からん薬で元気にはなるが、強すぎて身体壊したことだってあった。
好きだ好きだと毎日囁き、俺のためだけにせっせと作る飯は美味い。
顔は無駄にいい。…表情はなんていうか、情けないというかだらしないというか、大分アレなことの方が多いけどな。
能力的にも里で一二を争うほどに優秀なはずなのに、どうしてこうなっちまったんだか…。
「駄犬。…まずは命令だ。今日は一回だけやらせてやる。それを破ったら…」
「や、やぶったら…!どんなお仕置きを…!」
相変わらずすぎてため息が出そうだ。
いっそ縛り上げて数日単位で放置してやろうか。上忍だし死にはしないだろう。
…俺の方が心配で見に行って酷い目にあいそうだけどな…。開放してやるタイミングで確実に御褒美だのなんだのととんでもないことをしでかすだろうし。
「うっとりすんのはやめろ!そうだな。とりあえず…ぎゃあ!」
「久しぶりですから…たっぷり濡らさないと!…ね?」
ローションらしきものをぶっかけられた。
駄犬の出したものじゃなかっただけマシだろうか。
うっかり許可を与えた俺が悪いといえば悪いが、泣きそうなのも事実ではある。
だがとにかくある意味これも作戦のうちだ。そう思わなきゃやってられん。
「い、っ…!」
「ん。きついですか…?ゆっくりしますから…!」
久しぶりというほどではないはずだ。駄犬とこんなことになる前はせいぜい週に一二回がいいところというか…毎日毎日ヤル方がどうかしてる。
だが記憶の中の身体との差に動揺を隠せない。いつも駄犬のせいで訳の分からないうちに大変なことになっていることが多いから、こんな風にされると自分の反応を思い知らされて羞恥で死にそうだ。
だがさっさと終わらせて欲しいという言葉は飲み込んだ。
駄犬は刺激しないに限る。こういう状態のときは、何を言っても都合のいいほうに変換するだけだからな。
「ん、ぅ…!一回、だけだからな…!」
にらみ付けたのは最後の念押しのためだったんだが。
「一回…焦らし…!ねっとりゆっくり…すぐ出したらもったいないし…!」
聞いちゃいねぇというか、聞いてるが理解しちゃいないってことか。最悪だ。
「う、もう、とっとと…!」
終わらせろというつもりだった。そしてそれを言い終わらないうちに呼吸すら奪う勢いで唇を奪われた。
「ん…。欲しいんですよね…!もちろん!たっぷりいっぱいにしちゃいますから…!」
駄犬のそれはもうこの世の春とばかりに蕩けきったくせにぎらついた顔に、俺は絶望に近い覚悟を決めざるをえなかった。


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変態さん。
おわれ_Σ(:|3 」∠ )_
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