失われた記憶16(変態さん)


「はぁ…」
「あぁん!ため息…!やっぱりイルカせんせも…!流石俺の運命の番…!魂の片割れ!永遠の…」
茶をすすりながらため息を吐いただけでこれだ。
…賭けに勝ったってのにどうすりゃいいのか。
いや!絶対に引いてやるつもりなんてないんだけどな…!
「おい駄犬。まずは賭けについてはっきりさせないか?」
「そうですね…!たっぷり溜まった特濃ミルク!イルカせんせのお尻とぉ…あと顔にもかけたい…!イルカせんせのも直飲みしたいけど、かけて欲しくもあるし…!ふ、うふふふふふふ!」
だめだ。イっちまってる。
いや頭がイかれてるのは元々だが、これはもう確実に別の方向でヤバイ。
ここで俺の身を犠牲にして宥めれば多少は落ち着くだろうが、俺の体が壊れかねない。
なんだかんだ言いつつ勝手に籍が入っていたときから、この駄犬は我慢というものを捨てた。
…そもそも我慢ってものを理解しているかどうかは謎なんだが。プレイがどうのって方向にもって行けば多少…いや今それはどうでもいい。
ほぼ毎日のように俺の尻を狙い続けてきたわけだから、悲願達成に舞い上がったのかもしれんが、おっぱじめると延々と、それはもう延々とヤるはめになる。
俺の決死の防衛工作の結果、1日でも間が空くと、その被害が更に拡大するのだ。
いなかった分もたっぷりイルカせんせを味わいたいとかなんとか…!
例のわけのわからん薬がなければ、とっくに黄泉の国に旅立っていることだろう。
今回はそんなレベルじゃない禁欲だ。
縛られて踏まれるのがよほど楽しかったんだろうが、駄犬のことだ。満足はしていないだろう。
さっきからぶつぶつ感動がどうの、朝まで所か永遠にとかなんとか不穏なことばかり口にしている。
下手したら本当にやり殺されるかもしれないと、背筋が寒くなった。
…そんな死に方じゃ慰霊碑に名を刻まれないだろうし、あの世で待っててくれるだろう父ちゃん母ちゃんに会うのも怖い。
父ちゃんは怒り嘆き悲しむだろうし、母ちゃんは…どうなるかわからんな。怒ったときに一番恐ろしいことをするのは母ちゃんだったし。
まあそれ以前に結婚した相手が男でしかも変態という時点で…!父ちゃん母ちゃん…!親不孝な息子でごめんな…!
それになによりそんな情けない理由で死ぬなんてまっぴらごめんだ。自分が一番嫌だ。
考えても見ろ。男にケツを掘られてるってだけでも相当に辛いのに、それが原因で…なんてことになったら、生徒たちだってとんでもない傷を負うに違いない。
まあ流石に実際そんな目にあったら、死因は伏せてくれるだろうけどな…。
被害を食い止めるためにもここらでガス抜きをしたい。できれば尻と関係ない方向で。
だが奇妙なことに襲い掛かってはこないのだ。普段なら待ても碌にできない駄犬のくせに。
…このままどうにかして誤魔化したいという気持ちももちろんあったが、変態駄犬上忍の動向の方が気になった。
「おい駄犬。俺は賭けの話を…」
「はい!わかってます!…もう一度…ね?」
絶対分かってない欠片もこれっぽっちも一寸たりとも。
もう一度って一体なんだ!?
急に空気が変わった。
ねっとりと絡みつくように濃厚な…恐ろしいほど不安を掻き立てるように。
見慣れた全裸の男がジワリと俺に近づく、そして。
…ひざまずいて俺の手に口づけた。
「イルカせんせ。好き。大好きです。愛してます…!ずーっとずーっと永遠に一緒にいましょうね…!」
うっとりと目を細めた男が幸せ一杯の顔でそう告げた。
…ああ、そういえばこんな言葉をいつかも…。
ぐらりと世界が回った気がした。


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変態さん。
あとちょっとだといいな。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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