失われた記憶14(変態さん)


「イルカせんせ…!」
朝起きて顔洗って髭剃って髪をまとめて着替えて…その辺りで気がついた。
「あ…そういやそのまんまだったか」
縛り上げたあと不穏な物音がしていたことには気づいていたが、気苦労と訳の分からない事態から来る疲労のおかげか眠気に負けたんだよな。
まあ正解だったと思う。…この惨状を思えば。
「イルカせんせの愛…!いっぱい受け取りました…!あんまり締め付けてくれるからもうもう…!」
顔はなんかしらんがドロッとしていた。涙とか鼻水とか、もしかすると涎も混ざっていたかもしれない。
そして下半身は服の上から見ても十分に分かるほど、その存在を主張していた。
…その下がどうなっているかなんて考えたくもない。
まあ、その、朝だしな。成人男性だし年齢もそういえば俺とそう変わらないはずだ。
朝に多少元気でも不思議はない。
コイツの存在そのものについては不思議が満載だけどな。
こんな得体の知れないものでしっとりした変質者など触りたくもないし、このままここに放置していきたいという考えもちらりと頭を過ぎったが、その場合家に帰るたびに不愉快な物体とこんにちはだ。それはごめんこうむりたい。
ここはやはりさっさと捨ててくるのが正解だろう。
ああそれから…口止めは忘れないようにしないとな。
「ここから、でたいか?」
「あ、愛の試練ですね…!もちろん受けて立ちますとも!」
この言葉が拘束をとることへの同意かどうかまでは判断がつかない。
というか何を言いたいがすら理解できない。
あれか。朝だからきっと寝ぼけてるんだな。この異常な状況でちょっとおかしくなって…まあ元々おかしいし、上忍がこのレベルでおかしくなってたら里が滅ぶが、これ以上色々考えても疲れるだけだろう。
いやいやながらくくった縄を解いてやった。
とっさに加減ができなかったと見えて、随分しっかり食い込んでいたようだ。
あとはまああれだけ身もだえすればな…そりゃしっかり食い込むのは当たり前だ。むしろそれが分かっていて延々と意味不明なことを口にしながら悶えていた上忍の頭の中身が不思議だ。
思わず全身ぐるぐる巻きにしてやったせいで、大分触りたくない辺りにも縄がかかっていて、おかげでちょっとどころでなく手間取ったが…むしろなんで湿ってるんだという辺りで涙が出そうになった。
肌が白いせいで手首にはくっきりばっちり後が残っているのが分かる。
痛々しい痕をみると、流石にやりすぎたんじゃないかと思い始めてきた。
痛みに強いのが忍とはいえ、直に捲きつけていたのはまずかったよな…。
変質者への怒りに我を忘れた時点で、忍失格だ。
忍とは常に冷静でいなくてはならないと教えていたのに…。
たっぷり寝たせいで理性がもどってきた頭に、罪悪感がひたひたと押し寄せてくる。
痛がる様子はないが、怪我は怪我だ。相手が不法侵入してきていたとはいえ、やりすぎだった気がする。良心がちくちくと痛んだ。
もし任務に出るのに支障が出たら俺のせいだ。せめて最低限の手当てはしなくては。
とっさに薬箱を取りにいこうとした。…んだが。
「この縄は記念にします…!一生大事にします…!ある意味指輪が増えたっていうかぁ…!い、今すぐ…!で、でも…約束したしぃ…!もうちょっとこの関係を楽しみたいって言うかぁ!」
「は?」
「ああん!そんな顔外でしちゃだめですからねー!あ、でも外でスルのもいいですよね…!夏…!あの忌々しくもイルカ先生の体液を狙う泥棒猫どもはちゃーんと最新式蚊取りとか結界とかで…!」
「へ?」
「ま、そんなわけで…!…素敵な夜をありがとうございました…!また…あ・と・で!」
「うわぁ!?…消えた!?」
なんだったんだろう。一から十まで理解不能だ。
縛り上げられたってのに楽しかったらしいってことだけは分かったが、何がなんだかさっぱりだ。
とりあえず、あれだけ大喜びしてれば懲罰とかにはならなそうだから、そこだけは素直に喜んでおくべきだろうか。
「…飯、食おう」
とにかくすべては食って頭をはっきりさせてからだ。
そう決め込んで、俺は全てを振り切るように飯の支度に走ったのだった。


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変態さん。
変態さんはその日もいろんな意味で元気一杯に出勤しました(*´∀`)
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