失われた記憶(変態さん)


平和な一日をつつがなく終えて、持ち帰りの仕事を片付けてゆっくり眠る。
それが幸福だと信じていた。
「おっかえりなさぁい!」
それがどうだ。
常にとある人物の影を警戒し、仕事など持ち帰ろうものならその隙を突いてくるのは明白だから、残業してでも片付けざるを得ず、眠る前にすることはこの勝手に上がりこんでいる上忍を縛り上げることだ。
どうしてこうなってしまったのかと頭を抱えたい位だが、ぴったりくっついて耳をかじったりしてくる上忍がいるのでそんなことすらできない。
平和。俺の最も愛する平和は、この男のお陰で常に脅かされている。
確かやたらと有名でビンゴブックにも載っているはずだ。
つまり化け物みたいに強いはずだ。
それに多分普通は頭もいいもんじゃないんだろうか。
「…はぁ…」
それがどうして頭に花でも咲いたみたいな顔で笑いながら、土鍋で炊いた飯をいそいそとよそってるんだろう。
しかも今日は暗部装束だ。
存在そのものが機密の塊みたいな部隊なんじゃないのか。
百歩譲って着るのはかまわないが、どうしてそれでわざわざ勝手に上がりこんだ他人の家でおさんどんなんかしてるんだ。
やたら二の腕を強調した衣装を見ても、相手は男。
筋肉は確かに模範的と言っていいほど無駄がないが、そんなもの見せられてもうれしくもなんともない。
「今日のご飯は土鍋で炊いてみたんです!おいしいですよー!」
…そうかもしれないな。確かに母ちゃんは時々土鍋で炊いた飯で父ちゃんをねぎらってた記憶がある。
炊き込みご飯は邪道だという父の教えにしたがって、俺も何かが混じった飯は苦手だが、そもそもこのふっくら炊き上がった白い飯があまりにも美味かったせいもあると思う。
でもな。誰も頼んじゃないないんだよ。なんでここにいるんだよ。あとなんで追い出しても追い出しても来るんだよ!
周囲が生ぬるい笑みを浮かべるばかりで、これといって注意もしてくれないのがまた辛い。
出ていけと怒鳴りつけたら本当に姿を消したから、とりあえず得体の知れない飯には手をつけずにおこうと思ったら視線を感じて、出て行ったんじゃなくて天井裏に潜むに変更しただけだったこともあった。
来るなといったら、いつのまにか影にもぐりこまれていて、一緒に入っただけですなんて自慢げに言われたりもした。
…実力だけがある馬鹿は、それだけで大迷惑なんだということだけははっきりしている。
今まで飯は持って帰らせていたが、それを味の問題だと解釈したのか、この所の食へのこだわりはすさまじいものがある。
ナニ考えてるんだか知らないが、どうあっても折れるつもりはないらしい。
「飯食ったら帰りますか?」
「え?ちゃんと片付けてお風呂で背中流してマッサージもして夜の運動もしますよ?」
無駄、か。まあいい。それならいつもどおりにするまでだ。
無言で飯を食ってやった。初めて箸をつけたことに感涙している上忍は置いておいて、しっかり全部平らげて、それから縄を持ち出して身動きがとれないようにきっちり縛り上げておいた。
「…朝まで転がってろくそが」
一言罵って多少溜飲を下げ、ベッドにもぐりこんだ。後は寝るだけだ。
「記憶喪失プレイ…!緊縛までしてくれるなんてイルカせんせったらもうもう…!一目ぼれツンデレって素敵…!も、もうちょっと堪能しようかなぁ…!」
今日も訳のわからないことを言う男の顔などみなかったことにして目を閉じた。
今夜もまた悪夢をみるのだろうかとため息をつきながら。


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変態さん。
ちなみにそろそろ服を着ていることが我慢できなくなりつつある…はず。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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