はじめての(適当)

「…で、どうですか?」
「聞かないで下さいよ…」
男はあなたが初めてですと、冗談でなく緊張しているらしい顔で言われて覚悟は決めていた。
まあ俺だってはっきり言ってろくな経験がない。
女相手ならまだしも、男相手なんてのは、戦場でちょっかい掛けられて逃げたとか、どうしようもなくなった部下相手に手で何とかしてやるくらいのものだった。
だがここまで酷いとは思わなかったというのも正直な感想だ。
「…ってー…」
「うぅ…!ごめんなさい!」
あっちの方でも業師、百戦錬磨の女殺し。
そんな異名は、俺のかんしては綺麗さっぱり返上だ。
夕べの惨状ときたらそれはそれは酷いものだった。
脱がせて萎えるなら分かる。
お互い男は初めてだ。つくもんついてる相手がいたら、やっぱり無理だって可能性も考えてはいた。
だが、逆を考えていなかったのが運の尽きだったかもしれない。
風呂上りで服を着る前にベッドにもぐりこんで、それから入れ替わりに入ったはずの男が飛び出すみたいにベッドまでやってくるまでほんの数分だったような気がする。
さあやりましょうなんて雰囲気を作るのも嫌だったとはいえ、足の間まじまじと覗き込みながらどんどん元気になってく他人の股間を見るのもなんというか…感慨深いと言うよりは何でこんなことになってるんだろうと奇妙に冷静になったというか。
「ここに!ここに入れるんですよね…!」
「お、落ち着け馬鹿!」
いきなり人の…その、そんな所をまさぐりだして息を荒げる男に、流石に慌てて引き剥がしたら…手が赤く染まった。
「ふぁい!」
「ちょっ!なんで鼻血!」
「どうしよ。えっとローション、あとクリームも…」
「なんであんたそんなに用意がいいんだよ!?あと鼻!拭け!」
「だって、したい。イルカ先生としたい」
「わかったから!」
それからがもう大変だった。
ティッシュで顔を拭いてやってる間に、ローションだかなんだか知らないが、慌てすぎた男がそれを布団にぶちまけて、そっちも拭こうとした俺に今度は圧し掛かってきてクリームの方までぶちまけた。
…今度は俺の方に。
お陰でぐちゃぐちゃになったベッドと俺に怯むこともなく、目的の箇所に指を突っ込んで熱心に広げ、それから多分広げきらない内に突っ込んできたのだ。
あの時の痛さと言ったら!殴ろうにも殴れないほどだった。
「いたっ!ぬけ…っ!」
「あ、動かないで…!だめ、でちゃう…!」
「ひっ!ぅあ…!」
全部はいったかどうかも痛みで分からなかった。
ただすぐに入ったものが熱い何かをぶちまけて縮んだことだけが感じ取れた。
「ん、あ…うそ。でもどうしよ」
「どうしよじゃなくて、抜いてください…!」
痛い。しかもなんだかまだ硬い気がする。かわいい顔してるくせに、下半身だけ凶暴なでかさだったのを見てるだけに、恐ろしくてならなかった。
それなのに、この男の暴挙はそれだけで終わらなかったのだ。
「無理…!ごめんなさい!」
「え、あ!ウソやめ…!」
「どうしよ。気持ちよくて止まんない…!」
「うぁっ!いた…!こんの…馬鹿野郎…!」
「ごめん…ごめんなさい…!」
…結局謝り続ける割には、男は行為を止めようとしなかった。
俺の方はと言えば散々出されて痛い目にあった挙句にへろへろになったころ、必死で何か探っていたらしい男に、おかしくなるほど感じる所を見つけ出されて…そこを狂ったように突いてくる馬鹿のせいで出したと言うより搾り出される感じでイかされて以降、その先の記憶がない。
「気持ちよく、なかった…?やっぱり…?」
そして今、泣きそうな顔で情事の感想なんてものを求められているわけだ。
「あーそうですね…笑っちゃうくらい下手でしたよ」
「うぅ…ごめんなさい…!」
打ちひしがれる男は全裸で、動けない上に落ち込むのに忙しい男が俺に服なんか着せてくれるわけがないから俺も当然全裸だ。
「で、アンタはどうだったんですか?…俺は、気持ちよかった?」
さらっと聞いてはみたものの、内心は恐怖で一杯だった。夢中だったのは分かったが、同じ男に突っ込んで気持ちイイもんなんだろうか。止まれないとか…どこまで本当なんだろう。
「そんなのおかしくなるくらい気持ちよかったです!」
怒鳴るように、でも最後の方にはほにゃりと溶けそうな位頬を緩ませていうから、突っ込まれたショックよりも、未だ体中に残る痛みよりも、その幸せそうな顔に笑いがこみ上げてきた。
「なら、いいです。…ずーっと今のままじゃお断りですけどね」
痛みになれてるって言っても、わざわざ痛い目に合いたい訳じゃ当然ない。
「が、がんばります!」
これまた今にもSランク任務につくんじゃないかって顔で言うからもう一度笑って、交わす余裕すらなかったキスをくれてやった。
物覚えだけは恐ろしくいい男だから、そのうちこっちの方も何とかなるだろう。…変な所で不器用だから苦労もするだろうけどな。
瞳がとろんと潤み、気持ち良さそうな息が鼻先を擽ってきたから、ちょっとした悪戯は成功したんだと思いたい。
ただそれから…そこにケダモノの炎を宿すまでやってしまったのはやりすぎだったってだけで。
「ん、んん!?」
「もっと、イルカせんせ…!」
…そのまま再度情事にもつれ込んで、俺の予想はある意味当たっていたことを体で思い知ることになったのだが。
「イルカせんせ…!」
そう名前を呼びながら幸せそうに腰を振る男に、散々気持ちイイ思いもさせられたから。
…加減を知らなさすぎる男を一発殴って、説教するだけにとどめておいた。


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適当。
ねむけにかてない
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