(適当)



「いってー…」
しみじみと痛みをかみ締めてみたところで、その原因が隣で至福とばかりに惰眠を貪っていることに気がついた。
俺は休みだが、この男は任務があったはず。
サーッと血が下がるのを感じながら、大慌てで男をたたき起こした。
ついでに腰やらなにやらの痛みにも呻く羽目にもなったんだが。
「あ、え?おはよイルカせんせ」
のんきにおはようのチューなどといいながら唇を奪い、その後ももそもそと手を這わせてきた。
「いい加減…起きやがれ!」
「ぐえ!」
頭突きをお見舞いしてやったら、やっと正気に返ったらしい。
頭をさすりながらにへにへと頭の悪そうな笑みを浮かべている。
「ほら、さっさと仕度…ッ!?」
途端、腰に衝撃がかかり、その痛みと来たら涙がでそうなほどだ。
いきなり飛びついてくるなんてお前は犬か。
そう罵倒したいが、脳みそが溶け切ったような顔で笑う男には話しが通じそうにない。
「イルカ先生…!好き」
「あー…はいはい。昨日散々聞きましたよ。だからさっさと仕度を…」
「もうねー。どうしようね!幸せってこういうのなの?どうしよう!」
目がハートってのはこういう状態を言うんだろうか。明らかに常軌を逸している。
「し、幸せならいいじゃねぇか。それで!だから!その!」
「イルカ先生がさ、今日から俺のもんなのよ?もう全身余すことなく舐めたし中にもたっぷりだしちゃったし!」
一瞬、呼吸が止まった。
…怒りと羞恥で。
「うるせぇ!朝っぱらからナニ破廉恥なこと喚いてんだ馬鹿野郎!?」
「だってもうね!俺今まで生きてきて良かった!最高!ねーもっといちゃいちゃしましょうね!末永く!」
「そ。そういうもんを力説すんな恥ずかしい!」
「恥ずかしくないもん!イルカ先生のはしたない声とかきゅうきゅうしまるナカとか最高だったし、俺のこと何度も締め付けてくれたし抱きしめてくれたし、好きっていってくれたもん!」
だから幸せすぎて落ち着かないのだと、今にも踊りだしそうな男が言う。
どうしても欲しかったものは、絶対に手に入らないと思っていたから、夢なんじゃないかとまで言い出し、解を唱えては夢じゃないと喚いて喜んでいる。
何やってんだろうな。コイツは。
「あーあ…馬鹿でかわいいって思ってる時点でおしまいか」
「なになに?イルカせんせ!今俺のことかわいいっていった?」
きらきらした瞳。今にも飛びつかんばかりに興奮した顔には、忍服をたたき付けてやった。
「着替える!飯も食え!任務から帰ってきたら…俺は今日も休みですから」
そこから先は口ごもってしまったのに、ぱあっと顔を輝かせてあっという間に着替えた男は、昨日仕込んでおいた朝食をてきぱき盛り付けて俺に食わせ、そのまますごい勢いで飛び出していった。
「速攻終わらせて帰ります!だから、俺のこと待ってて」
ちょっと不安そうな顔なんてするから、甘やかしたくなるんだよ畜生。
「待ってるから、とっとと帰ってきなさい」
というか、さっきから腰も足もがくがくするから、外になんかどの道いけそうにないんだけどな。
「はあい!」
良い子の返事だけをのこして姿を消した男は、帰ってからもまた一騒ぎしてくれること請け合いだ。
それまで、少しでも体を休めておこうか。
…きっと俺は、拒めないだろうから。
「あーあ。人生何が起こるかわかんねぇもんだなぁ」
ため息が予想以上に甘くて、我ながら幸せボケしてるなぁなんて思いつつ、布団に潜り込んだ。
帰ってきたら、また不安がるだろう男を抱きしめてやろうと決めて。


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適当。
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