「アンタの言ういい子っての、してたんだけど?こっちは」 不快だと顔に大書きした男が不満が滴るような毒交じりの声で言う。 「そうですか。そりゃありがたい話ですね」 ちゃぶ台の上に足を乗せていることも、それが土足であることも、片手にクナイをぶら下げていることも、どう考えてもいい子にしてたに当てはまるとは思えないんだが、とりあえずそう言っておいた。 足蹴にされた書類は急ぎの物ばかりで、台無しにされたら事務方が発狂しかねない代物だ。 大名の春の宴は里長を初め主だった重鎮も参加するから手がぬけない。 つまり俺は今、死ぬほど忙しい。 …そして、それを受け入れられるなら、この男にこうも梃子摺らされていない。 「きいてんの?いいから今すぐ寝室行って服脱いでヤらせな?それとも破かれたいなら止めないけどね」 これも仕事だと言って聞く様なら話は楽なんだが、この男にそれが通じたためしなどない。 最初からして酷かった。 そもそもが強姦染みた始まり方で、そこから少しずつ少しずついい聞かせて宥めてすかして時にはわが身を餌やおとりに使って何とかここまで躾けたものの、到底まともになったとは言いがたい状況だ。 やらなきゃ収まらない。そういいたいのは分かる。正直言って俺だって溜まってる…と言うのは言ったら最後やり倒されるだけじゃすまないから言わないが。 また閉じ込められるのはごめんこうむる。だが今一人でも事務方の人間が抜ければ洒落にならない被害が出るし、悲しいかな俺はこの手の仕事を巻かされる事が多いから、他で変わりに同じくらい動ける人間がいないのだ。 「足どかしなさい」 「は?うるさいな。口答えすんの?」 「どかしなさい」 「ちょっと。俺と遣り合って勝てるとでも思ってるの?」 笑顔は自然と顔に出た。そしてクナイも…ただそれは気付いたら握っていたというのが正しいが。 いっそコイツで思いっきりやりあったら楽しいだろうな…そんなことまで頭を過ぎる。 実行はしない。そんなことをしている余裕もない。 それにもしそうしたとしってこの男が嬉々として遊んだあと焦れて暴走するのが目に見えてるからな。 「それは春の宴の予算調整と人員調整です」 「だから?」 イライラした様子を隠そうともせず男が噛み付いてきたのを、クナイを弄びながら応えた。 「それが駄目になったら、俺はまた3週間は火影様の執務室に缶詰にならなきゃいけねえってことだよ」 笑顔は、多分そのままだったはずだ。 …男は黙って足を降ろした。 書類は…多少汚れてはいるが無事な物ばかりだ。また大名の決済印を貰ってくることになったら、この男が相手だとしても無事ではすまない程度に叩きのめしていた自信がある。 「…いつ、終わるの?」 「アンタが足を乗せてる間に終わるはずでしたね」 「チッ!」 随分と態度が悪いが相手にしている時間も惜しい。 書類を捌くことに集中し、汚してしまった物を大急ぎで作成しなおす。まだ決済印がいる物は他にもあるから、そのときにこれも処理してもらおう。物資の手配も少し遅れるくらいなら対応できる。 集中しすぎて男の存在を忘れることしばし、何とか処理し終わった書類を確認して封をした。後はこれを届けるだけだ。缶詰状態だったのを心配した同僚が、せめて家で休めというのをありがたく受けつつ、それでもどうしても急ぎのものだけを持ち帰ってきたってのに、あの男はなんてことをしやがるのか。 今更ながら腹が立ってきて、これを届けたら一発分殴ろうと思ったら、封筒が消えた。 「え?」 「これ、執務室でしょ?」 「あ、ええ」 「ベッドで服脱いで待ってな」 「は!?」 「もう待ては聞かないよ」 「あ!ちょっと待て!オイ!」 …もう見えないくらい遠い。さすが早い。この分だとすぐに戻ってくるだろう。 「飯も食ってないし、風呂も入ってないし、寝てねぇよ…」 「そ?俺も一緒。ついでにずーっとアンタに触ってない」 早すぎると文句を言う口をふさがれて、湧き上がる熱に驚いた。 疲れすぎてると勃つことはあるが、これは違うだろう。 「ご褒美…になんのか、これは」 自分でもなにをいいたいのかわからないほど煽られている。疼く体は言うことを聞いてくれそうにない。 「足りない物は補充しなきゃでしょ?」 そう笑う男に抗う気も失せた。もうなんだっていい。今は目の前にある欲しかった物に手を伸ばすことしか考えられない。 「後で、覚悟しろ」 「ん。好きにしたら?」 噛み合っているのか噛み合っていないのか、お互い笑う姿は獣染みた飢えを纏わりつかせているところだけは一緒で。 後はもう、何も考えずに溺れることにしたのだった。 ******************************************************************************** 適当。 ワーカーホリックとはつじょうき。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |