春が来ました(適当)


「イルカせんせー。やりたいです」
「帰れ」
玄関先にアホがいる。
なんだろうなこの人。春だからって頭のネジ吹っ飛ばすことないだろうに。
曲がりなりにも上忍…だとはとてもじゃないが思えない。
容赦なくドアを閉め、鍵も閉め、ついでに耳も塞いだ。…心理的に。
「イルカせんせー?あけてー?やりたいですー」
アホそのものな物言いだが、少しくらい自分がおかしいんじゃないかとか疑わないんだろうか。まあ疑ってたらやらんだろうが。
…しばらく放っておこうと茶を入れて飲み干しても、男は同じ調子で俺の名を呼び続けた。
流石に近所迷惑だ。
みんなあの上忍に怯えて文句なんか言えないだろうし、そうなると俺に文句が来るだろうし、何より俺はこれからゆっくりぐっすり寝たい。
顔見知りのアホなんか相手にしたくないが、背に腹は帰られないというかなんというか…。
「うるせぇ」
「あ、イルカ先生!よかったぁ!」
「よくねぇようるせぇよ。帰れっつったでしょうが!」
「えー?でもした後っていちゃいちゃしたくないですかー?」
「したくないですねぇ。そもそもやりたくもねぇ」
不満げな顔した男とは、最初はある程度まともな会話が成立していた気がするんだが、この所ずーッとこの調子だ。
盛りのついた獣のように、俺が相手をするまで鳴き続ける。
入れたいだのやりたいだのいっぱいしましょうだの…とてつもなく腹立たしい誘い文句を。
やっぱり春だからなんだろうか。
「いっぱい気持ちよくしますよ?」
何でこんなに必死なんだろう。気持ちよくなんてして欲しくもない。
胸もなければ入れられるのは多分俺の方で、その上顔も知らない。
入れ食いでくっちゃすてくっちゃすて出来るだけ女が寄ってくるのに、態々真面目に生きてる中忍で遊ばなくてもいいだろうに。
「あー…まにあってますんで」
心の底からお断りしたつもりだった。
…だが男はそういうなり目の色を変えて…多分怒り出した。
「誰?」
「へ?」
「なぁに?そんな顔しちゃって。大丈夫。殺さないであげてもいいよ?でもちゃんと綺麗にして一杯シないとね」
「は?」
いつの間にか玄関の中に押し入られている。
このまま窓から逃げるか、それとも一発殴るかで迷う間もなく、家の奥から何故か男そっくりの男が…影分身か!
「これしかないよー。ベッドの下なんてベタですねぇ?」
「あー!ちょっ!なんてもんもってきてんだ!し、仕舞っといてくださいよ!」
男が持ち出してきたのはなまめかしい姿の女性が載っている…まあ要するにエロ本だ。
でも俺のじゃないんだよな。預かってくれって妻子もちの同僚に…はいいとして!破廉恥なもの持ち歩くな!鼻血でたらどうすんだ!
「自分でしてるだけならま、いいか。ゴムもなかったみたいだし」
「んー?じゃ、どうします?二人でスル?それともこのまま三人で?」
「あ、の?」
がっちりと拘束されてまくし立てられると、それだけで不安になる。
何する気なんだこん畜生!
「したい」
「俺も」
「じゃ、やっぱり三人で」
にっこり笑って振り向いた男の手には怪しげな液体が握られている。まああれだな。ローションってやつだな。それも支給品だ。
意味がわかりすぎるほどにわかって、思わず頭突きしてやった。
「しねぇよ!」
「「えー?」」
交わされた。そして諦めている様子はない。
「しません。帰れ。俺は眠い」
「イルカせんせ明日お休みだしね」
「寝て元気でてからにしましょうか」
譲歩したつもりなんだろうな。褒めてほしそうだもんな。二匹…いや二人ともそっくり同じ顔して嬉しそうにしやがって…!
…脱力した。
「寝る。帰れ。邪魔すんな。あとその本は預かってるだけだから傷つけたら殺す」
「そ?そうだよねぇ。イルカせんせおっぱい小さい方が好きそうだし」
「こんなポーズよりもっと恥じらい系のが好きそうだし」
好き勝手に俺の好みについて討議しはじめたアホ二匹を放置して、寝室に逃げ込んだ。
結界も張ってやったが、気休めだろう。
…だが相手にして調子に乗らせるよりはマシだ。
「朝になったら…どうあってもたたき出す…!」
その決意を胸に瞳を閉じた。
なんでこうなったんだと少しだけ涙をこぼしながら。
*****
起き抜けに飛びついてきた二匹から一匹になっていたアホをぶん殴り、飯を食わせ、追い出そうとするとしがみついてくるので諦めた。
「しませんか?」
「ええもちろんしません」
「えー?」
一匹になっても鬱陶しさは変わらない。会話の成立しなさもな。
「早く春が終わるといいですね」
そうすればこの男のおかしくなった頭も少しはマシに…なったらいいんだが。
「そうですね。いっぱいしましょうね?」
このアホなんとかしてくれという叫びを飲み込んで、真剣な顔でやりたいやりたいと騒ぐ生き物の口にせんべいを放り込んでおいた。
どうやらしばらくは俺の平穏は戻ってこないらしいことにため息をつきながら。

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適当。
春は一生終わらなかったのでおしきられ…げふんごふん。
ご意見ご感想お気軽にどうぞー

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