引っ付き虫の怪(適当)


 忍としての能力の高さと、人としての中身は一致しないもんだよなぁ。
 他人の家に勝手気ままに上り込んでいついた揚句、上げ膳据え膳も当然の顔で、風呂にも勝手に入るしシャンプーとか身の回りの物も高そうな代物を持ち込んできやがった上忍を見ているとしみじみとそう思う。
 腹立ちまぎれに持ち込まれたシャンプーとか石鹸とか勝手に使ってやったんだが、風呂上りに速攻匂いを嗅ぎに来て、これは怒るかと思いきや同じ匂いがしますねとかへらへら笑いながら言いやがる。
 覆面忍者のくせに俺の家でごろごろしてるときはやたらと整った顔をさらしたまま大あくびしてみせたりもする。膝枕やら耳掃除やら、一方的な奉仕の要求はとどまることを知らず、風呂上りに髪の毛をちゃんと拭かないから畳が湿るのが嫌で拭いてやったら、それからはタオルを俺に押し付けて吹かせるという芸当まで身に着けた。
 生活力ってもんがろくにない。いや、料理や洗濯なんかはできるらしいんだが、一切やる気がないらしい。
 寝床も勝手に持ち込まれてるしな…。それも腹立たしいが、自分のためのものを持ち込んだだけならまだ情状酌量の余地があった。だが俺の年季の入った一人用のベッドを勝手に撤去しやがったんだ。こいつは。  ダブルベッドなんてものをおしこめたら、狭い部屋が余計に狭くなるだろうが。
 しかも俺はどこで寝ればいいんだろうと途方に暮れてたら、その寝心地だけはやたらといいふっかふかのベッドに引っ張り込まれた。それまでは適当に追い返すか、仲間同士で怪我とか病気とかしたとき用に一個だけあった予備の布団に押しこめたらちゃんとそこで寝ていたのに、なんでまたよりによって急に野郎二人で狭い寝床に寝たいと思ったんだろう。毎朝のように俺に巻きついて幸せそうに寝くたれる上忍を見ていると不思議でならない。布団から出ようとするととがめるような視線をよこすから、湯たんぽ代わりなのか。もしかして。
 追い出したいと切実に思う。思うんだがしかし。
「どうじゃ。カカシの様子は?」
「…はぁ。元気そうですよ」
 あれだけ俺の家で傍若無人にふるまえるんだから、元気に決まってる。一度だけ様子がおかしかったときはふんづかまえて服もひっぱいで、隠してた怪我を説教しながら治療してやったことがあるが、最近はむしろ指先をちょっと切っただけでも怪我しちゃったんですって見せに来るからな。説教がよほど堪えたんだろうか?
「そうかそうか!あやつも不憫なヤツでのう…」
「…そうですか」
 不憫…不憫なぁ。確かに家庭環境が複雑っぽいのはぽそぽそ零す言葉を総合すると推察できるが、本人がアレじゃなぁ?
 なにせ三代目に引きあわされてすぐ、本当にその当日に、俺の家に上り込んでたからな。
 あの人の行動原理は今に至るまで理解できていない。
 ただ、俺にとっても祖父のように思っている里長がこんなに嬉しそうにしてるんだ。無碍にできないじゃないか。
「おおそうじゃ。ちょうど良い。到来物の菓子があるんじゃ。茶を淹れてくれぬか」
「はい」
 こうやってお茶を頼むのは、もらい物のお菓子を俺に食べさせたいときなんだよな。本当に子供みたいに構ってくれるから、何でもしてあげたくなるというか。
 …でもなあ。そろそろ家に帰らないのかな。あの人。目的がわからないのに他人が常に家にいるって状況は、流石に消耗する。
 こうやって三代目に何くれとなく気遣われていなければ、軽く蹴りだしてやるのに。
 上等な羊羹と饅頭は、濃い目に入れた茶にしみじみと良く合う。がっつかないように気をつけつつ全部平らげると、三代目が目を細めて俺を見るから、やっぱりじいちゃんを傷つけたくないよなぁなんておもっちまうんだよな。
 …家に帰ったらまたいるんだろうなぁ。甘いもの嫌いじゃなきゃ持って帰ってやるのに。ああこうやって餌付けするからいついたまま出て行かないんだろうか。でもやっぱりそろそろ帰れってことだけはいっておくべきなんだろうか。
「では、またの」
「はい。ご馳走様でした!」
 口の中に残る幸せの味をかみ締めた。まああの幸せな時間の代償と思えば上忍の一匹や二匹ドンと来いってもんだよな。


「ただいまー」
「おかえりなさい」
 おお。今日はめずらしいな。こたつにいない。くっついてきたぞ?飯の仕度が遅かったからだろうか。
「あのですね。今日は…」
「俺が作ったから」
「へ?」
 男の顔をみて、それからコタツの上に並ぶ飯をみて、どうやら幻じゃなさそうだってことは理解した。そういやいい匂いがしてたなあ。何でこんなに品数が多いんだ。なにより…なんだよ料理できたんじゃないか。
 あれか。そろそろ出て行くつもりなのか。これは餞別とかそういう類のものなんだろうか。ほっとしつつもほんの少しだけ寂しく感じたことにも驚いた。
 なつっこい上忍の引っ付き虫のおかげで寒さが少しマシになった。家にいつもいる生き物のおかげで、帰宅しても寒くないし、なんとなく、そう、なんとなくだが、人が待っていてくれる家ってのは、幸せな気分になるもんだろ?
 どういう風の吹き回しかしらないが、食い物は無駄にしない主義だ。冷蔵庫に買ってきた食材を詰め、その間もそれが入っていたビニールにしきりにちょっかいをかけてくる上忍をいなしつつ、食卓についた。
「美味そうですね!」
「爺に負けてられませんから」
「は?爺?」
「俺のは手作りです。しっかり食べてね?」
「…は、はぁ。どうも」
 よくわからんが対抗意識を抱く相手がいるらしい。爺、爺なぁ?誰なんだそりゃ。まあ飯が美味いのはありがたいことだが。しかも自分で作らないでも飯が食えるってのは最高だよな。
「はいあーん」
「え?自分で食えますよ?」
「あーん」
「まあなんでもいいんですけど」
 なんだろう。この必死さは。眉間に深々としわを刻んだまますごむ上忍ってのも珍しい。それも高々飯を食わせるくらいでこの決死の表情。どうしちまったんだ。この人。
 とりあえず口をあけるとすぐに放り込まれた謎の肉を食った。味付けもさることながら質もよさそうなそれに、思わず頬が緩む。
「うめぇ!うまいですね!これ!」
「そ?いっぱい食べてね?」
「え。あ。はい」
 うわーなんだよ。こんな顔で笑えるのか、この人。子どもみたいな人だと思ってたけど、本当に幸せですって顔で微笑まれるとこっちまでつられそうになるじゃないか。
 せっせと食わせてくれる上忍にも飯をちゃんと食うように言い渡しつつ、しっかり自分の分は胃に納めた。美味い飯ってのは、それだけでテンション上がるよな。
「あとは実力行使、か」
「は?なにがですか?任務でつかれてんでしょうが。無理しないでいいんですよ?」
「んー?待てないかも」
「へ?」
 なんか思いつめた顔してるなぁ。めったに顔に感情を表さない人なのに。よっぽど辛いことがあったんだろうか。
 また追い出しにくくなったなぁ。
 困り顔の俺にデザートらしき何かを食わせる上忍から、後でどうにかして聞きだしてみよう。
 その後風呂に引っ張り込まれて信じられないことを色々されることなんて知りもしなかった俺は、上忍の身をひそかに案じておいたのだった。


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適当。
食われてよろよろ⇒三代目に心配される⇒あのー頼まれてた上忍が、その。⇒は?なぜいついておるんじゃ?からの大喧嘩フラグ。

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