「あちゅい」 「あちゅいじゃないでしょうが。ほら邪魔です」 足蹴にされて転がりながら、半分こしたチューブアイスを齧る。 こういうの初めて食べるんだけど、甘ったるい所を除けば中々良くできてるよね。 最後まで冷たくておいしい。 一番甘くないのだからって分けてくれたやつだから美味さも倍増ってもんだ。ちまちま食べつつ、窓が開けられたせいで一気に暑さを増した部屋で冷たさを満喫した。 俺をどかしたイルカ先生が縁側から取り込んだ洗濯物をどさどさと積み上げていく。一度じゃ持てなくて、どんどん何度も部屋にもちこまれるそれは熱気も同時にはりつけていて、気温が更に上がった気がする。耐えられない訳じゃないんだけどやっぱり暑い。 汗っかきですぐ着替えるイルカ先生の着替えと、後は昨日いっぱいしちゃったからシーツとか枕カバーとかもあって、だからこそのこのすごい量だ。 口に咥えたまま洗濯物の前に転がって、微力ながらたたむのを手伝うことにした。 「っし!おわりっと!うーあっちいなあ!…お?手伝ってくれるんですか?でもアンタなんですかその格好」 「イルカ先生が座ってた畳を堪能しようと思ってー」 「あーそうですか。タオルおねがいします。俺は服畳んでしまってきちゃうんで」 大胆にがっしがっし洗濯物の山を崩して、より分けても山をなしている服を畳んでいく。意外と几帳面なんだよね。すぐに着替えちゃうのに、いつもきちんと畳んでしまってある。 タオルはお気に入りの畳み方があるからそれにあわせてきちんと畳む。最初は知らなかったから適当にやって、畳みなおしてるのを見てそれからあわせるようになった。 収納ボックスに収まる畳み方ってのがあるんだって。すまなそうに鼻傷かいて教えてくれたときは、思わず押し倒しちゃったっけ。 タオルなんて適当に洗って適当に畳んで積み上げて、汚れた端からどんどん捨ててく生活してたからなー。任務帰りに使ったやつなんて、毒とかついてるかもしれないからへたに洗うのも危ないし。 イルカ先生の好きなきちんとした生活ってシロモノは、俺にとって非常に興味深いことばかりだ。 「どーぞ」 「ありがとうございます。麦茶、飲んでいいですからね!」 パタパタと足音が響いて、ふすまを開けるシュッという音がして、それからカタカタって少しだけひっかかるのはイルカ先生愛用のたんすの音だ。 音を消さないんだからもちろん気配も殺さない。任務のときは驚くくらい気配が薄い人だから逆にそっちに驚くようになったのはよかったのか悪かったのか。 すごいよね。俺は、普段と任務をあまり区別してなかったんだなって始めて気づいた。 父さんと同じにしてただけだったんだけど、ま、要するに親子そろって色々足りなかったってことなんだろう。 カタン、カタンって音は、もうすぐイルカ先生が戻ってくる合図だ。あのたんすを閉める時は、あけるときより勢いがいるからちょっとだけ音が大きい。 「お茶飲んでいいって言ったでしょうが。暑いんだからちゃんと水分摂ってください!」 「はーい」 そういえばもうアイスもすっかり溶けてしまった。残念。このカラだけでもとっておきたいくらいなんだけど、イルカ先生が汚いからだめっていうんだろうなー。この間半分こしたアイスの棒も駄目って言ったもんね。 台所からパタンって音がしたから冷蔵庫だな。こぽこぽ言ってるのはお茶をコップに入れる音。俺がいかないから入れてくれたんだ。優しい。 イルカ先生は凄く俺を大事にしてくれる。全然全く本人は自覚してないけど。 「お茶、一緒に飲みたいです」 「あーそうですね。俺も汗かいたしなあ」 ほらね。こうやって自分の分忘れちゃうんだもん。俺が汗なんかかいてないの知ってるくせに、心配してくれるんだよね。 こぽこぽがもう一度響いて、お揃いのコップに琥珀色の冷たいのがたっぷり入って並んでる。幸せな光景だ。 「飲んだら水風呂、はいりますか?」 「…はいります」 「そうですか!いやーあっちいからなあ!」 快活な笑顔でシャツをパタパタさせて空気を入れているイルカ先生は、水風呂で俺がなにをたくらんでるかなんて思いつかない。去年も同じことやったのにねぇ。 むしろ熱くしちゃうかもしれないけど、ごめんね? 「さ、いきましょういきましょう」 「はは!そんなに楽しみにしてたんですか?そういや1年ぶりくらいでしたっけ?」 着替えは…あとでいいや。ベッドでもするだろうから。 目前に迫る危険に気付かずにご機嫌なイルカ先生を風呂場に押し込み、ほくそ笑んだ。 俺は最高に幸せだと思いながら。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |