今までなら弱音を吐くなんて絶対できなかったのに。 「疲れたー」 「お疲れ様でした」 優しい手が撫でてくれるようになってから、俺は随分と弱くなってしまった。飯を食わされて、こうやってゴロゴロしてるだけなんて、最高の贅沢だ。あの頃の俺がみたら、多分卒倒するだろう。 父を亡くしてからずっと、怪我だってチャクラ切れだって、寝てれば治るし手当ても適当だった。 でも、正規部隊に戻ってからは、それをこの人がいつも追いかけてきては治療しなおして、叱って、それから多分無意識にだけど撫でてくれるからついついそれに甘えてしまう癖がついてしまった。 ある意味これってしつけられちゃったのかねぇ?調教?ま、それは夜の方じゃこっちも人のこといえないんだけど。俺の名前呼んでいっちゃうのとか、確実に仕込んじゃったよね。まじめな人なのに。 でも、そこまでやっちゃったのも俺に言わせてもらえばこの人のせいでもあると思うのよね。 ちょーっと怪我しただけで大騒ぎしてくれて、それでもちゃんと怪我を見せれば怒られないってことに気づいて、つまりさっさと治療しとけばこの人にたくさん撫でてもらえるし、ついでに酒でも飲ませちゃえばがんばったなとか言ってくれちゃうし、俺はあんたの生徒じゃないですよなんて毒づけば、かわいいなーなんていってくれちゃうしで、こう、ずるずると深みに嵌った感がある。この人は俺を甘やかすのがとびっきり上手い。 好きとかそういう感情を自覚する前に、手に入れなきゃって焦燥感ばかりに支配されて、古巣の後輩たちの手も駆使して外堀をさっさと埋めて、この人があの子をかばうって理由でしょっちゅう怪我してることにも気づいて、しっかり身元突き止めて処分して、全部片付け終わったときに、これまでのお返しにこっちから説教してやろうなんて思っていたはずが、勢いあまってやっちゃったのよねー? うん。流石に我ながら酷い。普通なら八つ裂きにされても文句は言えない。少なくとも懲罰は下ったはずだ。 それなのに、あの人はいきなり牙を剥いた狼にほとんど動じる様子もなく、流石に少しは驚いてはいたみたいだったけど、抵抗なんかされずに本懐を遂げることができた。 逃がさないように捕まえたまま全身余すところなく痕をつけて、ナカにも外にも俺の匂いをそこら中に付けてぐったりした人を抱きしめていると、手に入れたはずなのにどうしても焦燥感が消えてくれなかった。 どうしようもない衝動が苦しくて、いっそ閉じ込めてこの人が色狂いになるくらいまでやり倒そうかなとか、物騒なことを考えていた。 ま、実行に移す前に拳骨一発食らって、飯だ風呂だと指示されるままに素直に世話を焼いてしまって、それから、ちょっとやつれた、困ったみたいな顔で、こういうことはちゃんと言ってからじゃないと本当は駄目なんですよって、子供にするみたいに諭されたんだった。 「ふふ」 「なんですか?思い出し笑いなんかして」 いきなり抱きついても怒らないし、嫌がったりもしない。こうやって誰かに甘えた記憶はそういえばこの人以外にいない。 父さんは強くて厳しくてやさしくて、それから寂しい人だったから。四代目も皆のモノだから触っちゃいけないと思ってたし、かわいそうな子供と思われるのが嫌で、つっぱってたしねぇ? 「好きだなぁって」 「…またそれですか…!」 またとか言いながら、何度だって真っ赤になってくれる人がいとおしくてたまらない。 俺が言う前に、そう言ってくれたのはこの人なのにね。 好きだから、俺はあんたを受け入れましたって、どんな理由で仕掛けてきたかは、ちゃんと言わなきゃは察してやりませんって、すごい台詞だと思う。 あれだけ酷い目にあったのに、かなりむちゃくちゃにやっちゃったダメージは確かに残っていて、顔色だって悪かったし、足元だって怪しかったのに、視線だけは揺るがずにまっすぐに俺を見ていた。 そうやって、言われて気づいた俺も鈍い…というよりも、この人が欲しすぎておかしくなってたせいもあるとは思うんだけどね。 「ん。お風呂入ってきたら…イイ?」 「…そ、そういうことは!聞かずにその…!」 「りょーかい。じゃ、待っててね?」 照れて悶えて何言ってるんだ俺はとか小声でぶつぶつ言っている。毎度毎度なれないよねぇ。そこがたまらなくそそるってことを、いつ理解するんだろうか。 あの人が正気に戻る前に風呂に入ってこよう。正気になると…あの真っ直ぐな目で求められるとめちゃくちゃにしてしまうから。 「…ふふ」 そういうのも楽しいけど、今日は終わった後もいちゃいちゃしたいから我慢しておこう。 勝手な計画を立てるのも楽しくて、鼻歌混じりで風呂場に急いだ。 幸せな夜のために。 ******************************************************************************** 適当。 どっちも相手にかなわないなぁって思ってて欲しいなということで。 お返事滞ってて申し訳ない…! |