祝5(適当)


   散々な目に合わせたのに最後に気持ちイイなんて言って意識を手放してから、まるで子猫のように胸元に張り付いたまま眠り込んでいる。
 それがひどく満足そうに見えるのは、自己弁護のためだろうか。
 緩んだ頬をつつくと口の中で何事か言葉にならないことをつぶやいて摺り寄せてくるから、起こして体を拭くべきだとわかっているのに動けないでいる。
 後悔はない。今更できない。
 自分が疫病神のろくでなしだということは、嫌ってほど理解している。
「ごめんね?」
 届かないだろうと知りながら囁いた薄っぺらい謝罪を咎めるように、腕の中のイキモノは顔を顰めた。かわいそうに思うのに、手放す気は更々ない。自分でもこの気の代わりぶりは驚くほどだ。
 そのままぎゅうぎゅうしがみついてくるから余計に手放せなくなる。なーんてね。言い訳ばかり上手くて堪え性がないなんて知ったら、この子は驚くだろうか?随分とこっちを美化していた気がするからそこは少しばかり心配かもしれない。
 それでもほだされてもらっちゃうつもりだけどね。どんな手を使っても。
 流石に裸のままだと風邪を引くかもしれない。俺はともかくとしてこの子は普通の子だから。ちょうどよく寝がえりを打ってくれたから後ろ髪を引かれる思いを押し殺して、ベッドの下で蟠っていた布団を引っ張り上げた。ほんの少し離れただけなのに落ち着かないって、ホントどうしちゃったのかね。俺は。
「うー?いない。どこ?」
「いるよ。ここに」
「へへー!なら、いいや…」
 ちょうどいいから風呂に入ってこの子を拭くつもりだったけど、これじゃ無理だねぇ?こんなにしっかりしがみつかれたら動けない。
「どこにも行けなくなっちゃったから、ずっと俺を待っててよね?」
 脅迫染みた独白に応えるように、小さな声がうんと言ってくれた気がした。
*****
 朝は毎日快調なのが常だった。いやなことがあったって、飯食って風呂入って寝ればたいていこのとは忘れてしまう。頑丈な体質に生んでくれた両親のおかげで、怪我や病気もちょっと休めばすぐに元気になれたんだ。
 それなのに、これはどういうことだろう?
「お、おお?なんだ?パリパリする?え?おおお?」
 まずもって体の違和感が凄い。皮膚に何かが張り付いて引き連れる感触がするし、腰とか人に言えないようなところとかが痛い。後は一番スゴイことはだな。
「おはよ。起きた?動ける?」
「えと、はい!」
 抱き枕宜しく抱き込んでいた人は、寝起きだってのに素晴らしくきれいな顔で心配そうに眉をしかめている。
 それで、その。素っ裸だ。俺もだけどこの人も。そりゃそうだな。昨日、っていうか、夜、俺は、あの腕の中で。
「真っ赤。熱出ちゃった?無理させたから…ごめん」
「いやその、俺は頑丈な方なんでだいじょう…ぐえ!」
 状況を飲み込み切れないでいるのに、間近でこの顔がどんな風に笑ったか、恍惚とした表情で俺の名前を呼んだか、腹の中に残されたモノの存在までリアルに思い出してしまってとっさに体が逃げを打った。…そのままベッドから落ちかけるってことまで考えもしないで。
「ああほら!無茶しないの!…お風呂入ろ?一緒に」
「ふげ!え?一緒?え、あの…?」
「大丈夫。落としたりしないから」
 挙句抱きあげられてるっていうのはどういうことなんだ。
 そりゃ俺がいくら重くても、この人なら平気だろう。現役暗部だし、俺の脚とかおもちゃみたいに軽々と扱ってくれてたもんな。
 いやいやいや。今はそういうことじゃなくてだな!朝だ!飯だ!まあその前に風呂ってのは必要なことかもしれないけど!
「い、一緒に入るんですか…?」
「イヤ?でもほら、洗えないでしょ?こことか」
「ひっ!」
 いつの間にやら風呂場にいるし、尻に指を突っ込まれている。困らせたいわけじゃない。誓って言うが絶対にこの人には笑っていて欲しいんだ。でもだな!尻はダメだろう尻は!
「ん。切れてはいないかな。痛むようなら薬もあるから」
「ふぁ、い」
「したくなっちゃいそう」
「…無理です」
「ん。今はやめときましょ。ごはんが先ね?」
「は、い」
 難を逃れたのかそれとも先送りにしただけなのか、いやむしろこのまま流されかけたのを止めてくれたんだから…ああもう!考えたってしかたねぇ!
「お湯入れといたから」
「背中流します!」
「うん。今度ね?」
「え?いやでも!」
「ん。いいから今日はゆっくり休んでね」
 休むって、それはどうなんだ?俺としてはこの人にくつろいでもらうべき色々する予定だったんだが。
「せめてなんか飯は無理だけどできること…!」
「うん。あんまりかわいいこというと襲うよ?」
「え?」
 顔は笑ってるのに目が。飢えた獣の目のように光っているように見えて思わず抵抗を忘れた。
「綺麗にしとこうねー?」
「うぅ…はい…」
 結局、流されるまま洗われることに確かに抵抗があったはずなのに、変なとこを洗われたときは大変だったけど、他は結局気持ち良すぎてしっかり堪能しちまったってのがなー…。
「さっぱりしたからごはんにしよ?」
「次は!俺もがんばりますから!」
「ふふ。うん。楽しみにしてるね?」
 悔しさからリベンジを誓った口を当たり前みたいについばんでいく唇に、そんな気合さえ奪われそうで恐ろしい。
 くっそう!負けねぇぞ!その、なんだ。俺じゃできることは少ないけど、ちょっとでも俺んちにいて楽しいって思わせてやるんだからな!
 心からの誓いを知ってか知らずか、誕生日プレゼントになってくれた人は、鼻歌交じりに台所に消えていった。

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適当。
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いちおうこのへんで。かかたんまでいるたんだといいはっておきます。

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