祝2(適当)


 あの頃からよく笑うしよく泣くし、コロコロ表情を変えては転げまわって遊ぶような子だった。チビのくせに優しくておっちょこちょいで隙だらけで、怪我した怪しい子供を平気で家に上げて手当しちゃう奴なんてそれまで見たことがなかった。挙句痛いよなって、自分まで泣きそうになっちゃうなんて、びっくりしすぎて何も言えなかったっけ。
 猪突猛進タイプっていうか、思い立ったが吉日生活してるっていうか、俺が任務に復帰するって決まってもビービー泣きわめいて、絶対に帰ってこいとか、弱っちい下忍のくせに平気で言って来てたし?
 見たことのないイキモノへの対処に困って、無理だよの一言しか言えなかった俺も今思えばどうかと思うけど、それにもめげずにじゃあせめて誕生日を祝えって、そんな啖呵を切って見せたとこも、今思えば凄いよねぇ?
 もっとずっと先でもいいから、絶対に生きて帰ってきて祝えって、鼻水垂らして泣きながら絶対だからなって、ものすごく真剣な目で言うから、頷いてしまった。
 どうせ記憶を消してしまうなら、こんな約束もなかったことになるって、バクバク騒ぐ心臓には気づかないふりをして。
 …結局忘れることなんてできなかった。
 久しぶりにあったら背も伸びて中身も大分育ってたのに、やっぱりそういうところはかわってなくて、全部忘れてるはずなのに祝ったら大喜びしちゃうところとかも同じすぎて、その頃と決定的に変わっていることのおかげで耐えるのに苦労した。
 素直でかわいいあの日のあの子はもういない。それから拗ねてひねて色々こじらせていた俺ももういない。
 もっと欲に満ちた思いに気づいてしまったから、近づくのはマズイって自分で理解していたのに結局は我慢しない道を選んだ。
 お祝いに食べたって料理をずっと忘れられずにいて、再現しただけで泣きそうになっちゃうなんて、ホントにこの年まで無事でいてくれたことが奇跡のようだ。
 一度も会わずに噂さえ聞けないくらい暗い闇の中にいた俺にとって、あの思い出は眩しすぎて、だからこそ記憶の底にしまい込んで忘れてしまおうとしたはずなのに、少しも色あせずに鮮やかに甦って、泣きながら約束だと笑ったあの夜を幾度も繰り返した。
 あの子に、会える。全部忘れていても、忘れさせたことすら思い出せなくてもいい。
 降ってわいた長期休暇がこの日に重なったのはいっそ運命だと信じ込みたかった。
 約束を果たすことはできたから、そこから先を望もうとするのは強欲だ。知っていてももう引き返すことはできそうもなかった。
*****
「ケーキもうめぇ…!」
「そ?良かった。プレートもちゃんと食べてね?あ、歌、歌うんだっけ?」
「あ、そういや普通に食っちまった!」
 はいどうぞとイチゴの乗っかったケーキを見せられて、あれだけ食った後だってのに思わず唾を飲み込んだら、ささーっと切ってくれちゃったんだよな。
 …意地汚いって思われたよなー…。嫌われたくないのと、お祝いしてくれたのに無碍にしたようで落ち込みかけてたら、ものすごく自然に撫でてくれた。
「俺、ね。歌知らないの。だから今度教えて?」
「はい!あ、そうだ!あなたの誕生日にお祝いさせてください!」
 そういや名前も知らない。いや教えられないのかもしれないけど、ケーキ買ってくるくらいはできるはずだ。後は料理はあんまり得意じゃないけど、飾りつけ…って、子供っぽいか?この人がどんなのが好きかちゃんと前もって聞いておかないと。
 俄然張り切りだした俺に、いきなり笑い出したのは驚いたけどな。
「…くくっ!変わってないねぇ」
「へ?え?そうです、か?」
「ま。いーや。今度こそ約束、ね?」
「はい!あとケーキどんなのが好きですか?料理はあんまり得意じゃないけど頑張ります!」
 精一杯の宣言にも穏やかな微笑みは揺らがなかった。あの儚げな様子も。
 …駄目だ。もっとちゃんとこの人に伝えたい。このままどこかに行ってしまいそうなこの人をつなぎ留めたい。
「ん。予定ちゃんと空けておくね?」
「任務とか入ったら、別の日でもいいから絶対にお祝いします!」
「…うん」
 握りしめた手があったかくて、そのまま顔が自然に近づいてきてくっついても、何が起こったかしばらく理解できなかった。
「…え?」
「クリームついてたよ?」
「え!ありがとうございます?」
 唇に唇がくっついた…ってことはこれはその、ええと?いやでもクリームが?
 疑問符が乱舞する頭をそのままに、機械的に入れてもらったばっかりのコーヒーを飲みほしていた。熱々で美味い。香りも俺が普段飲んでるインスタントとかと違ってる気がする。
 いやコーヒーの味じゃなくて、今は何が起こったかを考えた方がいいんじゃないか?いやでも?クリームが?
「コーヒー、お代わりいる?」
「あ、いただきます!ケーキもめちゃくちゃ美味いけど、コーヒーも美味いです!」
「そ?良かった。ケーキはこれで良ければまた作るね?」
 驚愕すべき新事実がまたも…!これも、手作りなのか。もしかして。
 驚きと美味さに打ち震えている間に、忘れちゃいけないはずのことまで記憶から抜け落ちてしまったことに気づかなかった。
 風呂場で背中を流してもらって、一緒の布団に収まるまでは。

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適当。
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まったく近日中じゃなかったうえにもうちょっとだけ続く予定です。新居のネットつなげるのに手間取りました。

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