祝(適当)


「おいおめぇその格好でうろちょろするんじゃねぇよ!」
 昔馴染みが、乱暴な口調とは裏腹に気遣いが細かいことをよく知っていた。
 慌てたように結界を張った辺りも流石っていうか、いいやつなんだよね。
 処罰されるほどのことじゃないだろうけど、正規部隊しか使わない上忍待機所に、暗部装束で紛れ込めばいらない混乱を招く。例えばいきなり悲鳴を上げられたりね。
 それだけ忌避される理由のある連中が揃ってるってことだ。…その筆頭にいる俺がこんなところにいちゃマズイんだよね。知ってる。それに周りが騒ぐことを気にしてるんじゃないことも。
 俺がそうやって騒がれて傷つくんじゃないかって、気にしてるんだよね。外見に似合わず繊細なヤツだから。
「俺にも誕生日を祝う資格ってあるのかね?」
 煙草を取り出しかけていた髭の大男は少しだけ驚いて、それから深い深いため息をついた。
「そらあるだろうよ。誰にだってな。いちいち自分を卑下すんじゃねぇよ。めんどくせぇヤツだな」
 体格ではまだ負ける。戦闘だと…どうかな。俺の方が強いかも。血統的には最高なんだけどね。こいつは。気が良すぎるっていうのか、なんだかんだで坊ちゃん育ちなのもあるかな。
 だから、多分こう言ってくれるって俺は知っていた。
「ありがとね」
「あーあー。礼はいいから、お前の誕生日、九月だろ?」
「うん」
「予定がねぇなら酒盛りに付き合え」
「うん。そうね。…もしも予定がなかったら」
 素直に頷く俺に髭はまたため息をついた。ま、任務ばっかりしてるから、予定がなかったらって答えにひっかかっちゃったのかも?なんだかんだでこいつに会うのだって何か月かぶりだもんね。
 いいやつなんだ。それを利用しているってのに罪悪感がまるでない俺は、やっぱりどこかおかしいんだろう。
 でも、それでも、そのこのお人好しのちょっとだけの勘違いが俺には必要だった。
 火影の息子のお墨付きなら、多分あの里を統べるにしては優しすぎて時に優柔不断にもなるあの老人も、そう強くは言えないだろう。
「じゃあな。俺はいくぞ」
「うん。ありがと」
 ぶっきらぼうに去っていく姿を見送って、決めたはずの覚悟が揺らぐのを何とか押しとどめた。せっかく後押ししてくれたのに無駄にできないでしょ?それが例えある意味だまし討ちに近い行為だったんだとしても。
 ちょっとだけでいいから、今日だけだから。だから、ねぇ。許してね?
 青空はどこまでも澄み切っていて、まるで今日という日を祝福しているかのようだ。
 あの人の生まれた日だから。
「ごめんね」
 誰にも聞かせるつもりのない謝罪が面の奥に響いて消えた。
*****
「んあ?重い…?うぅ?」
 久しぶりの休暇はたっぷり寝て過ごすと決めていた。なり立て中忍にとって休みってのは貴重だ。休む間もなく任務をこなし、経験を積んでいく。そうやって強くならないとあっさり命を落とすことだってあるからな。
 それに今日は俺の誕生日だ。祝ってくれる人は声をかければいたんだろう。でもそれはしたくなかったから、今日はずっと一人でいるつもりだった。
 誰かと過ごすのは楽しい。でも楽しさの分だけ家に帰ってしまったあと寂しくなる。
 それなら、一人で休みを満喫するってのも悪くないって今年になって初めて気づいたんだよな。あとはできれば慰霊碑にも行って久しぶりに父ちゃんと母ちゃんに挨拶して、それから、一楽のラーメンのスペシャル大盛り全部乗せかな。それから、ええと。夢は膨らむばかりで、久しぶりに時間を気にしないで眠れることも嬉しいのに、眠気に浸りきれない。
 重い。なんだ?任務に追われて布団を干したのは結構前だから、しけっぽくなってるのか?それにしても流石におかしい。昨日寝たときはそんなに重さを感じなかったのに。
「うぅ…?」
 眠気はまだしっかり居座っていたものの、重さに耐えかねて目を開けた。…開けてしまった。
 速攻で後悔した。仰向けに寝っ転がってた腹の上に、何かがちょこんと座っている。サイズ的にはちょこんなんてかわいいもんじゃないんだが、なんていうか、座り方が。
 よくしつけられた犬のようにそろえた足の間に手をついて、きちんとお行儀よく座っている。
 犬なんかじゃ絶対にないイキモノが。
「おはよ。ああそれから。お誕生日おめでとう」
 知らない人だ。人っていうかお面。これ犬か?狐?いやどっちにしろ人んちに朝から上がりこんでる意味が分からない。わからないが重大な何かが起こってるんだってことは分かった。
 だってこの人暗部だ。
「…ああああの?なんかあったんですか?まさか里に敵が!?」
 暗部がうちにいる理由をそれ以外思いつけなかった。金もなければ暇もない。ほどほどに散らかった家には、暗部がわざわざ奇襲をかけてくるような獲物は一つもないはずだ。
 それから暗部は秘匿すべき情報量の多さに比例して、姿を隠す。戦場ならまだしも里内で姿をみることなどほとんどない。
「ううん。あのね。お祝いしたいんだけどいーい?」
「は?何のですか?」
「誕生日なんでしょ?今日。火影様から聞いたんだけど」
「え、ええ。まあ」
 誕生日なのは本当だが、火影さまから聞いたってのが何でなのかわからない。
「じゃ、お祝いしていいよね?」
「ええと、その」
 異常事態に遭遇すると、却って冷静になるもんだな。
 お祝いを火影様から聞いたってことは、何かと気にかけてくれる三代目が気を遣ってくれたのかもしれないよな。そうであって欲しい。それ以上考えるのが怖い。それならもしかしなくても任務扱いなんじゃないか?多分?そうであって欲しい。
「ダメ?」
 クルンと首をかしげるその仕草はどこか子犬を思わせる。愛らしい。いやそんな馬鹿な。
 とりあえずこの人は無害だ。多分だけど今のところは。シーツを握りしめる力が強すぎて引っ張られたところに爪痕が残りそうだ。なんか、なんでこんなに必死なんだろうこの人。顔は見えないのに不安そうな気配だけは伝わってきて、それに気づいてしまったら無下にできなかった。
「お祝い、ありがとうございます」
 お礼を言って帰ってもらおう。じいちゃんの依頼だったら後でお礼の前に文句を言ってやればいい。
 そんな浅い考えはあっさり覆された。
「よかった。ラーメン好きなのは知ってるんだけど、お祝いのごちそうにはちょっとと思って」
 寝室のドアを開けると台所兼居間にちゃぶ台があった。いつも通りのぼろっちいそこに、何故かあふれんばかりの食い物が並んでいる。
「お、おお?」
「ケーキもあるから。乗り切らなかったんだよね」
「ふへ!?」
 美味そうだ。そりゃもうとびっきり。でもそういう問題じゃないよな?お祝い。これは確かにまごうことなきお祝いメニューだ。ちらし寿司にから揚げにポテトサラダ。味噌汁付きってのもありがたい。父ちゃんが、母ちゃんが作ってくれたのとそっくり同じのそれに思わず幻術でもかかってるんじゃないかと疑った。
「食べてくれる?」
「は、い」
 よく見ればいつの間にやらエプロンまでしている。膝をこっそりつねってみたが、痛みは確かにある。ってことは夢じゃない。
 震える手で箸をとり、勧められるままに口にしたから揚げは揚げたてらしくあつあつでサクサクだ。
「ど?」
「おいし、いです」
 不安そうな問いかけに、涙腺が緩みそうになるのを押しとどめるのに精一杯だ。
 なんでこの人がって疑問は少しも解消されていないのに、そんなことはどうでもよくなっていた。
 味は多分ちょっと違う。父ちゃんの作ったから揚げはもっと切り方がおおざっぱででっかいのとちっこいのがぐちゃぐちゃに混ざってたし、母ちゃんの作ったポテトサラダは人参をちまちまほじって残す父ちゃん対策にがみじん切りだった。でも、美味い。料理もだけど、それだけじゃなくてこの空間が。
 失ってしまった日常を思い出させて胸が苦しい。
「よかった」
 面をしているから表情なんてわからないけど、笑ってくれた気がして、それが嬉しくて、だからつい、何の気なしに言っちまったんだ。
「一緒に食べましょう」
「え?いいの?」
「もちろん!」
 モノを食うってことは、口元をあらわにしなきゃいけないってことを俺はすっかり忘れていた。
 ぽいっと無造作に放られた面の下から、えらくきれいな生き物が素顔をのぞかせるまで、それがどういう意味を持つのかすら気づけないでいたんだ。
 暗部の素顔を見るってことはつまり、里の機密に触れることでもあるってのにな。
「んー。まあまあ?おいしいって言ってくれて良かった」
「そ、の、あの」
「え?ああ、ケーキ?もうちょっとこっち食べてからね?甘いモノ好きだもんね。あ、そーだ。コーヒーも紅茶もあるよ?どっちがいい?」
「こ、こーひーで」
「りょーかい」
 笑顔がまぶしい。なんていうか美人?いや男だけど、めちゃくちゃ器量よしだ。暗部ってのは顔採用でもしてるんだろうか?口元を隠す布をあっさり下げたのにも驚いたけど、その素顔がとびっきりってのは心臓が一瞬止まるほど驚いた。まあ片目は額宛で隠れてたけど、片目だけでもすごい美人だってのは分かる。
 ただ心臓がバクバクするのはそれだけじゃなかった。暗部の素顔を見たものは記憶かその存在を抹消されるって確か聞いたような…?
 でも、この人からはそんな悪意は感じられない。なら記憶を消されるのか?このあったかい空間を忘れてしまうなんて…想像しただけでぞっとした。
 自分でも気づかないうちに飢えていたんだろうか。だからってこの人を責める資格なんて俺にはないのに。
「…あの!ええとですね!お祝いありがとうございます!」
 言えたのはたったそれだけ。それでも零れるような笑みを浮かべてくれた人に、どうしようもなく嬉しくて、それを失うのが怖くてたまらなかった。
「ん。良かった。あのね?いらないって言われたらどうしようって思ってたのよ」
「そんなの!ありえねぇ!いやその。すっごく嬉しいです!」
 困ったように笑う姿は穏やかで、でもどこか寂しそうで、守ってあげたくなる。なんつーか。母ちゃんみたいで父ちゃんみたいな人なのに、すごく強いはずなのに、儚げ?っていうのか。こういうのを。
「喜んでくれてありがと。ね、他に欲しいモノってある?ご飯とケーキだけってのも寂しいかなって。でも何が欲しいかわからなかったから、教えて?」
 頭を撫でてくれた。ずっとずっと昔にそうしてくれた人たちはもういない。じいちゃんだって俺だけのものじゃない。それにこの人だってきっとすぐにどこかへ行ってしまう。
 …魔が差したのは多分寂しかったからだ。
「…俺んち、住みませんか?」
「え?」
「俺、料理は全然できねぇけど、掃除とか洗濯とかならできるし、あとは、ええと、壊れたもんを修理するとか、あとクナイ研ぐのも得意です」
「そうなの?研ぎ師に頼まないのって今時珍しいよね」
「そうなんです。便利です。トラップも割と得意で、変化もじいちゃ…三代目が一瞬ひっかかるくらいには得意です。…ダメ、ですよね?」
 欲しかったのは一緒にいてくれるだれかで、でも誰でもいいって訳じゃなくて、この人が寂しそうに見えたのは俺の願望からくる錯覚かもしれなくても、我慢できなかった。
 めちゃくちゃなわがままだ。誕生日だからって、多分任務扱いかなにかでここにきている人に、とんでもないことを言い出してる自覚はあった。
 一度だけのチャンスかもしれないと思ったら、逃げるよりぶつかっていくのが男ってもんだ。父ちゃんだってそうやって母ちゃんと結婚してもらったって聞いている。
 この人も男だけど、なんかこう放っておけないし、側にいて欲しい。
 混乱した頭が紡ぎだした言葉は支離滅裂だったのに、暗部の人はやっぱり優しかった。
「…あの、ね?俺はこの格好でわかると思うけど、しょっちゅう里を離れるし、いつ死ぬかわからないんだけど、それでもいーい?」
「え!」
「やっぱりだめ?それなら別に無理しないでいいから」
 眉がへにょんと下がって、諦めに瞳が濁る。あんなにきれいな目をしていたのに。
「無理とかじゃなくて、いいんですか?これ、任務かなにかですよね?それなのに…」
「んー?ま、任務とかじゃないんだ。ただむかーしむかしに約束したから。あ、でもそれだけでお祝いしに来たんじゃなくて、迷惑かなーって不安だったんだけど、大丈夫だって言ってくれた人がいたから」
「そうなんですか!」
 そうか。約束ってもしかして父ちゃんか母ちゃんのどっちかだろうか。どっちでもいいけど感謝しないといけない。それから大丈夫だって言ってくれた人にも。
「で、どうする?無理してない?」
「してません!あ、ベッドは狭いけど布団とか買ってくるんで!」
「うん。狭くてもへーき。一緒で嫌じゃない?」
「平気です!任務だと雑魚寝だしなれてます!」
「そ?」
 一瞬不穏な気配が放たれた気がしたけど、次の瞬間には元の笑顔に戻っていた。
 この人と一緒に暮らしていけるんだ。これから。
 そう思うとふわふわして地に足がつかないというか、落ち着かない。いやな気分なんじゃなくて、嬉しすぎてどうにかなりそうだ。
「へへ!よろしくお願いします!」
「こちらこそ。よろしくね?イルカ」
 ほっぺたをピンクに染めて俺の手を握ってくれた人は、すごくうれしそうに笑ってくれた。

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適当。
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なりたて中忍はたいそうちょろかったりして。続きはできれば近日中になんとかしたいです_(:3」∠)_

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