羽根布団(適当)

寒さに耐えかねて羽根布団をもう一組買った。
度々人の家に転がり込んできて気絶するように眠る男のせいだ。
顔見知りというのも憚られるほどに、この男のことなど殆ど何も知らない。
確か最初は…暗部装束で転がり込んできて気絶されたのが切欠だったか。
明らかに意識のない男をその辺に転がして置けるほど俺は図太くもなかったし、里のために働いてくれた男を無碍にもできず、ベッドを譲ってしまったのだ。
今思えば医療班にもで任せてしまえばよかったんだ。
だがその時は怪我も毒や術の気配もない男の弱弱しいチャクラからして、力を使い果たしただけだろうと踏んで、寝かしつける以外の方法をまるで思いつかなかった。
味を占めたか、単に丁度力尽きる所に俺の家があるのか、それ以来ベランダやドアの前に転がる男を幾度となく回収する羽目になった。
目覚めた男に危ないからせめて屋根のあるところで倒れろと言ったら、今度は家の中で丸まって待っているようになった辺りで、俺は自分がとんでもないことを言ってしまったんだと気付いたが後の祭りで。
いつ来るか分からない闖入者は結構な頻度で俺の家に勝手にもぐりこむようになってしまった。
体格のほぼ変わらない男を担ぎこむよりは、室内にいた方が幾分楽だ。
それを多少の慰めにして、日々意識のない男を介護…というには大雑把すぎるにしろ、一応は面倒を見てきた。
飯を作り、男が意識を取り戻したらすぐに食べられるようにそばにおいてやり、目を覚ました男がふらふらと風呂に入るのを見送って、着替えをそっと放り込む。
段々慣れてきた男は、すでに顔も隠さなくなって久しい。
むしろ大人しく食卓に座って俺が飯を与えるのを待っているところなんて、犬みたいに見えるほどだ。
それをみて、ああやっと座れるようになったんだなとホッとする辺り、自分も相当毒されている。
奪われる寝床の代わりに、今までは毛布に包まって何とかしのいできたが、流石に里内でそこまで無理をする意味はないだろうと思い立ったのは数日前のこと。
何かと物入りな年末に安くはない出費だったが、入念に選らんだお陰で思ったよりは安く手に入れることができた。
多少。いや大分変わった色柄のものにはなったが…模様なんてカバーかけちまえば気にしなくていい。寝床として必要なのは暖かであることだけだ。
本来なら追い出してやりたい所だが、相手は意識を保てない程身を粉にして任務をこなしているのだ。無碍に追い払うこともためらわれた。
この所居座る時間が長くなっていることが気にはなるが、よほど任務が忙しいのだろう。
男を寝かせたままの万年床の横に真新しい羽根布団を敷き、俺もそこに身を横たえた。
新品を使うことくらいは…家主の特権だ。許してもらおう。
布団の上げ下ろしが面倒で買ったベッドを占拠しているのは、転がり込んできた男の方なのだから。
まあ、布団を買ったときにはすでに男がベッドの中に納まっていて、わざわざそれをひっぺがすのが面倒だったとも言う。
「あーあったけー。へへ!」
やはり流石に新品だけあって羽毛がヘタっていない。
それまでに寝床が酷すぎたというのもあるが、ふわりと体を包む軽く暖かい布団に思わず頬が緩んだ。
「…あ」
隣の自分の古巣から聞こえた小さな声は、どうやらそれに反応したものらしい。
…流石に不味かっただろうか。一応は上司というかなんというか…確実に俺より実力があり階級も上である男より上質の寝床に眠るのは。
忍の目でみればこの程度の闇でも、こちらを見つめている男の顔くらいは簡単に分かる。
でも、なんであんなにしょぼくれた顔してるんだ?寂しそうというかなんというか…。
「えーっと。…布団、交換しますか?」
本当ならこのまま寝てしまいたい。
他人がいるという環境には多少なれたとはいえ、元々ずっと一人でいた。
任務でもないのに誰かの世話をするという環境に、少し、いや大分疲れているのは確かだ。
でもあんなにしょんぼりされるくらいなら…寝床を諦めてやるほかないだろう。
「交換…?」
「違うんですか?そっちも一応羽なんですが、これの方が新しいんです」
元々万年床ごともらった布団だ。
年季は相当入っている。
「違う。そうじゃなくて。…ねぇ。やっぱり一緒に寝るのはいや?」
「へ?一緒に?」
「だって、さむい」
「…湯たんぽ足りませんか?」
「湯たんぽじゃ足りない」
こくりと頷いた男が欲しがっているのは人肌というか…多分寂しいんだろうと分かってしまった。
時々じーっとこっちを見ているときがあって、その理由が分からなかった。
…寂しいと言えなかったのか自覚していないのか。
とにかくこのまま放っておいたらずっとこの男は眠りもしないだろうという予感がした。
「えーっと。じゃ、こっちきますか?」
自然とそう口にしていた。
「うん」
未だ体調が十分といえないらしい。
もそもそと布団からずり落ちるようにしながら俺の新しい寝床にもぐりこんできた。
「…あったかいでしょう。これ。新品なんです」
「ん。あったかい」
ぎゅっとしがみ付かれてなんだか子どもを相手にしているような気分だ。
あんまり必死にすがりついてくるから、だからだ。きっと。
…自分まで妙にその温もりに安堵したのは。
「寝ましょう」
「ん。寝る」
大き目の布団を選んで置いてよかった。
大の男二人がぴったりとくっついて眠るのには多少窮屈だが、こうしてくっついていれば何とかおさまることができる。
「あったけー…」
うん。やっぱりあったかいと気持ちイイ。それに眠い。
寒いとどうしても眠りが浅くなるもんな。
「…ちょっとずつ、かな」
頬を擽るやわらかい何かが口にまで触れて、それから男が笑っているのは感じた。
でもそんなことより久々の温もりが心地よくて。
「おやすみなさい」
「ん。おやすみ」
緩やかに眠りに落ちる寸前、男が小さな声で何か呟いたような気がした。
「同棲しても全然平気な顔してるんだもん、こうなったら覚悟してもらわないとね?」


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適当。
ねむけがさいきょうすぎる。
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