かじりついた肉の甘さに、歓喜で思考が飛びそうだ。 「っ…!」 悲鳴とも吐息ともつかない掠れた音を吐き出す喉に舌を滑らせて、ソレにさえ感じ入ったように震える体を抱きしめた。 「ん、痛かった?」 血が出るほどではないけれど、薄赤く痕を残した箇所はいくつもあって、己の執着の強さを思い知らされる。 俺のつけた印だらけで熱い吐息を零す姿に、ゾクゾクするほど興奮した。 こんなにも欲しくてたまらないのに、どうしてこの人は俺じゃないんだろう? いつか…もしかしてどこかに行ってしまったりしたらどうしたらいいんだろう? 奇妙にねじれた思考に浮かされながら、残した痕一つ一つにキスを落とした。 「…っあ…っ!ふぁ…!」 甘い声。 脳髄まで全部融かされてしまいそうだ。 …ああ、本当に融けてしまいたい。 そうしたら、この人の中に全部俺を注ぎ込んで、俺を脅かしてきた恐怖から逃れることが出来る。 …もうあんな風に怯えなくて済むのなら、それも悪くない。 大切な人はいつもいなくなってしまうから。 だからずっと大切な人作らないと思っていた。 誰も俺の心に響かなかったし、誰かを大切だと思うことをやめてからの方がずっと任務が楽だった。 作られる屍の山は、俺にとってはただのモノでしかない。 …その一人一人を待っていた誰かがいるのだとしても。 それなのに気付いたらもう好きになっていたんだ。 望んだことなどなかったのに。 ***** 最初のきっかけは目が合っただけだ。 視線が合った瞬間に、何かが俺の中を走り抜けてぞくりとした。 にこやかに微笑む人は会釈して遠ざかっていくのに、その姿から目が離せないのだ。 今でもあの恐怖を覚えている。 自分が得体の知れない衝動に支配されていく、あの恐怖を。 温かい声は彼に群がる子どもたち向けられたものであるのに、それが向けられるのは自分であるべきだとさえ思った。 あんな風に…誰かに触れさせるなんて、許せないと。 恐ろしいほどの欲望に支配されていく己を自覚しながら、とめることができないコトに怯え、距離をとり、全てをなかったコトにしようとしたのに、結局はダメだった。 あの日は、吐息が白く濁るほどに冷え込んでいた。 ぴょこぴょこ歩く頭を見かけて思わずその手を掴んでしまったのは、思考すらも凍りつかせそうなほどに寒かったせいかもしれない。 吐き出される吐息さえ惜しいと思うほどの執着をやり過ごせなくなる位には。 任務帰りでどろどろに汚れた服の男に、いきなり拘束されて、警戒の一つもするだろうと思ったのに。 「へ?あ!カカシさん!寒いですねぇ!…任務帰りですか?ああ、こんなに冷えて…」 握り返された手は、こんなにも寒いというのに温かくて、その時俺は自分に白旗を上げた。 「…好きなんです。もうこんなに温かい手、他の誰にも分けてやらないで?」 無茶苦茶な申し出に目を白黒させているのが可愛らしくて愛おしくて、同時に全部俺のモノにしたいって衝動も抑えきれなくなって。 「え、えーっとですね。手は、多分生徒には触ります。でもあの!…俺も、好きです!」 戸惑ったのと喜んだのとをないまぜにした表情で、そう言ってくれなったら、俺は今頃この人を鎖で繋いでどこかに閉じ込めていたかもしれない。 今も、こんなにも我慢ができないほどなのだから。 ***** 「全部一杯にしちゃいたいなー…?」 俺自身を食むソコは熱くて狭くてたまらないほど俺を欲情させる。 この中から出て行きたくない。 …そんなことが不可能だって分かってるけどね? 「すれば、いいだろ…!こんな痕つけて、散々ヤッても足りないなら…好きなだけ俺をくれてやる。だから…」 潤んだ瞳の恋人に胸が痛むのに欲情した。 「アンタは、俺だけ見てればいい」 組み敷かれながら真っ直ぐに俺を射抜く瞳に、湧き上がる衝動を堪える気もなくなりそうだ。 だが、そうか。俺がこの人には俺だけを見て欲しいのと同じくらいに、この人も俺を欲しがってくれているってことか。 そんなの、頭がおかしくなる位嬉しいに決まってる。 「イルカせんせ…せんせも、俺のことだけ見ててね…?」 ぐちゅりとあわ立ちながら零れ落ちていく白いものに構わず、凶器のように反り返ったモノで散々に突き上げて、それこそ好きなだけ愛しい人を貪ることにした。 どうやってもきっと安心なんて出来ないけれど。 …この男前な恋人に、一生捕らわれていたいと思った。 ********************************************************************************* さむいよ。 なんだかさむいとおなかがへるよ。 …という感じで出来たという話でした。 |