こくはくのかたち(適当)


だって好きなんだもん。しょうがないでしょ?
見てるだけじゃ足りない。一緒にいるだけじゃ足りない。そんなんじゃもう我慢できない所までこの思いは膨れ上がってしまった。
…ま、こんな目にあわせちゃった本人は、毛の先ほども納得なんてしてくれないだろうけどねー。
「もが!むぐ!うー!」
猿轡をかませて口から漏れる吐息すら口付けて吸い取ってしまいたいくらいだけど、ま、それは危ないからまた今度にしよう。
舌噛み千切られるのはちょっとね。まだ困る。いいたいこともいえなくなっちゃうのは、あともうちょっと先じゃないと駄目。
だって、なにも告げずに逝ってしまうなんて、サイテーでしょ?
「かわいい」
「ふが!?ふが!うがー!」
もがもがと絡みつく縄と格闘する様を、いっそ録画でもしておけばよかった。
なんて無様な、なんて愛らしい、俺の最愛の人。
一目見てああこの人だって思ったから、きちんと準備して、根回しもして、今日こそは決行できると確信した時の喜びを、この人は知らないだろう。
もうねー。好きなの。好きすぎるくらい大好き。
でも、でも。
この人にとってはこんな告白は恐怖でしかないってことも分かってる。
だったらいっそ、やっちゃおうかなぁって、思ったのよね。
「ふげ!ぐっげほっげほっ!」
あああんなに暴れるから唾液が喉に回ったんだろう。役割分担できるときならまだしも、単独で捕虜にされた時は黙ってるのが基本なのに。
思えばこの真っ直ぐさと、他愛なく感じるほどの素直さと、それでいて柔軟で折れないしなやかさに惹かれたんだった。 恋人が聖人染みてるって、暗部の連中に知れたら大笑いされそう。や、まだ恋人じゃないんだけどね。
「はい。舌噛まないように気をつけてね?」
この人は変なところで思いっきりが良くて、勢いだけでとんでもないことしそうだから、一応自殺防止用の暗示はかけてあるけど、心配だ。
だってこの人おっちょこちょいなんだもん。うっかり大怪我とかしちゃいそうで恐い。
教え子庇って背中に大穴明けるような人だから、俺がいない間に潔く思い切りよくあっさりしんじゃいそうなんだもの。
「っふう。っあ、あんた!なんてことすんですか!いきなり人のこと縛り上げやがって!そもそも中忍の男捕まえてかわいいってなんだかわいいって!恥ずかしい台詞そんな顔していうんじゃねぇ!アンタの目は飾りか!」
「いーえ。イルカ先生を見つめるためだけについてます。主に」
「あんたがその手の冗談好きなのは知ってましたが、これは度を越してるだろうが!いいですか?上忍連中にはちょっとやっちゃっても大丈夫なんでしょうが、俺…はおいといて、あんたの教え子たちには絶対駄目ですよ!」
「はあい」
「ったく!」
縛り上げられてるのに真っ先に気にする所がそこっていうのが、たまらない。かわいいとか愛おしいって感情が高まりすぎると、いっそ食ってしまいたくなるってのは本当らしい。その奥の奥までたっぷり精を注ぎ込んで俺の匂いで一杯にしたい。でもま、それには色々準備って物が必要だしね?
例えば、この人の覚悟とか。
「イルカせんせーあのね?好きです」
「はいはい。俺もまあ、その。あんたがやりすぎなきゃ憂愁で凄い人だと思ってますから、いい加減その言い訳は…」
「違うよ。アンタが欲しいって話をしてるんです」
「は?」
ああやっぱりわかってなかったのね。ま、だからこそこの強行突破に許可が出たんだけど。周りへの迷惑を減らすために致し方ないってね。
口をぽかんと開けた間抜け面が蕩けちゃうくらいキスしたい。でもその前にやることがある。
「そういう意味で好き。わかんないフリ、もうしないでね?ここは俺の家で誰もいないし誰にも邪魔されないし、誰もアンタを攻めたり恨んだり羨んだりもしないよ?」
厄介事は嫌いなんです。なんて、弱々しく酔っ払って呟いたアンタの弱さにも惚れ直したんだもん。今更だ。そんなうろたえた顔しなくたっていいのに。
「だっから、おれ、は!その!…あんた男でしょうが…それもとびっきりの」
「お褒めに預かり光栄です?っていうかさ、アンタ俺の顔好きだもんねぇ?振り回されるのも好きでしょ。だって自分のせいだって思わなくて済むから」
「なっ!だ、だまれ!好きなのなんてそんなとこだけじゃない!」
ほーらちょろい。っていうか、この人今俺に告白しちゃったの気付いてるのかねぇ?気付いてないんだろうけど。ムキになっちゃってかわいい。
「そーだよね。俺が寝ぼけてくっついてくるとことかも好き?あとはごはん食べてると嬉しそうにしてるよね?酔っ払って甘えてもにへーって笑うし。あとはー」
「わー!わー!黙れ!」
ほうら真っ赤だ。ま、いいんだけど。あれだけバカップルっぷりみせつけといて、エッチどころか告白もまだって聞いたら、周りだって驚くより呆れてくれて、こんなチャンスも作ってくれた。
だからもう逃がさないよ。
「だってそんなとこだけじゃないって言われてもねぇ?」
「そうやって拗ねたってかわいいだけなんですよ!拗ねたあとごめんなさいも言えないのにずーっと背中にくっついてきたりするし!布団に入ってから小声でごめんなさいとか言うし!ああもう!アンタ最低だ!俺の人生どうしてくれんだ!」
「というわけで、今お返事もいただいたことですし、責任とって末永くよろしくー」
「は?え?」
「ま、これから仲良くするのはまずは下半身からですけどね」
「ぎゃー!そういうことを言わない!」
もうテレやさんっていうか、真っ赤でたまんないよね。悶えてるのはいいんだけど、まだ縛られたままってことに気付いてるんだろうか?もう我慢できないからいいんだけど。
喉が鳴る。獲物は目の前でおいしそうに俺の牙を待っている。なら、もう。
早速いただいちゃうしかないでしょ?そんなの。
「じゃ、不言実行で」
ああ、やっとだ。やっとこの人にキスできる。
驚いて目を剥いて、そのくせ快感だけは敏感に拾っているらしい恋人…そう、もうこれからは恋人だ。
大事に抱き上げてベッドに落とした。その怯えた瞳が快感に蕩けて俺のこと以外考えられなくなるまでトロットロにするために。

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適当。
割と迷惑なバカップル。
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