暴走(適当)


一度だけでいい。この人をだましてでも手に入れられればそれで。
それだけできっと俺は生きていける。
血迷っている自覚はあったが、止まれないという自信もあった。
あいにく弱りきった上忍なんてものを眼にするチャンスはめったになくて、決行がこんなにも遅くなったのだが。
介護を任務として依頼される程度には近しい関係にあったおかげで、とんとん拍子にこの人を捕まえる事が出来た。
病院から連れ帰って、身動きさえ怪しい人を縛り付けるまで、大した手間も時間も掛からない。
投薬のせいか、抵抗も出来ないほど深く眠り込んでいてくれたのも都合が良かった。
下肢だけをさらけ出し、丁寧に愛撫する。拙い手淫だが、反応は早かった。任務明けで溜まっていた所に、意識がないのだ。
抗おうという意思がなければ行為自体は容易い。
手足は疾うに拘束した。
魔が差したと言うには、手元に用意した道具たちはタチが悪すぎる。事が終われば処分は免れないだろう。
言い訳なんてするつもりはない。
欲しかったから手に入れた。
それがどんな罪になろうと、それすらどうでもいいほどに、俺の欲望は膨れ上がりすぎていただけだ。
「なに、これ」
もう少し、瞳を閉じて快感に身をよじる姿を見ていたかったようでいて、この人がまっすぐに俺を見ないのが残念だったから、目覚めてくれて嬉しいような気もした。
ただ、手はずから考えると目覚められてしまったなら、急がなくてはならない。
「少しの間で済みますから」
会話は出来るだけ事務的に。本当なら必要ない位だが、暴れられても困る。
この人は頭が凄まじく切れるから、会話をしている間に俺の行動の理由と隙を必死になって探るはずだ。
つまりその間はじっとしていてくれる可能性が高い。
上忍を拘束するにはチャクラ封じつきの鎖程度じゃまだ甘い。逆を言えばそれだけ弱っているからこそ、まだこの人は俺の下に敷かれていてくれるだけだ。回復するのも早いだろうから、手早く済ませてしまわないと。
…記憶も消してあげたいけど、俺じゃ無理だしな。
耐性のあるこの人に効く毒の持ち合わせもなければ、写輪眼を凌駕する術も使えない。
ただの中忍に与えられたチャンスは、今だけしかない。
「ちょ…っ!」
「噛みたくないんです。じっとしていてください」
咥えたことなどもちろんない。そもそも同性を相手にするのも初めてだ。
そっちの経験は乏しいながらもそれなりに訓練を受けたおかげで、口淫されたことくらいはあるのが救いか。
どうにかしたいのにやり方すらわからないんじゃ困るもんな。
…そんな理由で書庫に篭って、男の襲い方を学んでいた自分は相当おかしくなってたんだろう。
まあこうなったらどちらにしろ手に入れるだけだなのだが。
「っ…は、上手い、ね」
「…ん」
咥えたまま笑いかけただけで、男が目に見えて動揺した。分かりやすく硬さと大きさを増した性器が愛おしい。
同じもんぶらさげてるってのにな。
…惚れた挙句にこじらせて、乗るよりは乗られる方がマシだろうなんて最低なことを考えて実行した俺は、多分確実に狂っている。
十分に育ったそれがはじける前に口から出した。息をつめるのが聞こえて少しだけ申し訳なくなる。同じ性だからこそ、こんな所でとめられたら辛いのは良く分かるから。
焦りもあって、手順の省略という決断に繋がった。もうこのまま痛みでもいいから繋がってしまえばそれでいい。
快感が欲しいんじゃない。この人を手に入れたいだけ。
適当に潤滑剤を撒き散らし、その冷たさに呻いている隙を突くように上に乗った。
「ちょ…!無理でしょ!」
締め付けがすぎるのか、眉間に皺がよっている。
痛みは興奮で上書きされて感じにくいが、この人はそうも行かないだろう。
「…ぅッく…!」
息を吐いて力を抜けばいいはずだ。戦地でそんな話はよく聞いた。実地で教えてやろうかなんて騒がれたときは冗談にしてもタチが悪いと半ば本気で殴りかけたもんだが、今となっては多少の経験があればよかったとさえ思う。
入らない。
元々入れる場所じゃないんだから当たり前なのに、それが酷く悲しかった。
俺にそんな権利はないのに。
「いき、すって、はいて。指とかで広げないと無理だから」
「え…?」
「腕、かたっぽでいいから解いて。それからさっきのローションちょうだい」
苦しいはずの人が励ますようなことを言う。
それが隙を作るための罠でも良かった。必死になって頷いて、言われた通りに指を湿らせ、狭くて思い通りにならないそこに差し入れた。
「ヒッ!」
冷たくてあんなに入らなかったのに奥までつるりと入り込んでしまった。
気持ちイイとはとても思えない。それなのに…それがこの人だというだけで、期待に胸が躍った。
お情けでもいい。くれる気になったんなら貰ってしまおう。
これが終わったら、自分から処分を申し出る。
この人が誰かのものになるのを見たくなんてないから、できるだけ誰とも接触がないところに閉じ込めてもらえればいいんだが。帰れない僻地で草なんてのも悪くないな。記憶も消してくれたらもっといい。
全てを忘れて、せめて里のために戦えるなら。
この人を知って駄目になっていくばかりの俺を、殺してくれるならそれで。
「我慢しなさい。痛くはしないから。ね?」
必死で頷いた。指が増やされて狭いそこを広げるようにこじ入れられても、襲ってくる痛みとえもいわれぬ感覚に耐えた。
「ん、ぅあ…!」
「いいかな。コレじゃこれ以上無理だし。…おいで」
経験がないから検討もつかないが、どうやらやっとなんとかできたらしい。
気が遠くなるほど長かった気もするし、喘いで悶えているうちに終わってしまったような気もする。
どっちにしろ哀れに思ったか、一時の情を与えてくれる気になったらしいこの人の気が変わらないうちに、全部済ませてしまわなければ。
ぬかるむそこは最初よりはずっとスムーズに、尖ったままだった性器を飲み込んだ。
といっても、男に腰を支えてもらわなければ、とてもじゃないが上手くいれることなどできなかっただろう。
「あ、ぁ…!はい、る…!」
「えっちなこと言って煽らないの。これ以上おっきくなったら入れにくいでしょ?」
咎められて気持ちが少しだけしぼんだ。コレだけの行為を仕掛けて、最初に咎められるのがそこってどうなんだ。
この人にとってはこの程度のことすら日常茶飯事なんだろうか。
…見合いの話がきたと、もう既に婚姻は決まったようなものだと聞いただけで、俺は耐えられなかったのに。
「ふ、ぅ…!」
涙が勝手に沸いて出るのは、受け入れている異物が苦しいからだけじゃない。この人を独占したいからだ。
それを切り捨てるために行為を望んだのに、未練がましく絡みつくのは下肢だけじゃなくて、心が見える形になるのなら、きっと鎖よりもタチが悪く、この人に絡み付いていただろう。
「泣かないで。苦しい?ちょっとまって。探すから」
焦った様に自由になる手で涙を拭ってくれようとして、その手が俺のぶちまけた潤滑剤まみれであることに気がついて、途中でひっこめられた。
いいんだ。平気だ。この人と繋がっている今だけは、この人は俺のモノだから。
変わり者の上忍がくれる情を全部独り占めできるから。
だから。
「え?あ!」
いきなり揺さぶられて縋るものは目の前の男しかいない状況になったら、簡単にパニックを起こした。
仰向けに寝かせた男は片腕を鎖に預けたまま、腰を掴んで揺さぶってくる。小刻みだったそれが中のどこかを擦って、それだけではじけるように声を漏らしていた。
「やっ!な、あ!」
「あった」
にんまりとケダモノ染みた笑みを浮かべて男が俺を見ている。俺だけを。
「おかしく、なる…!」
「いいじゃない。もっとおかしくなって?」
抜けそうになるほど持ち上げられて、信じられない奥まで入り込んでくる。
思い余って一度だけと血迷ったことを、初めて後悔した。
こんな事を知ってしまったら、きっと忘れるなんて無理だ。
恐ろしいほど近くに男がいる。…凄まじい快感を寄越して、哂っているのは俺のおろかさか、それとも。
「あ、あ…あ…!で、る…!」
「ん。俺、も…っ」
達したのはほぼ同時で、吐き出しながらがくがく震える体は、簡単に崩れ落ちた。
触れ合う肌。その胸が自分と同じくらい激しく上下している。
「ん、あ…」
「きもちよかった」
舌っ足らずにも聞こえる言葉に目を細めた。
かわいいなんて言ったら殴られるだろうか。
…己のしでかしたことを思えば、殴られるどころか消されても文句は言えないが。
「え…っ?」
「んー?だってきもちいいし」
むくむくと腹の中で何かが育っていく。どうやらまだ終われないらしい。…終わらなくてもいいらしい。
「もっと、ください」
「あげる。好きなだけ」
撫でてくれる手が片方だけなのが寂しくて、鎖を解いた。
コレで逃げられても思いは遂げたから諦めもつく。
…男はどうやら逃げる気はなさそうだが。
「ありがと。これで…色々してあげられる」
酷く楽しげに腰をなであげ、首を引き寄せ、唇が重なった。
口付けなんて、全部終わって殺される覚悟が出来てからにしようと思っていた。それも軽く触れるだけが精々だろうと。
仕掛けられた行為はまるで想定外だ。
口腔を舐り、歯列をなぞりながら舌を絡ませてくる。これが男のものだと思うと興奮したし、繋がったままの下肢が疼いた。
「ん、カカシさ…!」
「俺も、もう我慢できない」
両手の方が腰を掴むのも具合が良かったらしい。さっきとは比べ物にならないほど激しく打ち付けられるものに身も世もなく喘がされ、あっという間に達しても男が萎える様子はなくて。
力なく縋りついてずっと快楽を追い続ける顔をみていた。
*****
「なんで突っ込まなかったの?俺に」
ちょっと覚悟決めたのになんていいながら、背を撫でてくれる。
きわどい所まで伸びた指が、溢れ出るものを弄ぶのを止めることもできない。まあ止める気もないんだが。
完全に腰が抜けていて、それなのに熱がひいてくれない。
「…あなたほど技量がないんです。男相手の経験も。傷つけたかった訳じゃないので」
ただ欲しかっただけだ。この人が。どんな形であれ、手にはいるならそれでよかった。
技術がないまま突っ込まれた相手の体がどうなるかを学んでしまえば、意識のない相手に仕掛けることなんてできなかっただけだ。
疲れすぎていて答えるのも億劫だった。
「…煽んないでよ」
密着した体の間で、性懲りもなく反り返っているものの存在を感じて苦笑した。
どうやらさほど不快ではなかったらしい。それだけが救いだ。
「しましょうか。…終わったら好きなようにしてください。処分を受ける覚悟なら…」
「あ、やっぱりそういうの考えてたの?思いつめた顔しちゃって」
くぷりと埋められた指が、だらしなく注ぎ込まれたものを垂れ流すそこををかき回した。
やるなら早く。
気が逸るままに、男の上に乗ろうとして、阻まれた。
「しない、なら」
「しますよー?もちろん。だって欲しかった人が自分からおいしそうな格好しておいしそうなシチュエーションで乗ってくれたのに、我慢する理由なんてないでしょ?」
下に敷かれて見下ろされると、また違ったものが見えて感慨深い。
顎のラインもうなじも良く見える。この人はどこもかしこも綺麗だ。
足を開いて腰を上げた。やりやすいようにしたつもりで、本当はただ強請っていただけなのかもしれない。
「カカシ、さん?」
余裕たっぷりに笑っているのをみると、相当に滑稽なんだろうな。俺が。
萎えてはいないようだから、興が乗っているのかなんなのか。
「えっちなイルカ先生って、ずっと想像してたんだけど想像以上」
押し当てられて、突き入れられる。
「ぅ、んっ…!」
快感を覚え、ぬかるんだソコは、あっさりと異物を受け入れて絡みつく。離さないとでも言うように。
「あのね。めろめろにしちゃってからいうのもなんだけど、好き」
「え?」
今、この男は何を言った?
好き?
…それはありえないだろう。
「もうこれが罠でも毒盛られててもいいくらい好き。イルカ先生浚って里抜けしようかと思う位見合いなんて鬱陶しかったんだけど、こんなことしたのってそれのせい?俺のこと、どう思ってるの?」
動かないでくれているのが救いといえば救いか。
まだすこしはまともな思考が残っている。
「好きです。俺は、最低だけど、どうしても欲しくて。アンタが結婚するならその前に一度だけなら…」
罪悪感でおかしくなりかけても諦め切れなかった。
書を漁り、拘束具に術をかけながら、その度にこんなことはやめるべきだと悩んで、だが結局は誘惑に負けた。
「結婚なんてしません。好きな人がいるって断ってもしつこいし、それならそこの女殺しましょうかって言ったら酷い任務まわされるし最低だったけど」
「なんでそんな!」
確かに断り方としては下の下だ。相手を怒らせたのは間違いないが…だからって報復で任務まわすなんてありえないだろ!
「…でも、イルカ先生が恋人になってくれるなら、俺は死なないで済みそうなんですけど、だめ?」
「だめじゃないです。…今からでもそんな横暴は…ッあ!」
「嬉しい。でも、これが終わってからね?」
にっこりと表現するのが正しいのか、それにしては瞳に揺らめく光が剣呑だ。
途端に揺さぶられておかしくなりそうなくらい気持ちよくされて、ぐちゃぐちゃにされるまであっという間だった。
*****
思いが叶ったので、この人以外と結婚させるとか言い出すなら暴れます。
そんな台詞で何であっさり見合いが立ち消えになったのかはわからないが、任務に関しては相応の処分者が出たところを見ると、この人を利用しようとしたのは里長ではなかったということだろう。
「いいんですか?カカシさん」
はっきり犯罪を犯したも同然の俺がいうのもなんだが、この人はそれでも平気なんだろうか。
あまりのことに腹が立って、任務振り分けからなにから洗い出して、タチの悪い任務を押し付けた首謀者は探り出したが、本来なら捌かれるのは俺自身でもあるはずだ。
好きなんて…ありえるんだろうか。
感謝やお情けで付き合ってもらっても、また俺はいつなにをしでかすかわからないのに。
「今夜ですね。もちろんです!」
きりっとした顔で何を言いやがるんだ!さりげなく尻をもむし…。
俺が知っているこの人は、万事控えめででも気さくで、豆に俺を誘ってくれる上忍だったはずなんだが。
あれ以来、わかりやすいセクハラ行為に、周りが心配していつのまにか火影様に直訴に行ったほど、その行動は一変した。
…おまけに同僚からは火影様からお前とあの人が結婚してるって聞いたなんて言われるし、落ち込まれるわ騒がれるわ喜ばれるわ…!
「悩んでも無駄なんだろうか」
思わず声に出ていたらしい。
「そうですねぇ?思いあまってくれて助かりましたが。悩んでるイルカ先生も色っぽいです」
「あんたの欲ボケした顔もかわいいですよ」
ああどうしたもんだろうか。里の誉れをこんな生き物にしてしまったのは間違いなく…。
「…イルカ先生の天然ぶりが恐いです。とりあえず帰ったらご飯の前にイルカ先生を頂きます」
「なんでそうなるんですか…!?」
「ま、いいじゃないですか」
この人なりの気遣いか、それとも本能に忠実なのかはわからない。
楽しそうに笑う男が、だって好きなんだもんなんていうからもう…。
悩まずにいちゃぱらってヤツを楽しむことにした。


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