欲しいもの(適当)

「欲しいモノは手に入らないので」
意味がよくわからなかったが、どうやら理由を説明してくれている…んだよな?これは。
年頃のせいか毎日毎日エロ本を持ち歩く上忍師に感化されてか、しきりにお色気の術を多用し、怪しげな語彙増やしては披露するようになった教え子を心配したのがそもそもの切っ掛けではあった。
自分が反応しすぎるのが悪いという自覚もあったんだけどな。
構ってほしいだけだと分かっていても、年齢的に興味がないほうがおかしいというのが分かっていても、意味も理解せずに卑猥な言葉たちの意味を問われるのは流石に堪えた。
とはいえ相手は上忍。本来なら意見できるような立場にない。それは重々承知の上だ。
…身近というには距離があるが、日常の他愛のない会話を交わせる程度の関係になってから、ついその辺の感覚が緩んでいたのかもしれない。
冗談交じりとはいえ、普段なら絶対に口にしないようなことを言ってしまったのは。
「そう言った本を読むなとはいいませんが、往来で持ち歩くにはちょっとその…」
多分、子供たちの稚拙なトラップとも言えない程度の悪戯に引っかかってみせるくせに、体を張って守ってくれたこの人を、一方的に身近に感じすぎていた。
なんとなくふわふわした人だと思う。
忍としての才能と性格が乖離しているというか。
桜の花びらまみれになっているからどうしたかと思えば、降り積もる桜の花びらがきれいだったから見上げていたら寝てしまったなんて話を聞かされたこともあったなぁ。
夏は夏で風鈴をぼんやり見つめていたり、秋は紅葉した山がきれいでしたと教えてくれたりもした。
本人の中では矛盾なく同居しているようでも、漏れ聞こえる噂の中の理想の忍そのものであるこの人と、実際に会って話しているこの人はまるで別人のように思えてならなかったのだ。
本来なら情緒豊かな人なのだろう。
ただ忍としての才がありあまっているせいで、それを押し隠してしまっているようだった。
だからこそ、エロ本を持って歩いているということに、結構な違和感を覚えたのだ。
即物的な欲望よりも、情を求めそうな人だと勝手に思っていた。
今までこの人が女にガツガツした所などみたことがない。
何もしないでもぞろぞろ向こうから寄ってくるというのもあるだろうが、片っ端から袖にしているということは、誰でもいいというわけでもないのだろう。
処理ならこの人の立場で困ることなどありえないというのに。
それでつい、話の流れでそう話しかけて…柔らかに微笑んでいた人が、表情を消したことに気がついた。
欲しいもの。…それは一体なんのことなんだろう。
「手にはいらないモノなんて、カカシさんにもあるんですね」
大抵の物は望めば手にはいる地位にあるはずだ。
…下手をすれば人の命さえ。
「ありますよー?そりゃもうたくさん。ね?だから欲しがるのをやめた方が楽だなぁって気づいたんです」
それは諦めだ。そして自分にも嫌というほど覚えのある感情だ。
…随分昔に失ってしまったものたちを、血反吐を吐く思いで諦めたときの苦しさは、今でも胸の奥で燻っている。
この人にとって欲しいものは分からなくても、その痛みは少しならわかる気がした。
きっとそうやって諦めたんだ。俺と同じように。
「駄目です」
諦めてほしくないと強烈に思った。
あまりにもあっけらかんと諦念を口にする男のせいで、胸が苦しくてたまらない。
それがなぜかなんて分からない。…ただ諦めて欲しくないだけだ。
「え?」
「何のために。代わりってなんですか。いいじゃないですか。欲しいなら欲しいって言えば」
力いっぱい主張して、ついでに激励までしてしまっていた。
おかげで目を丸くして驚いている上忍なんていう珍しいものを見ることができた訳だが。
…確実にまずいよな。これ。
今更ながら慌て始めた俺に上忍が笑ってくれるまで、生きた心地がしなかった。
「欲しいって、いっていいんだ」
「そ、そうですそうです。言うだけは自由です。ぶつかってみなきゃわからんでしょうが。相談にだって乗りますから!」
諦めるのはいつだってできるし、諦めてからの方が苦しい。
それなら…それなら全力出してぶつかった方が絶対にすっきりする。
まあ流石に反魂とかになると全力でとめるだろうけどな。
「ん。じゃ、そうします。…今日はとりあえず家に帰りますけど」
「そうですか!がんばってくださいね!」
諦めるのをやめてくれたらしい。その途端わずかながら瞳に剣呑なものが宿った気がしたが、この人上忍だしなぁ。真剣な顔は中々凛々しかったから、いろいろと何とかなるに違いない。
「ん。そうします。…見込みゼロって訳じゃないですもんね?」
えらくきれいに微笑んだ上忍の顔は、俺の目に焼きついてしまいそうなほど美しく、すがすがしい。
見送る俺の心もあったまるってもんだな。うん。
「カカシさんの欲しいものが手にはいりますように…」
暢気に祈っていた俺は、当然知らなかった。
エロ本で解消してるんだから、モノ=色事というか、人だってことも、それが自分だってことも。

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適当。
ねむいので。
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