おいかけっこ14(適当)



さて厄介なことになった。
ちょっとした事情でと顔を見せに来た孫弟子の我侭を聞いてやったのは、先見の明がありすぎるほどあるからだったというのに。 …どうやらまた悪い虫が騒いだものらしい。
一部の忍に負担を強いることには疑問もあったものの、戦況は明らかに好転した。
人を見る目がありすぎるほどある男を、何もかもを見透かしてしまうその才を見込んで次代に据えようという決意も固まったばかりだった。
道をたがえかけている弟子よりも、間違いなく里治めるだろうことは確実。
とはいえ、悪戯というには今回の件は見過ごしがたい。
「なんてことを!なんてことを…!」
「どういうことですか!」
嘆くのも分かる。わが子を傷つけられて憤らぬ親はおるまい。それも…こんな形で。
かわいがっていた幼子は今も担ぎ込まれた病院で眠り続けている。
…その身に刻み込まれた忌々しいモノのせいで。
警戒しておくべきだった。
次代にと考えるだけあって行動力は群を抜いていて、その能力の全てでもって溺愛されている恋人もいる。
だが、もう一人いたのだ。心酔していると言ってもいい相手が。
その息子を慈しんでいたのを知っている。なにかと気にかけていたのはミナトだけではない。
忍としての能力と引き換えに、他のもの全てをどこかに置き忘れてきたような男を、重用しながらも恐れていた。
なにせ前科がある。切れ者で、いつかは時代の相談役にとも考えていたくノ一を、むざむざとただの女にする気などはなかったというのに、その実力と強引さと頑なさでもって、全力で排除されてしまった。
囲い者と謗られても笑顔で受け流したあの女子が、自力で逃げられなかったわけがない。それはもちろん承知している。
ましてや望めば己の手足のごとく動く、常に側に置いて離さなかった番の鳥のようなくノ一がいたのだから。
それはまさに双璧。あの二人を揃って里の中枢に据える日を、心から楽しみにしていたと言うのに。
あの日の暴挙がなければ、それは叶っていただろうか。どこか歪にさえ感じるほどの距離の近さを不安に思ったこともあったから、結局はいつかは破綻したか。
それは誰にも分からない。その片翼を欠いてしまったくノ一は、伴侶を得て変わった。鋭さはそのままに、守ると言う強い意志をもって戦っている。
求め続けた相手の子同士。こうなるとある種因縁めいたものさえ感じる。
「…仕方がなかろう。今更戻せはせぬ」
術の反動で寝込むほどに、双方とも弱りきっている。今はどちらにしろ解術などできはしない。この状態では下手をすれば死にかねん。
そして使われた術はタチが悪すぎた。
血継限界を持つ血を得るために、その一族の女を捕らえ、我が物とするための術。
かけられた者はその意思を奪われ、術者以外の男が邪な意図をもって触れればそれを殺す。術者から長い間離れすぎても、その命を奪われてしまう。
…どうやら改変されているようだということまではわかったが、どの程度効力が変わっているのかは、寝込んでいる術者。
里で最年少の中忍に聞かねば判断ができぬ。そもこの手の術は禁術とされ、また他里に奪われることを恐れて秘されている事が多いというのに、どうしてあんな幼子がそれを知りえ、そして行使してしまったのやら。
「術者を、消せば」
ゆらりと立ち上る殺気は鋭く、並みのものなら呼吸すら止めかねない。現に隣に立つ男も顔色をなくして…馬鹿者め。見とれている場合か。
まあその鋭さと荒々しいまでの戦いぶりの美しさに惚れたというから、わからんでもないか。
この里を守るために生きてきたようなくノ一が、わが子のためなら、幼子であろうがなんであろうが躊躇わずにその刃を振り下ろすであろうことはわかりきっている。
止めるにも骨が折れるであろうなと、嘆息する時間はあった。
「チッ!」
刃を引いた。殺気はいまやむせ返るほどの濃さで、それが真っ直ぐにただ一人の男に向けられいてる。
涼しげな顔で殺気などものともせずに立っている男。
今回のことをしでかした幼子の父でありながら、里最強とも謳われ、白い牙の名をもつ男が、寝台に寝かされている子どもを見ていた。
「なぜ、別の部屋に?」
チャクラが唸りをあげて男に向かい、だがそれは接触する前に霧散した。
「貴様の息子が何をしでかしたか…!わかっているのか!」
「…?伴侶を見つけた」
満足げに笑う男に、理屈など通じるわけがない。そもそもが人と違う理に生き、妻であった女以外は存在すら知覚しているか怪しげだったような男だ。
…怒り狂ったくノ一は、迷いなくクナイを男に向けた。
「待たんか!」
怒号。最も病室に似つかわしくないものであるはずだというのに。
止められても止まらないのは予想通りではあったが、いっそ術で縛り付けて反省房にでも放り込もうと印を組んだ途端、二人が止まった。
「うー…なに…でっかいおと…?」
「イルカ!無理してしゃべるな!痛いところは!?」
「イルカ!イルカ!大丈夫!?苦しくはない?」
取り乱すあまり扉の側に立つ男のことは忘れてくれたらしい。
…さて、本当に厄介なことになった。
意思を奪われている様子はなさそうではあるが。
考えることなど山ほどある。だが、とりあえずは。
深い深いため息と共に、密かに悪態をつく時間くらいは、残っていると信じたかった。


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適当。
じいちゃん老け込む。
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