ごめん(適当)



「あーあ」
惨状。その一言に尽きる。
散乱した紙切れと巻物、それからカップラーメンの容器に酒瓶まで。
本人はぐずぐずと泣きながらちゃぶ台につっぷして眠り込んでいて、俺のため息なんて気付いてもいないだろう。
「カカシさん…」
か細い声は普段のこの人から想像も出来ないくらい哀れっぽくて、ずるずると鼻をすする音がその後に続いた。
ま、そうだね。俺が悪い。
…帰ってこられないかも知れないなんていったからだ。
「愛されてるのかねぇ?」
たしかにSランク任務は久々で、挙句に人手不足を理由に十分な人員が確保できなかったからちょっとばかり分が悪かった。
それで、本当に何の気なしに言ってしまった。

任務が入りました。帰ってこられないかもしれないので、もしそうなったら後の荷物は好きにしていいですよ。

…それがいつものことだったから。
誰かが任務に出るときはそうやってそれなりに親しい相手に告げておいて、しくじって本当に駄目だったら言い残しておいた相手にはそれが伝わるようにしておく。
それから後処理をまかされる代わりに残されたモノは、ソイツのものになる。
俺が今まで幾度となく繰り返してきたことだ。
言い残したことはあっても、結局は帰ってこられなかったことがなかったから、気づかなかった。
それがどんなに酷いことか、俺は知っていたはずなのに。
おいていかれたことだけならもう数えるのも止めたほどありすぎて、どう感じたかなんて繰り返されるうちに記憶が擦り切れてしまってもう思い出せない。
「ただいま」
笑って送り出してくれたから気付かなかった。
少しばかり長引いてしまった任務を終えて帰ろうってときに、イルカ先生がまだ荷物片付けてないといいけどなんて呟いて、後輩に呆れられるまで少しも。
“どこかが壊れてしまった僕たちと違って、真っ当で寂しがりやなんだから、そんなことしたら泣かれますよ?あの人まで壊す気なんですか?”
心底理解できないとでもいいたげだった台詞が胸に突き刺さる。
そうだ。俺とこの人は違いすぎて、こうしていつも傷つけてばかりいる。
…でも、手放せない。
この人の普通の幸せを奪い、雄としての矜持も傷つけ、全てを暴いて、俺のモノにしなくちゃ気がすまない。
「愛、ね」
そんなもの分からない。
分かるのはこの人が俺のモノじゃなくなったら、俺は生きていけないということだけだ。
「カカシさん」
そっと眠り込んだ人の髪を書き上げると、ふにゃりと笑ってくれた。
嬉しい。やつれた顔に罪悪感よりも劣情を感じる己は、どこまでも最低なイキモノなんだろう。
「イルカせんせ。ごめんね。…それでもずっと離せないよ」
抱きしめた体から漂う明らかな酒気。きっと目覚めたら二日酔いでふらふらしているだろう。掃除も飯も俺がやるし、土下座だってなんだってする。
この人が俺を見てくれるなら。
「うー…?う?」
「ベッド行こうね」
抱き上げても起きない人を布団にしまいこんで、隣に潜り込んだ。
かなり強く抱きしめてもふわふわ笑ってくれるばかりで起きそうにもない。
呼気に混ざって薄く香るこれは、眠剤か?
…襲い掛からないように気をつけなければ。あまりにも無防備で庇護欲と共に嗜虐心まで刺激されそうだ。
眠気が足元まで這い上がってくる。
この人の側じゃなきゃ、もう俺は眠れないのかもしれない。
すーすーと寝息を立てる人を腕の中に閉じ込めて、帰ってこられたことに初めての感謝を捧げておいた。

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適当。
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