ご主人様と下僕

階級も実力もそれから容姿も。その全てが俺より優れていると誰もが認めるはずの男。
それなのに男は深く頭をたれ、ひざまずく。
「さっさと行けよ」
「ご命令のままに」
手の甲にすっと口づけて、まるで下僕のように振舞って。…一瞬でその姿は溶ける様に消え、もうどこにいるのか追うことすら出来ない。
この奇妙な関係は随分と前からだが、きっかけは本当に些細なことだった。
その日、俺はいつも通りの道を歩いていたのだが、唐突に背後から衝撃が走った。
当時、忍の家に生まれたとはいえ、まだアカデミーに通う前だったから、当然受身も取れずに転がった。
ぶつかってきたのは俺と同じくらいの年の子で、凄く凄く綺麗な猫みたいにふわふわの銀色の髪をしていて、凄く凄く綺麗な飴玉みたいな目をしていた。痛みなんか吹っ飛ぶくらいに綺麗な生き物。
それがなぜか俺の顔を念入りに見つめて、それからすりむいた膝小僧なんかをテキパキと治療してくれて、それから言ったのだ。
「ねぇ。お家は?」
知らない人にお家を教えちゃいけませんって言われてたけど、これは凄く綺麗だから大丈夫と子どもらしいめちゃくちゃな理由でソレを無視し、すぐそこだった自分の家をその子に教えた。
俺とあんまり変わらないくせにその子は俺をひょいっと抱き上げて俺の家までつれて言ってくれて、それからいきなり出てきた父ちゃんと母ちゃんに謝ったのだ。
「申し訳ありません。お子さんに怪我をさせてしまいました」
言葉も怪しいくらいだった自分からしてみれば、その子の振る舞いはものすごくカッコよく見えて、綺麗で凄いと驚いたのを覚えている。
「お詫びに…何がいいかな?何か欲しいもの、ある?」
父ちゃんと母ちゃんがびっくりしてるのにもびっくりしてたら、そんなコトを聞かれたので、あんまり深く考えることなく言ってしまったんだ。
「んっとね!欲しい!頂戴?」
その子の袖口をしっかり掴んで、それから母ちゃんでもぐらつくことがあるとびっきり甘えた声でおねだりした。
だって凄く綺麗だから欲しくなったんだ。
ちょっと驚いた顔をされて、ああやっぱり駄目なのかなぁって悲しくなって…多分ちょっと泣きそうになったんだと思う。
凄く凄く慌てたその子は、俺をぎゅって抱きしめてくれた。
「泣かないで?大丈夫。…上げるよ。俺でよければ」
…そして、普通ならソレを止めるはずの両親は、余りの展開にパニックを起こし、その間に迎えに来たその子の保護者であるハズの…黄色い頭の陽気な上忍は、あっさりとソレを認めてしまったのだ。
あんなのが火影だったなんて今でも信じられない。
*****
本当はこんな関係はイヤだ。
だってあんなの責任を感じるほどのことじゃない。ちょっとぶつかってちょっとすりむいただけなのに。
一緒にいると満たされるし、いつだって何でも気付いて俺を優先してくれる。
でも、もう駄目だ。
今一人で留守番しているだけでも寂しいけれど、きっと慣れる。長期任務にでてたときだってあったんだから、大丈夫なはずだ。
カカシはいつも任務に出る前はいつもああやって確認をとってからじゃないと行かないし、任務が長いと知らない人についていくなとか、守れないとこまるからやっぱりいかないとか散々ごねる。
三代目が大目に見てくれてるうちに、カカシを返さなきゃいけない。もっと他に…大切にしてくれる人の側に。
綺麗なカカシは綺麗な人たちによくモテて、欲しがられるのが良く分かるからいつも苦しかった。カカシを縛り付けてるのは俺だから。
「もういいよって…帰ってきたら言おう」
「ただいま」
なんていいタイミング。まるで計ったみたいだ。
今なら言える。
「カカシ。もうさ、いいよ。俺…」
「何が?ご飯ならすぐできるから待ってて?」
ああ、ちゃんと説明しないと。…多分、これはわざとだろうけど。
「…カカシがさ、俺のモノじゃなくていいよ。あの怪我なんてすぐなおっちゃったし、もう大丈夫。お詫びは十分すぎるって言うかさ、貰いすぎるくらい貰ったから」
この家も出て行こう。家賃は俺が主人なんだからって言い張って言いくるめて何とか払ってるけど、なんだかんだ言っていろんな物をそろえて管理しているのはカカシだ。
笑っていえたのに、カカシがにこっと笑ったのに凄く傷ついた。やっぱりずっと開放されたかったんだろう。
ああもう…!泣きそうだ。
「じゃ、さ。利子。あるってことだよね?なら今度は俺が欲しいもの貰ってもいーい?」
こんなのは考えてなかったから流石にちょっと驚いた。でも。
「…うん。上げる。なんでも」
なんでもいいから繋がりが欲しいなんてばかげている。
でもお礼なら、今まで返せなかった言葉とか…絶対に言えない気持ちの代わりに、持ってるもの全部だっていいから上げたい。
「じゃ、貰う。頂戴?」
カカシが握ってるのは俺の服の袖で、それから俺があの時言ったのよりずっと甘い声で、おねだりされた。
そんなの、断れるわけがない。
「上げる。全部上げる。…だから、捨てないで?」
ぎゅうっと抱きしめられた。
「捨てないよ?イルカと違って薄情じゃないもん」
怒っていたみたいだ。不満げな声は小さい頃に俺が他の友達と遊んだ時とか、怪我しそうになった時に良く聞いていたけれど、凄く久しぶりだ。
「…好き」
「うん。知ってる。俺も好き」
どうしよう。幸せすぎて倒れそうだ。
綺麗な顔でとびっきりの笑顔を浮かべたカカシはやっぱり凄く綺麗で、今まで俺のものだったのが、今度から俺のご主人様になるのかと妙に感慨深く思った。
*****
これからどうしようかとか、照れくさいとか思う前にベッドに運ばれて、「シよ?」なんて誘われたらうなずくしかなくて。
まあ結果的に自分の体力の限界に挑戦しちゃうコトになったんだけど。
「ごめんね?」
凄く凄く申し訳なさそうに頭を下げられた。
でも、ご主人様のご乱行に耐えるのが俺の仕事だと思うし、気持ちよかったし幸せだから別にいい。
「いーえ?ご主人様がお望みなら?」
それでもちょっとからかいたくなってそう言ったら、カカシがにやってタチの悪い笑みを浮かべた。
「ふぅん?じゃ、もっとスル?ホントなら家から出したくないんだけど?」
なんだか、思ったよりカカシに愛されているらしい。
「ご命令のままに。…家から出ないっていうのは駄目だけどな!」
これ見よがしにカカシが何時もしてるみたいに手の甲に口づけた。
いつもこれが気持ちよくて、怖かったっけ。
「もー敵わないなぁ!」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、溶けちゃいそうに幸せで、ご主人様じゃない生活っていうのも案外いい生活かもしれないなぁなんて思ったりした。


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適当!ありがち!
一目ぼれ子カカチの遠大な計画はついに実ったという話?
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