誕生日おめでとう(適当)



「イルカ先生おたんじょうびおめでとう、か」
かわいらしくラッピングされた箱に、これまたかわいらしいカードが添えられている。
うっかりしたのかなんなのか、差出人の名前がないのが残念だ。
生徒にしては随分ときれいな字で、どこかでみたような覚えがあるから、やはり知り合いのものだろうか。
宛名が自分になっているんだから、人違いということもないだろう。
今日は誕生日だってことを自分ですっかり忘れていて、アカデミーが休みだってのに口々に祝いの言葉を寄越してくれる生徒たちに舞い上がっていたかもしれない。
思い思いのプレゼントは、時にぶっきらぼうに、時に期待に満ちた瞳で手渡され、そのそれぞれにお礼と嬉しくてついつい頭もなでちまったりして、お陰で気づいたときには子どもたちに囲まれていた。
そのままなにかお返ししようと思いつつ、ラーメン屋じゃこの人数は入りきらないなぁなんて思ってたら、みんな一斉に帰っちまったんだよなぁ…。
それが寂しかったのと、家に帰ったら玄関先に袋に入ったこれがおいてあって、なんだか取り残されたような気分になっていた俺は、多分それにすごくほっとしたんだ。
抱え込んだほかのプレゼントと一緒に家に運びいれ、ちゃぶ台において、手も洗ってから茶を入れて、一呼吸置いた。
正直にいえば…心当たりのないプレゼントに、少しばかりわくわくしていた。
他にもらった物は悦んでくれるかどうか不安がってるのがわかったから、片っ端からその場で開けさせてもらったが、これはあっさりあけるのがもったいないような気がして、ついつい…。
妙な緊張感すら感じながらリボンに手をかけた。
ひっぱるとくっついていた透明なイルカの飾りが外れた。態々鼻傷まで作ってあることに感心しながらとりあえずちゃぶ台に置く。
どこから探し出してきたんだろう。
そんな気遣いが嬉しくて、箱に手をかけようとして…躊躇した。
わずかながらチャクラの気配がする。
プレゼントが嬉しいからといって、油断しすぎたかもしれない。…漏れ出すそれが罠じゃないとは言い切れないってのに、ここまであけるまで気づきもしなかったんだから。
卒業させてから忘れがちだが、未だに狐憑きと謗られることがあるのを忘れていた。
悪意を向けられるのは好きにしろとしか言いようがないが、この手のトラップは被害が自分だけで済むとは限らないのが問題だ。
しかも…これができるってことは、相手は忍だ。
「おきてを…何だと思ってやがる…!」
苛立ちは大きかった。だってなあ。楽しみにしてたんだよ!
卒業した教え子かもしれないとか、それともいつもお世話になってる大家のおばちゃんかもとか、それともこの間いたく感謝してくれた依頼人の人かもとか。
それがこれだもんなぁ…。
怒りをぶつけるように印を切り、結界を張る。この手のことは得意だ。アカデミー教師は基本的に敵襲があったら子供たちを守りきれるようにこういう防衛策を徹底的に叩き込まれてるからな。
勿論、子どもたち自身が大暴れしたとか、術を暴発させたときにも使える。
これで内側でなにがあろうが、家が壊れるってことはないだろう。
クナイと札もある。この結界は万が一俺が消されてもすぐに本部に察知されるようになってるし、すぐには消えない。
そこまで準備して、やっと…慎重に箱を開けた。
「え?」
クナイ…まあ高そうだし装飾されてるし、変わった形だけど。
緊張した割には特に何も起こるというわけでもなく、だがチャクラは確実にそれから漏れ出している。
「なんだ、こりゃ?」
手にとって、名が滅すが滅していた所で、結界の外から声がした。
「イルカせんせー」
聞き覚えのある声。これはあれだな。カカシさんだ。
飲み友…というには相手が格上すぎるが、気軽に遊びにきてのびのびと寝そべっていたかと思うと、飯作って酒も持ってきてくれるという変わった上忍だ。
邪魔は邪魔なんだが懐っこいし、誰かが家に要るってのは落ち着く。それに寝そべってても気配が薄く、その辺の猫と分からないという失礼な理由で、なんとなくそのままになっている。
「カカシさん!今あけます!」
「あれぇ?結界?なに?また五代目から変なもの押し付けられたの?」
確かにちょこちょこ書類の修繕やらなにやらを頼まれていて、その度にこうして締め出されたとみーみー文句を言われていたが、今回は違う。
「あーいえ。その、宛名のないプレゼントらしきものが置いてあったので」
一応謝罪して、危ないかもしれないから一旦帰ってくれというつもりだったんだが。
「あ、それ。おれです!そっか!名前書かなかったっけ?」
「あんたか!こんなに緊張したのになにすんだもう!」
「えーっと。ごめんね?」
うっかり駄々漏れになった本音にも、しょぼくれた犬のような顔をして上目遣いに見返してきた。ああもう!これでいっつも怒れなくなるんだよ!1週間居座られたときもこれでなんとなく許しちまって、それからも俺の家に帰って来るんだよな…。家にいないと入ってこないけど。
「ま、まあいいです。プレゼントはその、嬉しかったですし」
「そ?よかった!」
開けっぴろげな笑顔は意外と子どもっぽい。そこがこの人らしいというかなんというか。
「…これ、おもしろいクナイですけど、なんでチャクラが?」
「あーそっか。イルカ先生ならわかっちゃうよね。一応ねー?」
「一応って?」
「んー?お守り?」
「お守りって…」
チャクラ発する武器なんてもってたら、居場所がばればれだし、逆に危ないと思うんだが。
「イルカ先生。そのチャクラ、誰のだかわかる?」
「…あー…そういや、これ。カカシさんのですね」
言われてみれば分かりやすい。隣に雑魚寝してるときとかよくこんな感じで、チャクラがあるんだかないんだか分からないくらい気配殺してるよなー?
「普通なら検知できないくらいなんですけどね。イルカせんせは敏感だからなー?」
「そ、そうですか?」
箱をあけかけるまで気がつきませんでしたってのは言わないで置こう…。
「ま、もうちょっとだと思うんですよねー?大分慣れてくれたし」
「は?」
「いーえー?こっちの話」
うーん。相変わらず訳のわからん人だが、まあこの人からのプレゼントと思うと嬉しいからいいか。考えてもこの人のことは永遠に分からない気がするし。
「じゃあ飯でも食いますか?」
「そうそう。お誕生日おめでとうございます。はいごちそうー」
「あ!うまそう…!ありがとうございます!」
折り詰めからうまそうな匂いが…高そうで美味そうだ。
誕生日…いい日だな!
「…とりあえず胃袋からよねー?」
「とっといた酒があったと思うんで、出しますねー!」
「…はーい!酔っ払いすぎたら食べちゃいますからねー?」
「残さず全部食べるんで安心してください!」
なんてたってこの弁当むちゃくちゃ美味そうだもんな!
浮かれきった俺を見つめるこの人の瞳が、ちょっとばかし鋭いのが気になるが…まあいつものことだ。腹減ってんのかもしれないし。
今日はもりもり食えそうだし酒も美味そうだし、気分がいいから添い寝でもしてやるか。いつも寂しがって強請って来るんだが、流石に早々せまっ来るしい寝床で寝る気になれなくて、断ってばっかりだけどな。
「今日は、いい日だ!」
「そうですね」
にやんとちょっとだらしなく見える笑顔に俺のにこにこ笑いながら本日最後のプレゼントありがとうの気持ちを込めて、頭をなでてやったのだった。

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適当。
誕生日プレゼントはまだ終わらない。(犯行予告)
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