降って湧いたもの(適当)



本当にあんなもんが入るんだと、人体の神秘に驚愕した。
元々出す所で、入れる所じゃないはずだってのに、それもあんなデカイモノが。
受け入れられない現実は、だがしかし俺の驚愕を他所に着々と進行していた。
「きつ…!」
「うぅ…!」
そりゃそうだ。だからそこは出す所で入れる所じゃない。
なんだってこんなとこにしかもそんなもん突っ込もうと思ったんだこの人は。
望まぬ行為を強いられているというのに、疑問ばかりが頭をよぎる。これも一種の現実逃避なんだろうか。
それとも、この人があまりにも必死になって腰を押し付けてくるからだろうか。
痛みがあるのか眉をしかめている。とてもじゃないが気持ち良さそうには見えない。
もちろん突っ込まれてる側としても、無理矢理広げられた部分が痛むし、もしかすると裂けたんじゃないかと思うと恐ろしくてならない。しかも異物に無理矢理押し入られたお陰で腹が苦しい。
他人の拍動をこんな所で感じる羽目になるとは夢にも思わなかった。
この苦しみを少しでも逃がそうと息を吐き、縛られた腕で縋るものが他になかったから男の首を抱え込むようにするしかなかった。
いきなり襲われた時は当然応戦した。
そりゃそうだ。いきなり背後から襲い掛かってくる連中は今までだって幾らでもいたが、当然のことながらそれらは全て俺への悪意に満ちていたんだから。
クナイを抜き、里内での私闘は禁止されていることを駄目元で叫んで注意を引きながらソレを投げつけ、それから全速力で駆け出した。
俺の家の辺りは人通りも少なく、夜は静かで周りに被害がいかないだろうと思ったんだ。
要するに、自力でなんとかできると思い込んだのが敗因だったのかもしれない。
敵の気配が一人だったことで油断した。それがまさかこんなイキモノだと露ほども思わなかった。
こんなに、しなやかですばやく、だが通りすがりの善良な男の中忍をいきなり茂みに引きずり込んで犯すような頭のネジがすっぽ抜けたようなイキモノだとは。
「ん。上手」
「ひっあ!」
苦痛を逃すために短く繰り返していた呼吸は、男にとっても役に立ったものらしい。
深々と突き立てられたモノが何なのか、考えるのも恐ろしかった。
だがしかし忘れようにも行為はおそらく始まったばかりで、えぐるようになんども出し入れを繰り返すモノは熱くなる一方だ。
苦痛だけだったはずなのに、俺の方までおかしくなり始めている気がして、しがみつく力を強くした。
苦しそうな顔でもみせてくれればいいものを、そんな気配はまるでない。
むしろ悶える俺に気を良くしてか、にやりとどこか凄みのある笑みを浮かべている。
「あ、ここ?」
「…ッ!あ!」
「みつけた」
ぶわっと体温が一気に上がった気がした。
だめだ、そこは。…おかしくなる。
「や、ぁ!」
「ん。きもちいいね。いっぱいしてあげるから」
そんなもん誰も頼んでないと叫ぶつもりが、口からあふれ出るのは甘く爛れた嬌声ばかり。
「だから俺のこと好きになってね?」
だから続くその台詞にも、当然答えることなどできなかった。
******
「おはよ」
「はぁ。おはようご…え?」
俺の家の俺の寝室の俺のベッドの上で、見知らぬ…いや昨日嫌というほど見上げていた顔が笑っている。
「ごはん?お風呂はさっき寝てる間にすませたけど、一緒にもう一度入る?」
「へ?え?え?な、ななな!?」
だめだ。なんだこれ。何なんだこの人。
父ちゃん母ちゃん!俺の憩いの我が家に強姦魔がいます!
「同棲っていいですよね」
「いえ、それは個人の自由だと思うんですが、あんた誰だ」
情けないことに掠れ切っていた声に、男はなぜか恥らいながら答えをくれた。
「はたけカカシと申します。いく久しゅう」
「へ?」
前半部分は…なんだか気のせいかもしれないけどむちゃくちゃ高名な忍の名前を聞いた気がするがまあ置いといて。
いくひさしゅうってなんだ。おい。
「暗部抜けないと籍動かせないんですけど、ま、それはおいおい。ほら、お互いのことを知ってからの方がいいでしょ?」
なんだろう。このイキモノ。やっぱりおかしい。
訳のわからないことを言いながら、極めつけに体の相性は最高でしたけどなんていいながら、頭に鼻が咲いたように笑っている。
「寝ます」
駄目だ。とりあえず起きたらどっかいっててくれることを祈ろう。
力では適わないことは証明済みだしな。
「昨日いっぱいしちゃいましたしね。一緒に寝ちゃいましょ?」
そうしてもぐりこんできたイキモノを出来るだけ意識から追い出すように瞳を閉じたのは数秒。性懲りもなく俺の体をまさぐり始めた男に再び喘がされるまで数分。…全部終わって流石に耐えかねて泣きながら力なくぶんなぐって説教を始めたのはその翌朝のことだった。


だが必死の説得の甲斐なく、嵐のようにやってきた男は俺の家に馴染んでしまった。

「三代目…」
「すまん」
思い余って恥を忍んで三代目の所まで直訴しに行ったらこれだ。どうなってんだおい。
「三代目―。暗部やめさせてくださいよ。俺の大事な人がここまでしてるんですよ?」
何を勘違いしてるんだか、ぶーぶー不満顔で訴える始末。
俺の人生はどこでまちがったんだろうと遠い目をしたくもなる。
「その、な。イルカよ」
その瞳を見れば言いたいことは分かる。稼ぎ頭の我侭を無碍に出来ないんだろうし、この人は基本的に我を通すのが当たり前だと思い込んでいる。
何やっててもくっついてきて分離不安気味だし、甘えた声で名前呼んだの無視すると泣きそうな顔で押し倒してくるし、イルカ先生がどっかいっちゃったと思ったとか言いながらふわふわした顔で笑うし。
そんなことされたら…なんだか俺までふわふわするんだよ。
だから…しょうがねぇ、のか。これは。
「…水道光熱費、この人の口座から引き落としにしといてください」
ソレをいうのが精一杯だった。まあ隣で家賃も生活費も出しますね!なんて盛り上がってるのもいたが。
降って湧いたイキモノを受け入れると決めた途端、なぜか安堵した自分が一番不思議だ。

重々しく頷いた里長の、疲労に満ちた顔には気づかなかったふりをした。

「ふふー!帰ったらいっぱいいちゃいちゃしましょうねー!」
「飯が先です飯が」
人生何が起こるかわからないもんだなぁと思いながら、浮かれ騒いでいる男の手を握った。
これはこれで幸せなのかもしれないと、ため息をつきながら。

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適当。
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