「ねー。だめ?」 「だめ」 「どうしても?」 「どうしてもです」 どんなにかわいく小首をかしげて強請られても、切なげな吐息を漏らされても、潤んだ瞳で見つめられても…駄目なもんは駄目だ。 というかだな。今まで何度も同じ手にひっかかってきて、流石の俺も学習した。 この人は自分の見た目すらも武器にする上忍なんだから、今更なんだけどな…。 幾度もこの罠に嵌っていた己が情けない。 …もうなー。自分でも大概だと思ってはいるんだ。 第一印象は胡散臭い上忍だったのに、普段はちょっとぼんやりしてて危なっかしい所があって、ついつい手助けしてたらいつの間にか俺を見ると駆け寄ってくるようになって、そこからはもう…。 坂道を転がり落ちるように、この人に惚れていた。 懐っこいくせに変に壁を作る。それが気にかかってどうしようもなかった時点で、勝負はついてたんだと思う。 だが相手は上忍。しかも良くは知らないが曰くつきとはいえ、優れた忍ばかりを輩出してきた一族だ。当然血を継ぐことを望まれている。 片や俺んちは大怪我しても死ににくいとか根性があるという美点は父ちゃんと母ちゃんから受け継いだけど、残念ながらそれ以外は至って普通の中忍だ。 釣りあいってもんを考えたらありえない。それは友人として付き合っているだけの俺にすら食って掛かってくるくノ一たちに言われなくてもよくわかっていた。 同性同士で何が問題って言ったら血を残せないことと、なによりこっちがよくても相手が大丈夫かってのがネックだ。 生理的に同性が駄目ってヤツはいくらでもいて、もっというなら自分もそっちの方だった。 ある意味運命なんだろうか。 優しい嫁さんと子沢山であったかい家庭を築くのが夢だった俺が、心底惚れた相手が同性なんて、いかにも間抜けで俺らしいのかもしれない。 だからこのまま片恋に浸って生きていくんだと思っていた。いつか忘れられる日が来るんだとしても、それはきっとずっと先だろうと。 ところがだ、こじらせすぎた片恋は思わぬ方向に発展した。 …上忍からの強姦未遂という形で。 あの人で抜けるかって言われりゃ、当然出来る。だがどうしたいかと聞かれれば答えに詰まる。 要するに、まるで具体的に考えちゃいなかったんだと、今なら分かる。 いつも通り飯食って酒飲んで、一人暮らしの侘しさをかみ締めながら寝室に入った途端、突きつけられた鈍く光る金属に息を飲んだ。 「里内ですよ。アンタどうしたんですか」 「んー?あのね。がまんできなくなっちゃった」 終始静かな笑みを浮かべていた男は、だがその瞳に恐ろしいほどの欲望の炎を宿し、それに射すくめられたように動けなかった。 多分、俺はクナイがなくても抵抗できなかったと思う。 「なにを」 「んー?ナニを?」 こんな状況だってのに少しだけ笑った。こういう下らない掛け合いも楽しくて、どれだけこの人に溺れていたのかと噴出しそうになった。 「冗談はよしましょう?飯なら残り物でもよければ」 「食うなら、アンタがいい」 そうのたまった上忍様が、一枚きりしかない春物の寝巻きを切り裂くのと、ベッドにすっとばされたのは、ほぼ同時だった。 「なにすんだ!」 「だーかーらー。ナニしますよ。隅から隅まで俺のもんにするんです」 その時の顔が忘れられない。悲壮さや自棄になってたならまだわかる。 …あの時、あの人は宝物を手に入れた子どもみたいな顔で笑ったんだ。 どこまでも素直で我侭で。ほっといたら何をしでかすかわからない人。 そんな顔されたら取り繕ってた諸々がもうどうでもよく思えてきて。 「なら、アンタも俺のモノになりますか?」 「…ええ。もちろん」 いきなりキリッとした顔で頷くからそれもおもしろくて、まあ、その。なんだ。行為自体には合意したわけだ。 「なら、どうぞ。経験ないんでおてやわらかに」 そうして、強姦未遂は和姦になったというか、あれよあれよという間に弄られて突っ込まれて喘がされていたというか…。 何が切っ掛けになったのやら、スイッチが入ったように激しく攻め立てられて。 …人生初の同性との性交渉と、後でイったのとが同じ日になった。 我ながら容易いにも程がある。 気まぐれでも遊びでもいいかと血迷ったのも否定しない。正直に言えば、それだけ煮詰まっていた。 それっきりになることを覚悟して受け入れた行為は、それからも続いている。いやむしろ執拗さを増したかもしれない。 「しーたーいー」 「だーかーらー。今日は駄目です。明日任務でしょうが」 「だからしたいんじゃない。イルカ先生が足りなくて息ができなくなったらどうするの?」 無茶苦茶な言い分に反比例するような真剣な目。…これにだまされたら駄目だ。 賢い上忍様は、人を誑かすことにも長けている。 「息ができなくなったりはしないと思いますよ?どうしても駄目なら」 「駄目なら?」 「…任務さっさと終わらせて、息が止まる前に帰ってきなさい」 掠めるようなキスを与えて、でも触れさせてはやらない。 押し切られたら拒めないのは経験済みだ。実力差もあるが、このひたむきによこしまな思いをぶつけてくるイキモノに、到底敵う気がしない。 …ほだされて逃げ損なってうっかり張り切りすぎてチャクラ切れでも起こされたら困る。 「どうしよう」 「え?」 「帰って来いとか」 いけなかっただろうか。あれ以来、俺の家かこの男の家か、どちらかに一緒に帰るのが日課になってるんだが。 もしや調子に乗りすぎたか。 「あ、の?」 「なんで鈍いくせに殺し文句ばっかりすごいこと言うのよ」 あ、ヤバイ。なんだかわからんが、またやっちまったみたいだよな。これ。 さっきまで危惧していたのとは別の意味で。 「明日!任務!」 「はいはい。だからどーしたの?あんなこと言っといて逃げられると思うの?」 あんなことが何なのか分からない。今着々とひん剥かれつつある忍服は、早晩男の手によって全て脱がされてしまうだろう。 「うぅ…思いません」 「なら、いいじゃない。…シよ?」 問いかけたくせに答えを待つつもりのない男に、最後の砦であるパンツまで奪われて、なんとも情けない格好だ。 最中の姿を思い描けばそうでもないのかもしれないが、考えると羞恥心に殺されそうなので考えないことにする。 だがどうにも落ち着かなくて、しっかり全部着込んだ男が憎らしく思えてきた。 「アンタも脱げ」 だからその、そんなに深く考えてた訳じゃなかったんだ。 ただ俺だけ間抜けな格好ってのはいただけないと思っただけで。 「熱烈。わかってないくせにもう!知らないから!」 そうして結局逃げそこなった俺は、それこそ頭の天辺からつま先まで全部美味しくいただかれたのだった。 ********************************************************************************* 適当。 四月馬鹿小話はおきっぱなしでもいいかなーとおもってみます。 ご意見ご感想お気軽にどうぞー |