焔(適当)


「俺が!俺がここまで…!くそぉ!俺のモノだ!消せ!消せぇえ!」
燃え落ちる柱に狂ったように叫ぶ男は、もはや正気ではないのだろう。
術も使えぬ一般人一人がどうあがいた所で、ここまで燃え広がった炎を消すことはできない。
「語るに落ちたな」
どう取り繕っても誤魔化しようがないこの状況で、どうやらまだ自己弁護に終始するつもりらしい。全てを暴かれたこの状況で言えるとは、ある意味関心さえする。
「ま、どっちにしろ消すだけだけど」
命を奪われることよりも、張りぼてでしかない己の名誉とやらが大事らしい。
「俺は!俺はすばらしいことをなそうとしていたんだ!それをお前らが…!」
「はいはい。詐欺師になるにも無理があるねぇ?その破綻した理論」
なまじ名君であった先代を継いだのが、この男の不幸だったのかもしれない。
先代の死と共に転がり込んできた全てを、己の成果と見誤った。
それでも先代の敷いた善政はその死後も生き続けたから、まだここまでの被害で済んでいるのだろう。
長い闘病だったと聞く。死後どのような手はずで国を治めるか事細かに遺言し、最後まで己の民を案じたまま旅立ったのだと。
善王だったのは確かだ。おかげで国は栄え、富を産んだ。そしてそれは民草を生かすために惜しみなく使われた。
一国を支える以上、暗い部分がなかったとは思わないが、少なくともその全てをこの国に支えた先代の方がずっと、この男より名君と呼ばれるには相応しかっただろう。
その分さぞや…己の後を継ぐであろうこの男の小物さに涙したことは想像に難くないが。
先代の死後しばらくは大人しかったらしいが、この男を支えられるようにと選び抜かれた側近たちを退け、富の大半を己のために浪費し始めるまでそう長くはかからなかったと聞く。
それもよりによって外道の類の業に力を注ぎ、おかげで俺は果たしたくもない約束を果たしにこの地へやってくるはめになったのだ。
「イヤだ…!俺のものだ!俺のモノなんだ!」
「モノなんかじゃないよ。アンタのでもない。…こうなると分かっていたから、アンタの父親は俺と、いや里と契約してたんだもの」
病床にありながら、「貴殿にも悪い話ではないだろう?」と凄みのある笑みを浮かべた男は、あの時確かにこの男の父であることを捨てたのかもしれない。
もしも変節者となれば、その命をもって購わせよと誓わせたのは、こうなることを予見してのことだろう。
そもそもが大蛇丸の手のものを追って、結果的にこの男にたどり着いたようなものだ。
永遠の命とやらを餌に、散々財を吐き出させ、この男自身もまた実験体として己の身を差し出したことが分かっている。
あるはずもないものを求めて国を傾け、圧制を敷くには邪魔となる知に長けた側近の命を奪い、結局はこれだ。
最後まで国主であることを選んだ先代を、この男がどんな気持ちで見ていたのか。
…この分では理解などしてはいまい。この男を支えようと差し伸べられた手をすべて振り払ったことの意味も、もう随分と昔に己の父に見限られたことすらも。
「うそだ…うそだ!」
「その手、もう動かないんじゃない?…あんな狡猾な蛇の誘いに乗って、危ないと思わなかったの?」
子どもに言い聞かせるように言った言葉は、男には届かなかったようだ。己の身の変化に狂ったように叫びながらのた打ち回っている。
火の熱か、それともあの異常な速さで老いていった手からみると、無理な施術の可能性も高いかもしれない。
変色し、その部分だけ異常に皺深い手を見る限り、老化を止める実験にでも供されたのだろう。あの執念深い蛇は酷くそれに執着していたから。
…まあ何にしろどうやら失敗に終わったようだが。
「ひっひぃ!いやだ!うそだ…!俺は!俺はこの国を…!」
「じゃ」
研究施設ごと全てを焼き捨て、後は消された側近の遠縁だという後継者を据える所までもう決まっている。
念のため首を落としたあと、火遁で焼いておいた。これでこの“不幸な事故”を疑う者はいなくなるだろう。
「帰ろ」
すべては闇のうちに。
名君の息子は即位まもなくして夭折し、その血はここで途絶える。そして民は何も知らずにそれを嘆くだろう。
それを手にかけることが、名君の残した命とも知らずに、この国は再び安息を取り戻すだろう。
確かにこの手で摘み取った命があるというのに、誰もそれを知らない。
この手で殺めた男と、それを遺言した男の他は。
…俺を置いていったあの人も、同じようにどこかで俺を見限ったんだろうか。
絶え間ない同胞からの非難に耐える日々に、少しずつ壊れてしまった父は。
「イルカ、せんせ」
早く暖めてもらおう。
何も言わなくても、普段は鈍いくせにこういうときだけは聡いあの人は、何も言わずに抱きしめてくれるはずだ。
アンタほど忍に不向きな人をみたことがありませんなんて憎まれ口をたたきながら。
愛しい人…情が深いくせに誰よりも残酷で恋人は、俺よりもずっと忍に向いているらしい。
せめて俺の最後まで側にいてくれればいいんだけど。
その罪の全てを燃やし尽くした炎を振り返ることもしなかった。
この身を焼く焔はすでに胸の内に巣食っている。
上忍の理性を持ってさえ押さえ切れなくなりそうなほど強い執着。
…いつかこの焔に全てを飲まれる日が来たとき、あの人は何を思うだろう。
「閉じ込めてもいたぶってもきっと変わらないんだろうけど、ね」
願わくはできる限りその日が遠くあればいいと、それだけを願った。


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適当。
どっちも忍に不向きな二人。
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