「いいかぁ?酒は!うぃっく!このさけぇうまいなぁああ!」 「あーそうだなその通りだ。だから零すなもったいねぇだろ」 乱痴気騒ぎの真っ只中で、一人だけしらふでいるってのは中々寂しいもんだ。 忍は大なり小なり耐性付けてるから、そうそう酔っ払わないヤツの方が多いはずなんだが、この時期だけは文字通り浴びるように飲むせいか、こうして出来上がっちまうヤツの方が多い。 俺もご多分にもれず、ちゃっかり火影様が用意した恐ろしく値の張る酒をちょろまかしてしたたかに飲んだ後なんだが、元々両親共に酒が強かったせいか、俺自身もザルというか枠とさえ呼ばれる事があるほど酒に強い。 要は酔っ払えない。ってことは、この満ち溢れる酔っ払いどもの後始末は、大部分、俺がなんとかしなきゃならないってことだ。 「さーかーなーはーどーこーだー」 「あっちの重箱ならまだ無事だぞ?それは止めとけ。さっき妙な粉かけてったやつがいた」 「さーかーなーはー」 「ああほら。こっちいこうな?あとお前が踏んでるのは主任だぞ?主任も!しっかりしてくださいよ!」 「…桜が綺麗ですね…」 「そうですね…まあいいや。ほらこっち。これ食ってろ」 「うめー!うめー!」 「こうしているとね。油断したくノ一の皆さんがまたいでくれないかなって…そんなことを考えると年甲斐もなく胸が騒ぐ。春ってステキな季節ですね…」 「…主任。聞かなかったことにしておきますので」 アカデミー主催の酒宴ですらこれだ。後のことを考えると頭が痛いなんてもんじゃない。 そう。今はまだいい。五代目様とアカデミーの面々と、それから事務方の暇なヤツがまざってるくらいだから、被害もたかが知れている。 だが、これだけじゃすまないんだよ。 …宴会好きの五代目様のおかげで、木の葉では無礼講と称した飲み会が乱発されるが、特に花見の季節はそれが顕著だ。つまりはこれの後も上忍の皆さんや暇な奴らが参加して大宴会が行われることになっている。 すでにもう死屍累々って感じなんだけどな…。 ここにノリの良すぎる上に一癖も二癖もある上忍と、特別上忍まで加わったら、そこにできあがるのは地獄絵図…。 「…ここで逃げても許されねぇかな…」 「…同感です」 「ひぃっ!?」 何の気配も感じさせずに背後に立ったイキモノ…心当たりはあるにはあったが、こんな子どもっぽいことをするとは思っても見なかったから驚いたのなんのって。 「なにすんですかカカシ先生」 「いやー…ほら、来いって言われたけどウワバミ上王様以外は死屍累々だし、生き残りに事情を聞こうと思って探したんですけどねぇ。マトモなのアナタくらいでしたよ?」 「…そうですか…」 やっぱりか。そうなのか。上忍連中がこの崩壊しきった連中をおもちゃにするのは目に見えてるし、コイツら以上に弾けて暴れるのも確定だ。 「逃げてぇな…」 「…いや、本気で逃げませんか?今なら気づかれてないと思うんですよ。具合が悪くなったとか適当に理由つけたらなんとかなるんじゃないかって」 「…そうしたいのは山々ですが、俺がウワバミだってのはばれてますよ?」 「でもここんとこ、仕事詰め込まれてたでしょ?過労って線は残ってますよね。ほら、今だって顔色が悪い」 「そ、うですか?」 酒を飲んでて顔色が変わったことは殆どないが、血色が良くなるならまだしも顔色が悪いってのは流石にガタがきているのかもしれん。新学期の準備に加えて宴会の準備にも追われて碌に休みも取れなかったもんなぁ。 それに、言い訳があれば逃げることへの罪悪感も多少は薄れる。…道連れもいることだしな。 「そうですそうです。ほら、行きましょ?酔っ払い共の裸踊りに夢中になってるうちに」 「なにやってんだアイツら…!主任も踏まれて…幸せそうだからまあいいのか…。あ、あの、でも歩けますんで」 「まあまあ。ほら、俺にも言い訳が欲しいので」 「…そうですね。すみません」 優しくされると本当に具合が悪くなった気がするから不思議だ。 弱ってんなぁ。気付かないうちに無理をしていたのかもしれない。 背負われると、ほそっこいと思っていた背中は意外と広くて、安心した途端、眠気が襲ってきた。 「ねちゃっていいよ?」 「う、でもですね…」 「大丈夫。ね?」 あやすように頭を摺り寄せられたら、もう限界だった。 「…すみませ、おれんちついたらおこし、て」 意識が途切れる瞬間に、送り狼しないように気をつけなきゃなんて台詞を聞いたような気がしたが、吸い込まれるような眠気に襲われてそれ以上のことは覚えていない。 翌朝を上忍のベッドの上で向かえたこととか、手を出さなかったことを褒めてほしいくらいですと笑いながらやたらと美味い朝飯を振舞われたこととか、心配で宴会場を見に言ったらまだ飲んでたとか、俺の頭がパンクしそうなくらい色々あったわけだが。 …一番驚きなのは、俺の恋人が同性のこの上忍になったことかもしれない。 ******************************************************************************** 適当。 酔っ払いが頻々にその辺に落ちている季節なので。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |