「いつになったらくれるの?」 「だーめーでーすーっていってんでしょうが。まだ先です」 この子犬の瞳で訴えてくる男をどうしたものか。 いい年だ。それに階級も年齢も、確かめなくても実力も上だろう。 甘える仕草に騙されて丸っと全部食われたことから考えても、そっち方面でも敵いそうにもない。 元いた部隊だって、選ばれた精鋭の中の精鋭しか所属できない所だ。我慢なんてお手の物だろうに。 それがどうしてこうも必死になって強請るのか理解に苦しむ。 「じゃ、中身教えて?そしたら我慢できるから」 またアホなこと言い出したぞこの人。 この人が本の半月の我慢ができないはずがないんだが。 「どこの馬鹿がプレゼントの中身教えちゃうんですか…」 まあ本当の子どもならサンタさんへの手紙とかリクエスト聞くからそれはそれでいいと思う。 ただこの人の場合は、俺がこっそり渡すかどうかも分からないプレゼントを買ったのをどこかから知っただけだ。 買った店がマズかったんだよなぁ…。いくら上忍相手でも、絶対に中身を言ったりはしないだろう。 相手が火影クラスなら別だが、あの偏屈な爺さんからはこの人の腕をもってしても何を買ったのかを聞きだすことができなかったらしい。 忍具屋の店主はある意味里の忍の癖を知り尽くしてもいるから、そういう意味じゃ当然だ。 あの爺さんの場合は、それだけじゃなくて、この人をからかいたかったのもあったんだろうけどな。 肝心のモノを取りに行ったときに、クソガキがいっちょまえに大人になっただの、チビイルカを選ぶなんざ趣味がいいだの応援とも感傷ともつかぬ言葉をもらったっけ…。 それだけならまだ良かった。忍具屋で自分のモノを買うことなんてありふれた日常だ。 まあ野暮なことってだけでも不審がられる要素ではあったんだろうけどな。 でも一番の失敗は…ラッピングも自分でするつもりでサクラに相談して買い込んだからだろう。 おかげでそれがプレゼントだってばれた。 そのせいで泣きそうなサクラに心配されて…まあいいんだけどな。迷惑かけたのはほんっとーに申し訳なかったけど。 …誰に渡すんだとかなんとか言い出して押し倒されて逃がさないだのなんだの騒がれて散々な目にあったのも水に流そう。 この人を相手にしてる限りよくあることだからな。ぶん殴ってそれでチャラだ。 「待てない。ねぇくりすますっていつなの?」 ああもう!なんでこんなに甘え上手なんだ! イベントごとに疎いっていうか、これまで興味がなかったみたいだもんな。 ほっとけば諦めるかと思ったら存外にしつこい。 …一応俺にあけたいと訴えるだけで、プレゼントの箱を勝手にあけないのは、ある意味進歩したんだろうか。 「クリスマスっていうのは25日です。その日になったら…」 「えー!そんなに待てない!」 これやっちまったら新しいのを買う余裕はない。中忍の財布はそんなに豊かじゃないんだ。年越しだって控えてるのに、そうそう贅沢はできない。 「いい子でいてください…おねがいですから…」 普段ならこれで不満そうに引き下がるんだが、今日は違った。 「白眼の子…そういや紅のとこに…」 不穏すぎるその呟きは、あからさまに俺に聞かせるために言っているとしか思えない。 「まてこら!うちの子になにさせるつもりですか!」 「もうイルカせんせの生徒じゃないもん!紅のとこの子だもん!ちょっとみてもらうだけだし!」 たちが悪いわがままを…!このクソ上忍! 「いいですか!?もしあの子や…それからネジなんかに依頼したら許しませんからね!」 「え!その二人以外ならいーの?」 「喜ぶな!あんたの部下とか知り合いとかでも駄目です!」 だめだ…なんだってこんなに執着するんだ! 渡すかどうかすら迷ってたってのに、最近じゃ受付でも聞いてくるから周りにもバレバレだ。 バカップル痴話喧嘩禁止とか言われたんだぞ!?この人に羞恥心なんてものはないから気にもしないだろうけどな…。 「分かりました。その代わりクリスマスプレゼントはなしです」 この人に合わせた特注品だ。正直財布が相当厳しいが、この人がせっせと貢いでくれる食料でしばらく食いつなぐつもりだった。 だから上げないなんていう選択肢はない。 こうしてごねられ続けるくらいなら、いっそ渡してすっきりした方がまだましだ。 「え!いいの!…くりすますぷれぜんとってなんだかわかんないんだけど、コレはもらえるんだよね?」 なんでそんなに嬉しそうなんだ…。 前から読めない人ではあったけど、コレに関することでより一層悪化した気がする。 「あげますよ。当日はなにもなしですけどね」 もういい。プレゼントなんて恥ずかしい真似考えたこと自体がマズかったんだ。 色々と諦めた俺の手から、白い手が箱を浚っていく。 丁寧に素早く包装紙をはずした中からでてきたのは、クナイだ。 「へー!あ、これ俺の型だ。仕込みまで!ありがと!」 「いーえ」 コレで騒ぎは収まるだろう。とりあえずしばらくは。…しょっちゅうナニかしらで騒いでるから一時的なものになるにしても、平穏が手に入るってのは大事なことだ。 …後は箱を回収して何食わぬ顔で捨ててしまえば…。 「あ、これ」 「ちょっ!なんですか!ゴミ撒き散らすな!」 ラッピングにこの人の髪にもにたふわふわした緩衝材を入れたのに、それをわしわしと容赦なく掻きだしている。 「なにすんだ床が!」 それに中身が!…ってのはいえないけど! 「これ…!やっぱり!」 見つけないでくれと祈ったのに、男は目ざとくそれを見つけ出してしまった。 「…ほ、ほんの冗談ですから!」 男が握り締めているのはこの所しきりに署名を強請られていた紙切れだ。 婚姻届なんて冗談にしても悪趣味だと一蹴したものの、手を変え品を変え必死になっているから…魔が差したんだ。俺まで。 俺たちにこんなものは何の意味もないと分かりきってるのに、俺と共にある事をこんなにも強請ってくれるならと、つい。 …まあ、こんな風にしんみりする隙さえ与えてはもらえなかったんだが。 「提出してきます!今すぐ!」 「まてこら!ナニ考えてんですか!同性でそんなもん出せるわけが!」 恥を掻くのはアンタだけじゃないんだぞといいたい。まあいい加減周りもなれちゃいるけどな。 だが男はそれはそれは悪い笑みを浮かべたのだ。 「だせますよー?ふふふ…!そのために必死だったんですから!」 ちゃーんと火影さまにも直談判済みですんで安心してくださいねー? そう言って引き止めるまもなく男は姿を消した。 「だせ、る…!?」 どういうことだ。ありえないだろ?記入済みの紙切れを押し付けられたときも同じ事をおもったんだが…。 まさか。いやまさか。…だがまさかがありうるのがあの男だ。 結局。俺はそのまま窓から飛び出し、寒空の下男を追う羽目になったのだった。 ***** 「お、おめでとうございます…?」 書類は、すでに受理されていた。 この手のことに抜け目のない男らしく、俺が到着したと同時に印がつかれ、無効だと訴えるには職員たちがおびえすぎていた。 呆然とする俺を、男が担ぎ上げてくれなかったら、そのまましばらくは抜け殻のように立ちすくんでいただろう。 「あの紙にチャクラ仕込んでたんですよねー?ある日なくなっちゃうし箱に入ってるし箱にはリボン巻いてあるからこれはもう間違いないと思って!クナイのおまけには驚いちゃいました!」 むしろあの紙切れがおまけだったんだといいたい。 いいたいがしかし男の口は止まりそうにない。 「夫婦別姓ってことで。特例ついでに認めてもらってますから!引っ越しとかも考えますかね?しばらくはあの家でくっついて過ごすのもいいですけど!あとそれからベッドも…」 もう何を言う気にもなれない。 結婚なんて想像したこともなかった。…相手がこの男って時点でそれは無理のない話だ。 この人なら確実に子どもを求められるはずだから、この関係がそう長くは続かないことも織り込み済みだったというのに、どうやってか上層部を押さえ込んだらしい。 実際お前から諭してやれと言われたことすらあったのに、よほどのことをしたんだろう。 「もー好き好き大好き!これでもう俺のものですもんね!」 「アンタも俺のになっちまったんですよ?いいんですか?」 諭すというか言い聞かせてみたものの、男は予想外に不思議そうな顔をした。 「え?あったりまえでしょーが?ナニそれ、逃げる気?ま、もう無理ですけどねー?」 結婚しちゃったし! 高らかに宣言する男が憎い。なんでこうも強引でめちゃくちゃなんだ。 「も、いいです。勝手にしろ」 もう出しちまったものはしょうがない。それに…嬉しいなんて言ったら絶対調子に乗るからな。 「え!ホント?実は新婚旅行年跨いで取ってるんですよね!よかった!」 よくねぇよ!という叫びは男の口づけに消え、これからも振り回されることは決定した。 「じじいになっても捨てないでね?」 すがり付いて囁く言葉にはキスで返した。 もういい。考えても無駄だ。…無駄なら、幸せになった方がいい。 「幾久しく」 無茶苦茶なことをしでかしたくせに、そう言ってやっただけで泣きそうな顔をする男をこれからも大事にしてやろうと思った。 ********************************************************************************* 適当。 ねむー ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |