「さっさと脱げ」 幼い頃からずっと、気付けば人の上に立つことばかりが多かった。 そのせいか命令されるのには慣れていない。 特に見知らぬ中忍なんかには。 「アンタなんなの?何様?」 「うるせぇ!アンタこそ馬鹿か?ここはアカデミーに近いんだよ!血の匂い垂れ流してうろつくんじゃねぇ!」 いきなり拳骨を落された。 そしてそれを避けなかったのは、単によけられなかったからでもある。 要するにけが人相手になにすんのよこいつ。 「あー…悪かったね。もうちょっと転がしといてよ。多分動けるようになるから」 毒はようやく抜けてきたが、足元は流石にまだ覚束ない。 報告だけ済ませたら俺だって布団にもぐりこんで休みたいが、この状態じゃ流石に無理だろう。 自分の目算が甘かったってことだ。 その点ではこの男の怒りももっともではある。 忍の卵が血臭ごときで怯えるようじゃ役に立たないと思うけどね。 「…チャクラ切れと、毒か…。なんで医療班呼ばないんですか…!」 男はのほほんとした外見の割りに腕はそこそこらしい。 俺の状態に気付けるなら、さっさとどっかいってくれないかねぇ? 「呼べないの。もうほんとに寝かせといてよ…」 わざわざ里の平穏をぶち壊したかったわけじゃない。そんな面倒なことをする暇があったら修行でもした方がずっと有意義にすごせる。 単に力尽きたっていうのが正しい。要するに無茶をしすぎた自分が悪いのだ。 分かってはいるが、この所たちの悪い任務つづきで疲弊した部下たちを休ませてやりたかった。 一人でも無理ではないだろうと踏んで、己を過信した。 実際ここでしばらく転がっているのを放っておいて貰えれば、報告を済ませて自力で手当てもできる。 …見つかってしまうなんて、今日はついてない。 「…いいから腕上げられますか?毒抜くのに傷広げるなら、もうちょっとちゃんと手当てしなさい。あとこれ飲む!」 「むぐ!んっ!ちょっと!」 無造作に面を上げたと思ったら口布まであっさり引き下げられてしまった。しかも強引に放り込まれたものがほろ苦く甘いものが溶けながら口の中に居座っている。 「造血丸と兵糧丸とチョコレートです。苦くないからとっとと飲め」 「あーチョコ、ね」 完全に子ども扱いだがこの際仕方がない。 口にしたものにも毒の気配はないし、僅かでも体力を戻さなければならないのも分かっている。 飲み下したそれは思ったよりすんなりとのどの奥に消えて、すぐに体がふわりと温かくなるのを感じた。 「よっし!こっちも塞ぎました。急場しのぎだからちゃんと病院いきなさい!」 …驚いた。確かに傷が塞がっている。 その物言いをおいておけば、この手際のよさと度胸の据わりっぷりはいっそ部下に欲しいくらいだ。 「ありがと。報告行ったらちゃんと手当てするから」 「はぁ!?アンタ馬鹿か!まず先に手当てだろ!」 「アンタが塞いでくれたでしょ?急ぎなの」 歩ければ十分だ。動けなくなったら最悪またどこかの物陰で休めばいい。 今の所男のよこした薬が充分効いているようで、思った以上に体が軽いから、そんな必要もなさそうだ。 「気をつけてくださいよ。あぶなっかしいな!」 「はいはい。ありがとね」 「はいは一回だ!…ゆっくり休んでください」 「…ん。じゃーね」 ゆっくりか。休暇は…この状態じゃ貰わざるを得ないだろうが、傷を塞いでもらったから誤魔化せば何とかなるかもしれない。 「ちゃんとやすめよー!」 追いかけてくる言葉に返事はしなかった。 変わった男だ。…でもあんな態度でも悪い気はしなかったねぇ? 「ま、いっか。とりあえず急がないとね?」 報告が済んだら今度こそ泥のように眠ろう。 それから…気が向いたら礼でもしてやろうか。 それを思うとあれほど重かった足は、驚くほど足が軽やかに動いてくれた。 ***** 「反則でしょ…」 「アンタのがダメだろ。絶対休まないって顔に書いてあったぞ!」 「顔見てないでしょうが!」 「でもわかったんだからしょうがないだろ!」 結論から言うと、俺の状態は三代目に密告されていた。 …で、その結果がこれだ。 「アンタわざわざ介護になんてついてる暇あるの…?」 「暇はない。必要なんだからしょうがないだろ?いいからね・ろ!」 布団に押し込まれて満面の笑みをよこす男に抵抗もできずにいる。 押し寄せる眠気のせいもあるがなにより。 「アンタさ、お人よしだし、かわいいよね」 「はぁ!?なんだそれ!」 「ん。おやすみ…」 自分の中に芽生えたこの感情を、もうしばらくは男には黙っておこうか。 もう少し回復したら…隙を見て襲ってみるのも手かもしれないし。 「くそ!昼飯てんぷらうどんにしちまうぞ!」 望んで任務漬けの日々を送っていることに不満はないが…ここらで憩いってものを手に入れてもいいもんね? 毒づきながら部屋を出て行く男を見送って、俺は柔らかな眠りに落ちていったのだった。 ********************************************************************************* 適当。 眠気に負けがちです。いきる。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |