あいとよく(適当)


ヤりたいときってのはこっちが望もうと望むまいと勝手にやってきて、それはクソ忙しいときだろうが、暇を持て余しているときだろうが関係ない。
まあ流石にチャクラ切れ起こしたときとか、身動きできないほどの怪我をしてるときなんかはそんなことにはならないが。
で、何で今日なんだってタイミングでくると、色々困るとはいえ、流石にこの年になるといい加減落ち着いてくるし、対処法だって身につける。
任務中ならでかい天幕で雑魚寝なんてザラだからな。そりゃガキの頃なら通りすがりの肌も露なくノ一におろおろしたもんだったが、今は受付勤務だってこなしている。
ま、まあいきなり女体変化なんて見せられると流石に耐え切れないこともあるけどな。
朝っぱらからもやもやしていても、どうやって解消するか悩みはしても、仕事だけは淡々とこなしてきた。
まあそんなわけで、その日も油断しきっていた。
「イルカせんせ」
「報告書、お預かりします」
そういって差し出した手の平には何故か男の手が重ねられた。
上忍、元暗部、それから次期火影候補ってのもくっついた、厄介な男だ。
おまけに今日は丁度人肌が恋しくて、落ち着かない気分をごまかしながら仕事をこなしていた所で、同性といえどもフイに触れてこられると一瞬動揺した。
くそ!いいから報告書出せって!子犬みたいな目でこっちみんなって!…頼むからそんな顔しないでくれ。
何度か飯を食いにいったから、この男のすこぶるよろしい素顔を知っている。うらやましいとかそういうのが全部すっ飛ぶくらいで、いっそ観賞用としてどこかに設置しておいたら木の葉が潤うんじゃないかと思うくらいには綺麗な顔だった。
作り物みたいというか。普段晒されている片目は常に半眼で、目つきは決してよくないはずなのに、顔半分を覆う布をとっぱらっただけでこうも印象が変わるとは思わなかった。
それだけじゃない。だまっていれば冷たい感じの美形なんだが、会話し出すと意外と笑う。そしてそれがどこか幼いというか無防備というか…。
上忍なんだから守ってやる必要なんてないはずなのに、殆ど衝動に近いほどに湧き出てくるこの人への庇護欲に、我ながらそりゃもう焦ったさ。
何度か見れば慣れるだろうと思って、自分からこの人を誘ってもみたが、結局今もこうやって不意打ちされると、心臓が大騒ぎし出す。…不安と、なにかわからないがとにかく守らないとって衝動で。
つまり素顔を見て以来、なんとなく俺はこの人に弱い。
おまけに俺から誘ってから懐かれたのか、ちょこちょこ向こうからも誘ってくるようになって、おかげで俺のこの衝動は悪化した。
今じゃ顔を隠してたってどんな表情してるのか分かるようになってしまっている。
この人は俺に会う前にAランク任務こなしてきた上忍!とか、自分に言い聞かせてはみたんだけどな…。任務の内容は口にするはずもないが、ちょっと疲れましたなんて言おうものならそりゃもう大慌てで飯を食わせて家まで送ってしまったりしている。
…アレだ。いつか俺はあの人を自分の家に連れ込んでしまいそうで恐い。子どもじゃないんだ。とっくに自立した大人なんだから、そんなことしたら大問題のはずなんだ。
俺から誘ったときだって、周りは上忍相手に大丈夫かとか、上忍に媚を売るなんて流石だなとかぎゃあぎゃあ騒がれたっていう前歴がある。
それでなくても今日は適当に処理するか、どうしても寂しかったら変化でもして花街にでも行こうかとすら思っていたのに、不用意に触れてこないで欲しい。
「…ねぇ。もう仕事終わりでしょ?」
「へ?あ。そうですね」
間抜けにも手を触れ合わせたまま時計をみれば、いつの間にか就業時間が過ぎている。引継ぎは…ああ。俺がこんなことしてるもんだから、声かけられなかったんだな。そんなに真っ青にならなくてもいいだろうに…。別にこの人は噂ほど恐い人じゃないし、他のタチの悪い上忍みたいに身分を盾にどうこうなんてことはしない人だ。
「あの、引継ぎをしたらで。…何かあったんですよね?飯くらいなら付き合いますから」
「…うん」
相変わらず手は重ねられたまま、男がコクリと頷いた。何故か酷く焦燥感に狩られて次の当番に視線を向けると、泣きそうな顔で睨まれた。
…すまん。今度埋め合わせはするからな…!
「未処理なし。報告待ちは3件だけだ。後は…」
「わかった!わかったから早く行け!」
視線も合わせてもらえないことにほんの少しだけ傷つきつつ、大人しく側に立ったまま待っている男の視線にも急かされて席を立った。
「後、頼んだ!」
返事すら返さずに追い払うように手を振る同僚に頭を下げて、慌てて受付を飛び出した。
くっついたままの男の腕を引いて。
*****
どこか個室のある店で飯でもと思ったのに、少し歩いた所でいきなり足を止められてしまった。
しょんぼりした顔でそんなことされたら、矢も盾もたまらなくなって、重い腰だの蟠る熱だののことは一瞬で頭から消えていた。
「で。なにがあったんですか?いいなさい!」
「…俺の家、来てくれる?」
「へ?いいですけど」
家に来い?ってことは家でなんか困ったことでもあるのかそれともよっぽど内密な話がしたいのか。
事情は飲み込めないがそんなことくらいお安い御用だ。
即答したのにいきなり頭に手をやって首を振られた。なんだよ?頭痛いんじゃないだろうな?それとも…どっちかっていうと苦しそうにはみえるんだが。
「ああ、そうじゃないな。だまし討ちみたいなのはやっぱりイヤなんで、いいます」
「はぁ。な、なんでしょう?」
なんでもいいから病院かそれともその苦しみの原因をさっさと吐けといいたいのを堪え、握られたままだった手を強く握り返すと、困ったように笑って魅せた。
「好きなんです」
「え?」
「あなたが。今日はちょっと理性が薄くなってるから駄目だって思ったのに、気付いたらあなたを探していて。…色っぽいため息ついてるから」
ため息なんかついたか?俺。確かに仕事が終わってからどうするかってことに頭を悩ませてはいたが。
色っぽい?色っぽいってなんだ。そりゃアンタのことだろうが。悩ましげなため息つきやがって!
「色っぽいって…!」
「騙して連れ込んでって思ったけど、そんなことしてもあなたは手に入らないから。どうせなら万が一に賭けて玉砕でもしてみようかなって。ねぇ。どうですか?…したくならない?」
耳元で囁かれて、霧散したはずの欲があっという間に戻ってきてしまった。闇雲に守りたくなるこの人を、俺はいつの間にか。
でも、そんなまさか。
「…脈なしじゃないって思っていいの?そんな顔されたら我慢できないんだけど」
「っ!な顔って!どんな顔だ!アンタの方こそなんて顔してんですか!」
沸騰しそうな頭は碌な言葉を紡いではくれない。ただ自覚してしまった己の感情を処理しきれずに叫ぶことしか出来ないでいる。
「うん。とりあえずイルカ先生もシたいでしょ?」
そう言って摺り寄せられた腰に、存在を主張しているものを感じて、それはもちろん俺もで、どうしていいかわからなくなって。
「うるせぇ!やるならやりましょう!」
とろりと潤んだ瞳が柔らかくたわんで、欲をその中に光らせながら俺を映す。
「うん。シましょ?もう、なんでもいい。でも、嫌いにだけはならないで?」
この期に及んでそんな弱音を吐くから、腹立ちまぎれに頭をふん捕まえて唇を重ねてやった。
「アンタが、好きです」
「…もう死んでもいい」
簡単に死ぬなんていいやがって。
だがホッと落とされた吐息が熱い。痛みさえ覚えるほど強く抱き締められて、怒鳴りつけてやりたい不用意な台詞への怒りはホンの少し収まった。
「うそつけ。…これ、なんとかするまで死ぬ気なんてないでしょう?」
二進も三進も行かなくなってきた下半身に触れると、振りほどけなかった手はあっさり尻に回されて存在を確かめるように触れてきた。
「うん。狂うほど欲しかったのに、死んでも死に切れない」
欲まみれで笑う男はそれでも綺麗で、守りたいのはこの人が何よりも欲しい相手だからだとつきつけられる。
「じゃ、行きますか」
「ええ」
仲良く手を繋いで、張り詰めた下半身を抱えて、馬鹿みたいに笑いながら夜道を急いだ。
溢れて暴れまわりそうな期待と欲情とを持て余しながら。

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適当。
で。どっちが下かとかいう会話もなしに始めてしまって、終わってから「あれ?俺下?」って呆然とする中忍とか、幸せすぎて地に足つかなすぎて周りに怯えられる上忍とか。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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