泥をつかんでたちあがれ(適当)



ずっと何かに飢えていた気がする。
求めると同時に諦めてもいた。だから終わりにしようと決めた時の気分と来たら最高で、殺すことも傷つけられることも死ぬことさえも恐ろしくなくて、ただ早く終わらないかなってことばかり考えていた。
次に死に掛かったらさっさと諦めてしまおう。
そう決めてしまうだけで、こんなに楽になるのだと知っていたら、もっと早くにそうしていただろうに。
闇の中では息をしている自覚すら薄くて、ただそこに潜み、馴染み、刈り取るべき命だけを見ているだけでよかった。少しずつ磨り減って磨り減って、やがて消えてしまえる日が来るのがただ待ち遠しくて。
いつかは消えられるという希望を胸に…って、ま、妙な話だが、俺にはそれが唯一の希望だった。
怪我をしても仲間が守ってくれてしまうから、できるだけ単独任務を帯びるよう希望して、だがそれでも中々チャンスは巡ってこなかった。
死にたいんじゃないんだ。もう生きていきたくない。
罪をあがなうためだけに歩いてきたけど、一生償うことなんてできやしないと悟ってしまった。
はやく、はやく、終わりが来ないだろうか。
そうやって燻っていたとき、ソレを見つけてしまった。
日の当たる世界にいる変わったイキモノ。
アカデミーなんて碌に行った事がなかったけど、その男はどうやら教師らしいってことくらいは見当がついた。
わらわらとガキをまとわりつかせながら、術の指導らしきものをしている。当然まだガキばっかりだから上手くできる奴なんてほとんどいなくて、呼ばれるたびに忙しなく飛んで回ってて随分忙しそうだ。
俺とそうがたいが変わらないはずなのに、その小動物染みた動きのせいだろうか。どこか愛嬌があるように見えてくるから不思議だ。
そうしているうちに、やっと何人かが術を成功させた。ライター代わりにもならない程度の小さな火遁だ。
驚いた。なんて顔で笑うんだろう。
この程度ならアカデミーに入る前にできたんだけど、たったそれだけのことでよくやったと子どもたちを褒め、力いっぱいなでてやっている。
開けっ広げで闇など気配すら感じられない。この男も忍であるはずなのに。
この男をてにいれることができたら。
ゾクリと背筋が震えた。死ぬことよりも楽しみなことなんて初めてかもしれない。
でもねぇ。きっとこんなにきれいな生物には所有者がいるに違いない。
俺の欲しいモノは、失いたくないモノたちは、全部手に入らないから。…入っても失ってしまうから。
それでも、諦めきれないだろう己をどこかで分かっていた気がする。
*****
「だからね。死ななくてよかったなぁって思うんです」
あの日見た日の当たる場所に生きるイキモノは、絶対に相容れないと思ったあたたかい人は今や俺の恋人だ。
うだうだと暗い話をしてしまったから、嫌がられてしまうんだろうなって思ってたんだけど。
「そうですか。そりゃ間に合って良かった」
心底ほっとした顔でそういわれて、拍子抜けした。
ついでにあの最初に見た日の用のなでてくれた。たまらなくなって抱き締めると、にへらーって、幸せそうに笑っている。なんなのもう!かわいいんだけど!
「もーそんなこと言うと食っちゃうよ?」
明日は演習だって言うから頑張って我慢してるってのにもう。
「あー…その、実は俺もむらむらしてきちゃいましたよ。アンタそんな殺し文句どこで覚えてきたんですか」
怒ってるんだか照れてるんだかその両方なのか、キスと一緒に絞め殺されそうなほど力いっぱいぎゅうぎゅう抱きつかれて良きが詰まった。
苦しいんじゃなくて、この人に愛されているコトに。
「じゃ、ちょっとだけ、ね?」
「ちょっとだけ、で」
ベッドに転がって泣きそうな顔で笑う俺の唯一。
安い同情より、安易な同調より、この人の不器用な愛情表現の方がずっと、俺に生きる力をくれる。
「愛してる」
誰に言われても響かなかった言葉を告げるのは、この人なら受け止めてくれると知っているから。
「あ、あんたは!気軽に言いすぎです!その、でも、おれ、も…」
ゆでだこみたいに真っ赤になってしまった美味しそうな恋人に今度は俺からキスをして、あとはめくるめく夜を過ごしたのだった。


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適当。
生きるのに不安だらけなkksせんせと、なにがあっても生きるのは当たり前でいかにしてこの人を幸せにするかが最近人生の目標になったirkせんせとか。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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