「…殺してくれないかなぁ?」 闇の中だけで生きていた頃と違って、今の俺にはずっと側にいてくれる愛しい人がいて、俺のために笑い、俺のために泣いてくれる。 好きだと告げると恥ずかしそうに、だがそれでもはっきりと好きだと返してくれるし、口付けも愛撫も、もっと奥深くまでつながりあう行為にも応えてくれる。 ま、あんまりかわいいからってしつこくしすぎると殴られたりもするけどね? 元々が同性相手に行為に及ぶなんて考えたこともなさそうな人だ。 それでも、慣れない行為に必死になって、俺の手に、顔に、体中にキスをくれる。 俺がそれこそその言葉で埋め尽くしそうなほど告げている言葉…好きだと、中々いえない言葉の代わりのように。 めまいがするほど幸せだ。 離れることなんて考えられない。 この人がいなかった時間をどう過ごしていたのかすら、もう思い出せなくなってしまった。 ずっと一人、闇の中を歩いてきたはずなのに。 「ん…?どうしたんですか…?アンタしょっちゅう寝坊すんだからさっさと寝なさい」 抱き寄せる腕はぶっきらぼうな口調と裏腹に酷く優しい。 髪をかき混ぜて、それから寝ぼけ眼で俺にキスをくれた。 どうしてこんなに幸せなんだろう? …幸せすぎて怖いなんて、笑い話だと思っていたのに。 「ホントなんだもんねぇ?まいっちゃう」 好きで好きで大好きで、気が狂いそうなほど好きで…その気持ちを男らしく、俺の我ながら面倒くさい性格も事情もなにもかもひっくるめて全身で受け止めてくれた俺の唯一の人。 失うのが怖い。 愛想をつかされる日がくるのも、奪われるのも、それから…多分置いていくのも。 そんなことばっかり考えてるのは馬鹿らしいって分かっているのに、どうしてもこの人が俺の傍らにいてくれることが信じられない。 だから…いっそのことこの幸せに浸りきっているうちに、死ねたらと願ってしまった。 この人が微笑みながら俺の胸をその手に握り締めたクナイで貫く。 そうして最後まで最高に愛しい人の笑顔を見つめながら死んでいくのだ。 幾多の命を奪い、傷つけてきた俺に似つかわしくない最高の死に方だ。 愛してるなんて言ってくれたら、その瞬間に達してしまうかもしれない。 「なーにがまいちゃうんですか?あんたに散々やり倒されたのに、睡眠まで邪魔されてる俺の方がまいっちゃってますよ」 恋人はどこまでも現実的だ。 いつだったか結婚を申し込んだら、「アンタは男で俺も男なんだから無理に決まってんでしょうが」って一瞬で却下された。 …代わりのようにその夜は大切に大切に抱き込まれて、照れくさそうに、でもまっすぐに愛を語ってくれたからいいんだけどね。 「ねぇ。今俺を殺してって言ったら殺してくれる?」 …だから、こんな質問もばかばかしいと笑い飛ばしてくれると思ったんだ。 「それは…アンタが、下になるってことですか?」 胡散臭そうな視線は、すっかり眠気を手放している。 そういえば、絶頂は小さな死とも呼ばれるんだったか。 …でも、この人は。この言葉は違う。 「ごめん。ごめんね?」 「…馬鹿なことばっかり言ってねぇでとっとと寝ろ!」 潤んだ瞳の奥の絶望に恐怖した。 俺が、絶対に言っちゃいけないことを言ってしまったんだと今更気付かされた。 誰よりも失う恐怖を知っているのに。 「…うん。愛してる。大好き。ねぇ。だから…ずっと一緒にいて?」 「アンタこそ…!勝手においてったら承知しないからな!」 ぎゅっとまるで宝物みたいに抱きしめられて、蕩けそうなほどの幸せに浸った。 今終われたらなんて、勿体無くてできないのだと、いまさらながら思い知らされる。 この腕の瞳も体も心も、全部俺のモノだ。 …この贅沢な悩みが潜み続けてもきっと…この人が側にいてくれるなら飲み込まれずに済むような気がした。 ********************************************************************************* 適当。 やんでるなぁという話。恋愛はある意味不治の病のようなモノだってことで! ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ! |