「いいから黙ってついといでよ」 「いーやーだー!」 物慣れなさそうな中忍が、妖怪みたいな婆に捕まっているのを助けたのは、きっと単なる気まぐれだ。 こんな色を売るのが専門の爛れた町に忍服できている上に、あからさまに任務できました!って感じの様子で、泣きそうな顔で腕を引く客引きらしき婆相手に碌に抵抗もできないでいたら、放っておけないでしょ? 顔色からしてほんっとーに嫌なくせに、相手が年寄りだから振り払うこともできないでいるらしい。 あまりにも必死な様子がかわいそうに思えて、我利我利亡者そのものみたいなその婆を殺気ひとつで黙らせて追い払ったのだ。 「え?え?」 「そんな怖いのつれてるなら早くお言いよ!あたしゃそんなのの相手はごめんだよ!」 あれだけ脅してやったのにまだ捨て台詞を吐けるあたり、さすがこの町の住人だ。 連れて行かれたらこんな子供、どうなっていたか。 当の本人は呆然と俺の姿を見上げるばかりで、事態の把握もできていないようだけどね。 忍だからって安全な町じゃない。 なりたてのくノ一なんかは絶対に連れて行かない町だ。 …見目のいい下忍もだけど、この中忍は外見は男らしいのに、怯えた顔が嗜虐心をそそる。 「あの、ありがとうございます!申し訳ありません!任務中ですよね?お…私の不手際でお手数をおかけしました!」 今だってこうだ。 しょんぼりした顔が犬みたいで、思わず構い倒したくなる。 「…でも、忍犬だもんね?」 ああ、その前に犬じゃなかったっけね。 立派な鼻傷に、元気のよさそうな尻尾もついてるくせに、残念ながらコレは人だ。 「え?」 ぽかんとして隙だらけだから、思わず構ってやりたくなるけど、甘やかしちゃだめだよね。 「こういうとこで抵抗しなかったらダメよー?下手したら忍でも売られちゃうんだから」 「うっ!は、はい!申し訳ありません…」 「気をつけてね?」 やっぱりかわいいなぁ。尻尾みたいな髪も、鼻傷つきなのにどこか愛嬌のある顔も、それから太陽のにおいがするとこも。 甘やかしたら、また危ない所に一人でふらふらいっちゃうかもしれない。 …でも、この子の持ち主がいなかったら、愛玩用にしちゃってもいいよね? ふっとよぎった思考を実行に移すのは中々楽しそうだ。 「あの、俺任務が終わって帰還途中にあのおばあさんにつかまってしまって…今度から、もっとちゃんと断ります!」 「ん。そーして?」 自衛も覚えさせないと。俺がいない間にちゃんと待っていられるように。 それから。 「あ、あの?」 「俺もね?帰りなの。一緒に帰ろ?」 「はい!」 一杯かわいがって懐かせよう。 今だって尻尾があったら…あ、頭の尻尾は嬉しそうに揺れてるけど。 これなら、きっとすぐに懐く。 ありがたいけど…この人懐っこさは心配かな?他の連中に盗られないようにしないと。 「これからよろしくねー」 「はい!」 元気一杯のかわいい犬。 俺だけのものにしたいって言ったらきゃんきゃん吼えて怒るだろうか。 「ま、それならそれでおもしろいか」 「え?」 「んー?とりあえず、色々教えてあげるから、覚えてね」 「は、はい!」 素直な返事に…尊敬のまなざしかな?この潤んだ真っ黒な瞳は。 中々物覚えは良さそうだ。頑固そうでもあるけど。 「今後が楽しみだね?」 子どもみたいに手を引きながら、未来を思って笑った。 きっとこの子は手がかかるに違いない。その分俺を楽しませてくれるだろう。 「俺、がんばります!」 「ん。楽しみにしてるね?」 素直でかわいい俺だけの…なんてすてきな拾いモノ。 大事に大事に育てて、いつか美味しく全部頂こう。 面の奥でほくそ笑む俺に気付かないのか、傍らの拾いモノは嬉しそうに笑ってくれていた。 ********************************************************************************* 適当。 飼いならされるのはどっちなのかという言う話。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |