「ねむいの?」 布団にもぐりこんだらすぐこれだ。 ベッドの側に突っ立って、かといって一緒に布団に入ってくるわけでもなく、寝巻きの裾を掴んでいる。 焦ったように、それから泣きそうな顔で。…後追いの酷さはこの所悪化の一途をたどっている。 どうせまたろくでもない任務だったんだろう。いやこれも単なる推測なんだけどな。 「ねむいです。アンタも泊まるならほら、こっち」 布団をめくって俺の隣をバンバン叩いてやると、ようやっとホッとした顔でもそもそともぐりこんできた。 ベストだのなんだのは無造作に放られて床に転がっているが、明日起きたら片付けさせればいいだろう。 とんでもなく寝穢いから起こすだけでも苦労するんだとしても、今弱りきったこの生き物に片付けろという気になれないし、そもそも俺は眠い。 「イルカせんせ」 にへーっと頭のネジが緩んだような顔で笑ってしがみついてくる。 ついでにもそもそと人の尻をもんだ挙句に、股間のものまで握ろうとしてきやがった。あれだけしょぼくれてたのが嘘のように傍若無人だ。 まあわかっちゃいたんだけどなぁ。こんな時に声かけたらこんなことになるってのは。 「ん、明日も、仕事が…!」 「イルカせんせ」 あー…こりゃだめだな。きいちゃいねぇ。 腹を括ろう。そしてできれば明日無事に歩けることを祈ろう。 こんなに器量よしなんだからどっか他所でもいくらでも構ってもらえるだろうに、この男が俺を選んだのが不思議で、誇らしい。 最初に拾ったときは流石に面食らった。酷い目つきで家の側で突っ立っていたからだ。 それが顔見知りだと気づいて近寄って、そしてそのまま倒れこんできたから担ぎ上げて家に放り込んだ。 その直後に今度は担ぎ上げられたのは俺の方で、ベッドに放り投げられて縋るように抱きついてくる男を突き放しそこなった。 経験が全くなかったのもあって相手の意図に気づくのが遅れ、最終的に散々な目に合わされたんだが。 「っ…あっ!」 「いれてい?」 こうしてもう後戻りできなくなってから聞いてくるのは卑怯だと思う。どこでこの手管を身につけたんだか知らないが、少しばかり苛立つものの、どうせヤルなら気持ちイイ方がいい。 どうせ俺はこの男を見捨てることなどできないのだから。 「はや、く…!」 「ん。イルカせんせ…!」 なんだってこんな関係になったのかなんて俺は知らない。この男が何を求めてくるのかが分かるだけだ。 欲しがってるなら、そしてそれを与えてやれるなら、いくらでも付き合ってやるさ。 なんでかなんて自分でもわからないんだけどな。 「ぅ、ぁ…ッ」 この瞬間だけはなれることが出来ない。そもそも突っ込む側になったことはあっても、逆なんざ想像したこともなかったんだ。見てくれもそういう方に向いちゃいなかったし、態々男相手にどうこうなんて無駄に元気なヤツは早々いないもんだ。 「狭い」 これが文句なら殴ってやる所だが、嬉しそうにしてるから許してやることにした。 男はここ数週間留守にしていた。つまりその間は通常の用途にしか使ってないんだから当たり前だ。 …改めて考えるとろくでもないな。 「でかい」 こっちも多少の嫌味は許されるだろうと苦情を言ってみたんだが。 「きもちいいでしょ?こっちも、すごい」 何でそこで誇らしげにされるんだかわからんが、とりあえずこのままじゃおかしくなりそうだ。いや、これからもっとおかしくされるんだろう。 「いい、から…!さっさと!」 「いっぱい声聞かせてね?」 「うぁ!あ!」 癇症な猫みたいな声のどこがいいのか知らないが、とりあえず気持ちイイいんだからそれ以上考えないことにした。 「イルカせんせ…」 しょぼくれた顔がそれが欲望にしろ歓喜に染まっているからそれでいい。 思考が蕩けるほど気持ちイイ夜は、意識を手放すまで続いた。 **** 「起きなさい」 「うー…」 「起きろ。つかどけろ!」 「やだ」 「やだじゃねぇ!」 やっぱりというか案の定というか、男は布団にしがみついて起きる気配がない。ついでに俺にもしがみついてるから、俺も起きられない。 腰は…久しぶりに酷使した割にはなんとかなりそうだが、たたき起こさないことには遅刻してしまう。 …まあ手はあるにはある。抵抗があるだけで。そして今はその抵抗を振り捨てるべきだというのも分かっている。 「チッ」 「ん?」 「カカシさん。…ん」 「ん!?」 あああああ!もう!恥ずかしいんだよ!目ぇまん丸にしたあと蕩けそうに笑いやがって!唇なんて押さえてんじゃねぇ! 「ほらおはようのちゅーですよ。とっとと起きろ!」 「はぁい!」 よしよし。しゃきっとしたな。風呂に入ってさっさと飯食って出勤だ。 多少ふらつく足元に気合を入れて、風呂場に急いだ。 「えへへー」 アホみたいに笑う声をBGMに。 …実の所、これは風呂場に乱入してくるのを防ぐための予防策でもある。 しばらくにやにやしてるから、手早く済ませればここでもう一戦なんて目に合いにくくなるからな。盛り上がってそのまま捕まってなだれ込んだこともなくはないが、あの時はちゃんと翌日が休みだってのがばれてたからで…。 とにかくさっさと体を流し、ひげをそり服を着替えてまだベッドの上でにやにやしてるのに忍服を投げてやり、ついでに仕掛けておいた飯と昨日の残りの味噌汁と煮物を温めながら、魚を適当にあぶって出してやる。大根おろしは山盛りなのは俺の好みだ。 上忍様には粗食だろうが、文句を言われたことはないからその辺は黙殺する。 「おいしいです」 「そうですか。ちゃんと食え」 「はーい」 よいこのお返事をする姿を見る限りでは、この男が凄腕の上忍とは思えない。 …まあ、外じゃそれなりに威厳…はないが、エロ本片手にうろついてるしなぁ…。まあだがそこそこ上忍らしく振舞ってるから問題ないだろう。 「俺は仕事ですが、アンタ寝るならシーツ換えてからにしなさい」 「いいの?」 いいもなにも、これだけ俺の家にいついていて今更だと思うんだが。 「余裕があったら洗濯も頼みます」 ああもう時間がない。…いなくなってたら寂しいが、どうせいつも勝手に寝てるくせに帰ってくるとちょっと居心地が悪そうにしながら後追いするんだろうから大丈夫だろう。 「い、いってらっしゃい!」 「いってきます!」 …こうして俺の家に来るのは任務のせいじゃなくて告白する前に思い余ってやっちゃったことを後悔してるだけってのを知るのはその夜のことになるんだが。 許してなんていわないからずっと側においてくださいなんて殊勝なことをいう男に言われるまで、俺も惚れてるって気づかなかった方が問題なのかもしれない。 「イルカせんせ」 「はいはい。アンタ先にベッド入ってなさいって」 「ヤダ」 「あー…じゃあちゃんと半纏着てろ。冷えるでしょうが」 多少男の態度がわがままになったくらいで、あんまり変わらないから、まあいいか。 ********************************************************************************* 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞー |