「とりあえず行ってきます」 まぶしい笑顔で家を出ていく人のその腕には重箱とござ。 …おいて行かれる俺の枕元には握り飯と煮物なんかが置かれていて、確かに美味そうなんだけど。 でもでも。俺はチャクラ切れであんまり動けないし、花見は確かに今しか行けないっていうのはわかるけど、寂しいって言っちゃいけない訳? 「…早く帰ってきてね?」 それを言うのが精いっぱいだったのに、イルカ先生はものすごーく怖い顔で笑った。 「へっ!さあ、そりゃ状況次第ですね?」 鼻で笑われた。怒ってる。でも、でもでも。 置いていくのにそんなに楽しそうなのってどうなのよー! 「うっぅっ…!ひどい…」 笑顔で出かけて行った人の背に投げつけた言葉は届いたのか届かなかったのか無視されたのか、無情にも玄関の扉が閉まる音とともに鍵をかける金属質の音が響いて、あの人が一度も振り返らずに出ていってしまったという事実が重くのしかかる。 なんで?花見ってそんなに大事?ごはんはおいしそうだけど、本当はほんのちょっとなら動けるけど、一緒にいたいからちょーっとごねてみただけなのにそれも無視するなんて酷い。 でもだからって別れる…なんて、考えるだけで吐き気がしちゃうからできないけど。 「…イルカせんせーのばーかー…」 めそめそしながら布団にもぐりこんで、ついでにそのまま握り飯を頬張ってやった。髪の毛に飯粒ついてるって、お風呂で怒られるかもしれないけど、そうしたらゆっくり髪の毛洗ってもらえるからやめてなんかやらないんだから! ぐずぐず言いながら煮物も口に運ぶ。味付けはちょっと濃いめで、いかにも酒に合いそうだ。これを食う連中が呪われればいい。あ、もちろん俺とイルカ先生以外ね?こんなにおいしいのに食べるのが辛い。だって俺のために作ったんじゃないんだもん。 もそもそ食べて、めそめそ泣いて、そこまでが体力の限界だったらしい。 襲いくる眠気にもう抗えそうにない。 「イルカせんせの、ばか」 眠る寸前までたっぷり文句を言って、それから一人きりのベッドで頭まで布団を被った。前にこれをやったら、そーっと布団めくってきてものすごく楽しそうだったんだもん。もしかしたら構ってくれるかも。 眠い。帰ってきたら…いつになっちゃうのかわからないけど、泣いてわめいてすがってやろうか。みっともないとか言われても、そんなものどうでもいいし? 沸点低くてすぐ爆発するけど、落ち着いたらこっちが悪いのにものすごく落ち込んだりしちゃうもんね。イルカ先生って。そこにたっぷり付け込んでやるつもりだ。 起きたら傍にいてくれますように。意識が落ちる寸前にそれだけを願った。 「起きろ」 「ふぇ?あ。イルカせんせ!」 イルカ先生をみかけたらすかさずまとわりつく。それが俺のルールだ。だってほらこの人いろんなところにひっぱりだこだから、見かけたらすぐ確保しないと誰かにもってかれちゃったりするんだもん。 …ん?っていうか、今日もそうだったんじゃないの?素早く時計に目を走らせるとまだ夜とは言いがたい時間帯だ。しかも酒の匂いもしない。やった!早く帰ってきてくれた! 「その分だと大丈夫そうですね?」 「…イルカせんせ?」 あ、ヤバイ。怒ってる。でもなんで? 「アンタが花見に行くの止めるために無茶な任務なんか受けなきゃ、こんなにややこしいことにならなくてすんだんだよ!少しお灸据えてやろうと思ったらグースカ寝てやがるし…!」 あらばれてた?うーん?なんでだろ。ま、なんでもいいや。お花見には行かれちゃったけど、今側にいてくれるもん。 「ごめんなさい」 悪いと思ったら素直に謝る。それもこの人に教わった。…でもなんでか更に怒られちゃうことも多いんだけどねー? 「…もういい。アンタに何言ったって無駄だからな。…次があったら今度こそ置いていきます。俺も任務にでてしばらく放置しますからね?」 「駄目でしょそんなの!酷い!」 「酷いのはどっちだ…!」 あ、ヤバイ。泣いちゃう。止めて。今我慢できないのに。 そんなことされたら食っちゃいたくなるじゃない? 「ごめん。ね?」 「うるせぇ口先だけ野郎!…もうしらねぇ」 憎まれ口を叩くくせにしがみ付く力は強くて、これはもう仲直りのためにもしちゃったほうがいいよねー?なんて思いながら唇を重ねた。乱暴に暴いてくる舌を誘い出して軽く歯を立て、溢れる唾液が服を汚しても気にもならなかった。 だってこれからもっとぐちゃぐちゃになるんだもん。イルカせんせが帰ってきてくれたおかげか幸い体も元気になったし、倒れるまでしちゃおうかな! 「イルカせんせ…ッ」 「う、るせぇばか」 詰る言葉の甘さにほくそ笑みながら服を脱がせるために手を滑らせた。 もう泣かせない。泣いてる顔も好きだけどほうって置かれるのはつまんないもん。 次からはもっと上手くやらないとね? 俺の決意を知ってか知らずか、背に食い込むつめの痛みさえ心地良かった。 ******************************************************************************** 適当。 わるいこ。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |