独占欲6(適当)




これの続き。 



「おれの」
ふふっと楽しそうに笑う声が聞こえて、それが自分の口から飛び出したものだと気づくのに遅れた。
大事なことなのに。
俺は誰よりもそれに気をつけなきゃいけないのに。
「うん。そう。イルカせんせも俺のね?」
にっこりと笑う男は俺の上で気持ち良さそうに目を細めながら腰を振っている。
穿たれる熱は熱く硬く、もう何度それがはじけたのか分からない。
一度目は確かに覚えていた気がするのに、おれのだって何度も言ってくれるからそれが嬉しくて後はどうでも良くなった。
この人は綺麗で優しくて、だからいつだって欲しいと思ってしまいそうで恐かった。
でも、もういいんじゃないかな。
この人はおれのだから。
「ぅ…ッふぁ…!」
「イイ?」
「ん、イイ…!」
気持ちイイ。どこもかしこのこの人の匂いで一杯だ。
大好きな匂い。
ああ、早く閉じ込めたいなぁ。
そうしたらきっとあの部屋もこの人の匂いで一杯になる。
あの人の匂いで一杯だったみたいに。
でも。だめだ。
「イルカせんせ?」
「だめ」
そうだ。駄目だ。閉じ込めるなんてそんな酷いこと。絶対にしちゃいけないのに。

イルカは俺と似ているから。いつかここが必要になるよ。

遠い昔に見た笑顔と酷く甘く優しいのに、滴るような毒を秘めた声が聞こえる。
そうだ。俺にはずっとあの家が、あの部屋が必要だった。
大事なものはしまっておかないと、いつだって簡単に奪われてしまうから。
部屋は決して狭くはないが、広くもない。
だからどうしても失いたくない大事なものだけをしまうんだと、教えてもらった。
その通りに俺は大事なモノは少しだけにして、でもだからすごくすごく大事にしまってきたんだ。
先生のように。
「イルカせんせ?」
「せんせい」
涙が零れた。
そうやって大事に大事にしていたものを全て失ってしまったあの日。
先生はあの部屋だけを俺に残して、いってしまった。
大事なものを失うことに耐え切れなかったから。
綺麗な黒髪。優しい、でもどこかなにかを諦めたような悲しい顔で笑う女。
それに寄り添いながら誰よりも幸せそうに笑っていたのに。
歩くたびに金属がこすれあう音がしていた。
手を、足を、決して逃げられないように縛めていた鎖の立てる音を、先生は気に入っていた。
鎖は、まだあの部屋にある。
あの部屋にあった他の全部は先生が一緒に持って逝ってしまったけど、アレだけは。

お前は俺と似ているから。いつかここが必要になるよ。
…だから。上げる。これも大事に持っておいで。

澄んだ笑顔と優しい言葉。
里が破壊され、両親を失ったときに嫌というほど嗅いだ覚えのある…人が燃える匂い。
その腕に抱いた体ごとあの日先生は。
「イルカ」
「あ、あ…!あ…!」
白く白く染まっていく思考に感謝した。
考えちゃ駄目なんだ。
「…気持ちイイことだけ考えて?」
そう。そうだ。
そうすればきっと。
「も、っと」
「ん。いくらでも」
優しい瞳に甘えて、今は全てを忘れていたかった。


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適当。
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