これの続き。 恋人候補ができた。恋人じゃなく候補なのは俺がどうしても譲らなかったせいだ。 そもそも恋人が欲しいと思うわけもないのにどうしてこんなことになったのか、不思議でしょうがない。 同性なのは…まあ珍しいといえば珍しいが、飛び上がって騒ぐようなことでもない。ここは忍の里だし、番はいるよりはいた方が安定すると、性別を問わず推奨されている。 俺に告白してきたってのが理解できないけどな。 客観的にみてもどこにも女性らしい所もなければ、女顔って訳でもない。 どちらかといえば告白してきた相手の方が、肌も白いし顔も綺麗だし気遣いも細かいし…顔だって始めてみたときに思わず言葉を失ったほど整っている。 まあ女性らしさはないけどな。どっちかって言うと美形ってやつだ。 さぞや女にもてるだろうと、周囲の女性たちが騒ぐ理由に納得したもんだ。 性格も見た目も稼ぎもいいなら、そりゃ欲しがる人は多いだろう。 酔っ払って家に厄介になったことがあるが、起きたら抱き枕代わりにしていた暖かいイキモノが人間だったのには驚いた。 正直に言えば抜けるように白い肌のせいか、ほそっこいと思い込んでいた。 くっついていたせいで鍛え上げられた筋肉に気づかされ、見解を改めたのはつい最近のことだ。 いい人だ。酔いつぶれたって、中忍で男なんだからその辺に放り捨ててくれたってかまわないのに、態々自分の家で介抱してくれるなんて。 それまでもちょこちょこ声を掛けてくれて、一緒に飯を食うことが多かった。 気が合うってのも認める。 一緒にいると楽しくて、ついつい飯も酒も進んで…まあ進みすぎてあの体たらくだったことには落ち込んだけど。 いい人なんだよ。でも。 …正直に言えば迷惑だった。 普通に友だちというのはおこがましくても、一緒に平和に飯食って酒飲んで、その程度でいいんだ。俺には。 いや、むしろその程度で踏みとどまらなきゃいけないんだ。 ガキの頃ならまだしも、幾度も繰り返した失敗のお陰で、自分が普通じゃない自覚がある。 態々破綻すると分かっている関係をつくろうなんて、微塵も思わない。 失うと分かっている。それも最低の形で。 そんなもの、厄介でしかないだろう? だが、真剣な告白を無碍にも出来なかった。 いい人なんだよなぁ。すごく。だから傷つけたくなくて、断るのも上手くできなくて、結局はこれだ。 我ながら馬鹿すぎて泣けてくる。 切っ掛けは送り出した教え子を引き受けてくれたことで、そのことにも感謝してるってのに、更に俺のことまで気に掛けてくれた。 部下や仲間をすごく大切にしていて、人としても指揮官としても信頼できる、最高の忍。 仲間を守るために無茶をしたときは流石に腹が立ってしかりつけたりしちまったけどな。 いい人なんだよ。俺なんかが迷惑かけちゃだめなんだ。 大事なものを作るのは恐い。 だから俺はずっとこの人が恐かった。 大事なものになってしまったらどうしようと思い続けていたはずなのに、毎日のように誘われても断れず、こうして告白まで半端な形で受け入れてしまっている。 気をつけなきゃいけない。せめて迷惑をかけないように早く。出来るだけ早くこの関係を終わらせなくては。 「イルカせんせ?」 手を引く人が不思議そうな顔で振り返る。 駄目だ。…本当に急がなきゃ。 引き絞られるように痛む胸に…もう手遅れだということには、気づかないふりをしたかった。 ********************************************************************************* 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞー |