独占欲13(適当)




これの続き。 



「えーっと。で、その先生とやらはいたいけなイルカ先生に拉致監禁した女の世話係をやらせたと」
どう取り繕おうと、要するにそういうことだ。
イルカ先生が小さかった頃、確かに里は酷い状態だった。
だからこそ貴重な戦力であるはずの上忍のくノ一が消えたというのに、碌に探しもしなかったんだろう。
そうじゃなきゃ絶対にばれる。任務中の事故に見せかけて里を抜ける連中なんて腐るほどいたが、その手の連中を見つけ出すのはそんなに難しいことじゃなかった。
人一人消すのはそんなに簡単じゃない。必ずどこかにほころびがでる。
そのくノ一が消えたことに気づいたやつは必ずいたはずで、それを探す人手を割くことが出来ないほど里は疲弊していた可能性のほうが高い。
それともせんせいとやらが、よほどの訳有だったか。
確かに欲しいものはちゃんと守り通さなきゃ簡単に奪われてしまう。
なにせ俺たちは忍だしね?
死も生も紙一重の世界にあって、大事なものを失わずにいることは酷く難しいことだ。
閉じ込めたいって欲求もわからなくはない。現に俺だってこの人を閉じ込めているんだから。
だからって何も他人を…それもまだ幼かったこの人を巻き込むことはないだろうに。
「拉致監禁、になるんですかね。そういわれてみれば」
どうやらショックだったみたい。
そりゃそうか。一応恩師?にしちゃタチが悪いけど、子供らしい素直さで尊敬していたらしい男が、ろくでなしだといわれても、受け入れがたいのだろう。
「食事運ばせたりしてたんでしょ?後は花だっけ?」
「はい。先生が幾重にも結界を張った部屋に、俺は自由に出入りできました。だから先生に頼まれたものと一緒に、あの人が欲しいといったものもこっそり持ち込んで、そうするとすごく喜んでくれました」
泣き笑いの顔はかわいいが、気分が悪い。
…この人にこんな顔をさせるのは、俺だけで十分だというのに。
ろくでなしの男と、どうやらそれに付き合ってやったらしい女にやすやすとこの人の気持ちをくれてやるなんて…もったいなさすぎるでしょ。
「ふぅん?」
「最初はすごく怒られました。勝手に触れるなと。でもあの人がかばってくれて…なんだか新鮮でした。母ちゃんも俺を守ってくれたけど、もっとずっと図太くて激しい人でしたから。…ずっと悲しそうな顔をしている人が、俺を抱きしめて本気の殺気を向けて…そのとき始めてあの人も忍だったんだと気づいたんです」
それまでは穏やかすぎる気配にまぎれてきづかなかったから。
そう遠い目をして語るこの人の脳裏には、その閉じ込められていた女がみえているのかもしれない。
「忍で、女で、鳶色の髪、ね」
それだけそろっていれば、いくらむちゃくちゃな時代だったとはいえ忍者登録をみればわかるはずだ。
血統管理が必要な一族ばかりの木の葉で、記録の類が抹消されることはまずない。
「鎖で繋がれてるのがかわいそうで、でも言えなくて、どうしても気になって。そしたらせんせいが、大事なものを守るためだからこれは必要なんだよって、俺に。あの人は」
「イルカせんせ?」
様子がおかしい。腕を縛り上げた縄が、ぎちりと音を立てて軋んだ。
「閉じ込めなきゃダメなんです。大事にしまっておかないと。本当に本当に大事なものだけを」
焦燥と悲しみに満ち溢れた顔を、涙が伝う。
…なるほど、この人が恐れていたのはこれか。
「いいよ。後でその部屋を教えて?これからそこは俺の部屋になるんでしょ?」
「はい」
うっとりと目を細め、それから印を組もうとしているのか手をもぞつかせている。
害意はない。むしろ狂うほどの愛情を俺のために必死で押さえ込もうとして、でもそれも叶わないほどに深く執着されているだけだ。
それって、最高じゃない?
…この人が欲しがるのは俺だけ。この人は俺だけしか見ていない。
「嬉しくなっちゃったから、もっかいしようね?縛ったままっていうのもかわいいし」
今正気じゃないのは明白だ。…何かが引き金になって、この人を狂わせている。
それを仕組んだのは、この人が先生と呼ぶ男にほぼ間違いないだろう。
自分の狂った思考を、部下に押し付けた理由はしらない。この人にすら嫉妬したくせに、わざわざ自分の作った箱庭まで押し付けようとしている理由なんて、わかるはずがない。
この人の心に刻み込まれた何か。その正体が分かればどうとでもできる。
今でも素直な思い人のことだから、こどものころなんて簡単に思うがままに出来ただろう。
さみしがりやであまえんぼうなだけなのにね?
それを歪めて異常な…俺にとっては嬉しいだけの行動に駆り立てているのは、その狂人が残した術か何かである可能性が高い。
おそらく、その狂人が恋人に施したものを繰り返すように仕組まれている。
ま、元々素質はあったんだろうけど、この人の場合。
この人ならかわいらしい人を選びそうだから、相手がまさか俺みたいなイキモノになるだなんて想定外なのかもしれない。
本当ならこの人の手で簡単に捕まって、閉じ込められてしまうような…そんな相手を考えていたんだろう。
それにこの人自身の意思の強さも…まさか与えた刷り込みに逆らってまで、大事な人を守ろうとするなんて考えもしなかったにちがいない。
この人の愛の成就を信じたってところだけは評価してやってもいい。
でもそれは、この人が納得できる形じゃないとね?
「ん…ッ!え!」
唇を合わせるだけで幸福感と湧き上がる欲望でおかしくなりそうだ。
ま、元々とっくにこの人に狂ってるけど。
零れ落ちる掠れた声がたまらなくそそる。
今すぐにこのまま突っ込んでしまいたいくらい、無防備にとろんとした瞳。
だが流石に冷たい床でことに及ぶのはまずいだろう。痛い思いをさせたくない。
「ベッド行こうねー?」
とりあえず足腰立たなくしておこう。
その部屋とやらで何かがあっても、簡単には閉じ込められないように。
…それも悪くないけど外でかわいい顔されるの嫌だし、なによりこの人が正気に戻って苦しんだら…そんなの最低だし。
ま、一番の理由は折角手に入れたんだからいつでも何度だって交じり合いたいってだけなんだけどねー?
縛められて動かない指を不思議そうに見つめていた愛しい人は、それから何度もかわいい声で鳴いて縋ってくれた。

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適当。
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