おいかけっこ26(適当)



「イルカ…!くれぐれも気をつけなさい。もしなにかあったら髪紐か靴底とそれから服の裏地にも…!」
「大丈夫だって!今度さ、母ちゃんがびっくりするようなの見せるから!じゃあいってきまーす!」
「…いってらっしゃい」
大切な大切な私の子。
…毒虫共に集らせたままで置いておけるものか。
いっそあの子どもを消すか、それとも後ろ盾である金髪の男か、むしろ白銀の愚かな男か。
毒も術も、したくは全て整えた。
いきなりかかって言っても返り討ちに遭うと、冷静に情報を、材料を集め、少しずつではあるが状況は変わりつつある。
楽しそうに過ごしているところをみると、まだなにもされていない。
ただあいつらは巧妙だ。少しずつ染みこみ全てを狂わせる毒のように、じわじわとあの子を蝕もうと手薬煉引いているに違いない。
もどかしい。特にあの金髪の男は厄介だ。
次期里長と目されるだけあって能力はとてつもなく高い。まさに忍になるためにうまれてきたようなイキモノ。
…あの子も、お気に入りだった。
使いやすいし楽しい戦場にしておけば、いくらだってがんばってくれるから便利だと、笑っていたのを思い出す。
退屈をさせてはいけないのだと、悪戯っぽく内緒話をするように笑っていた。
今が、そうだったのかもしれない。
そう思うとぞっとする。
あの子がいない戦場で、あの男はいつだって退屈していた。
他の血に狂った忍たちのように血にまみれて喜ぶような真似はしない。
ある意味もっと陰惨な行為を好んだ。
術を仕込んだ忍を送り込まれれば、それをそのまま敵陣に送り返し、虐殺させる。
番で襲い掛かってきた忍には、愛を確かめると称して拘束し、片割れの見ている前で狂わせてみせる。情報を言えば助かると言われて、言えるはずもないのに。
片割れが狂い、そうして残りも狂ったまま自死を試みて、そこまで追い込んでから幻術であっさり情報を得ると、興味をなくしたとばかりにあっさり処分していた。
そうしているときの男は酷く楽しそうで、退屈はなによりの毒だというのが口癖だった気がする。
最近のお気に入りはもっぱら銀髪のクソガキだということは、情報として入ってきている。
後ろ暗いのだろう。あの子を、銀の獣を与えてはいけなかった。あの男は銀の獣を気に入っていたらしい。
私の子を、獣の餌にするつもりだというのは明白だ。
監視の手はある。私が動けば気付かれるが、火影候補に暗部の護衛は付き物だ。
うみのの部下がそれを買って出てくれている。
番として選んだのはその真摯な思いに惹かれたからだが、私に欠けているものを全て持っているのだと今更ながら思い知る。
大切なモノを手放すわけにはいかないのだ。もう、二度と。
「覚悟していろクソガキ…!」
息の根を止めたい所だが、そこまではしないでおいてやる。
…私の子を、とりもどすだけだ。
「確実に叩き潰す。俺の部下の手配もできたし、決行は明日」
「そうか」
「必ず、取り戻す。イルカを」
「…ああ」
支えてくれる腕がこんなにも安心をくれる物だと、長いこと知らなかった。
あと一日。せいぜい油断しているといい。
かわいいかわいい私と、うみのの子。
そう易々と手に入るものではないのだと、思い知らせてやる。
我ながら凄まじい顔で笑っていただろうに、番の男はまるで何かに酔ったように赤らんだ顔でうっそりと笑っていた。


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適当。
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