注意1秒怪我一生(適当)



重い体を引きずって里を目指す。
足は…大分出血したがまだ動いてくれそうだ。
問題は腕か。
ざっくり抉られたおかげで血止めも十分に効きそうにない。そもそも応急処置すらおざなりなこの状況で、ある程度は仕方がないと諦めた。
追っ手は流石にもういないだろう。…いたらどっちにしろお陀仏だから、これ以上のことは考えない。
里へ。里へ。
前だけを向いて歩く。
帰ることだけを考えて。
「あー…ラーメン食いてぇ」
「んな、とき、らーめんかよ…」
「ラーメンは美味いし元気でんだろうが…っしょっと。がんばれよ」
引きずらないようにもう一度気合を入れた。残念ながら抱えなおすだけの体力がもう残っていない。
里へ、帰るんだ。絶対に。
「なぁ。もういいって」
「何がだよ。ラーメンの話か?」
分かっていて聞いてやるつもりがないからそう返した。
ラーメンのことだけ考えてりゃいいんだよ。そうすりゃ余計なこと言う隙間なんてなくなるんだから。
あと、ちょっとなんだ。
まだ俺は動ける。
「いい、って。どっちに、しろ。俺は…間に合わねぇ、よ」
「そんなんわかんねぇだろ。余計なこと言ってないで気合入れとけ。意識落とすなよ」
「そりゃ、無理って…」
「おい!寝るな!あとちょっとだって言ってんだろうが…!」
全身が鼓動に合わせてズキズキと痛む。まるでそこら中が心臓になったみたいだ。
一番痛いのがどこかなんて、わからないことにしたかった。
「いた」
耳元で囁くような声がして、総毛だった。
敵か。
ならば倒すまで!
「ちょっと、待っててくれよ」
地に下ろした仲間はそのまま行けと声にならない声で言っていた気もするが、聞こえなかったフリをした。
クナイを構え、周囲をうかがう。
そう早くは動けない。…だから向こうから来たときを狙うしかない。
最後まで出てこなかったなんてよっぽど慎重でタチが悪いヤツか、弱くてこっちが動けなくなるのを狙ってたかのどっちかだ。後者であることを期待するしかない。
「こんばんは」
…これは…違う。どっちかというと前者だ。
でも、これ、この格好。
「あん、ぶ?」
「はいはい。起きて。これ飲んで。もげたもんは持ってきてんのね。じゃ、つなげるんじゃない?まだ。切り刻まれなくてよかったね」
いつの間にか仲間の側に座り込んでかなり強引に丸薬を飲み込ませ、ついでにわらわら新しい暗部が湧いてきて、腕も繋がった。医療忍術を使えるのがいるだなんて知らなかった。
「ありがとうございます!」
これでアイツは助かる。へなへなと座り込んでしまった。
…もう立てそうもないが、俺はなんとかなる。アイツが無事ならそれでいい。
嬉しくてにやにやしながらへたりこんでたら、いきなり髪を鷲づかみにされた。
「で、アンタはおしおき」
「は?」
「その前に手当てねー。コイツは足、あとこの腕」
「え?え?いてぇ!うぁ、ぐっ…!」
「包帯邪魔なの。だまんなさい」
止血用の布切れはひっぺがされ、ついでに匂いを嗅がれ、その後いきなりばちゃばちゃ水で洗われて、痛みに震え上がった。
あれか。毒か。まあなんでもいいんだが、もうちょっとやさしくして…もらえるわけねぇか。これ、もしかしなくても偶然、だよな?
だってこんなに暗部がわらわら湧いてくるなんてありえん。修行か任務かで移動してるのにかち合ったってとこだろう。
傷口をふさいでもらいながら、ジワジワとこみ上げる焦りと戦っていた。
…とにかくさっさと謝ろう。
「ごめんなさい。任務の邪魔を…!」
「任務って、アンタ探してたの。ま、手伝ってくれてはいるけどね」
「へ?」
「この辺に任務帰りの忍を襲って弱ったとこを削ろうってタチが悪いのが湧いてたの。だから今日が大掃除の日だった訳よ。ま、殆どアンタが片付けちゃったみたいだけど」
「へ、へぇ」
「それ片付けるつもりだったのに、遠見してた三代目にアンタ助けにいけーって言われて、行って見たらこんなだし、大怪我してんのに馬鹿でしょ」
「…面目次第もございません」
そうか。三代目が。おかげで何とか助かった!今度酒でも持っていこう。
…大怪我うんぬんは、だって助かるかもしれないじゃないか。足掻くに決まってんだろって思ったけど、邪魔しちゃったみたいだから黙っておくことにした。
「反省した?」
「し、しまし、た」
…まあ、ちょっとだけは。
迷惑かけたってことは事実みたいだからな。
他は正直言って同じ事があったら同じことをする自信がある。
「ま、後でラーメンでも食いながら反省会しましょ?」
「え。あ。はい。今日はトッピングサービスデーなんで、チャーシュー味噌なんかお勧めです」
「…素なの?ま、なんでもいいけど。じゃ、行くね」
行くねというから、もう帰ってくれるのかと思った。
…声を掛けた先が、仲間を担ぎ上げた暗部の皆さん(大量)だなんて思わないじゃないか。
視界が反転する。担ぎ上げられたのだと気付いたころには、もう里についていた。
「うお!一楽!」
「おっちゃん。俺は野菜炒めのせでしょうゆね。この人は味噌とんこつで。あ、野菜炒めも」
「お、通ですね!」
何て俺の好みにぴったりなチョイス!
野菜は大事だし嫌いって訳じゃないんだけど、ラーメンに野菜入れると味が混ざるんだよ。
そもそも混ぜごはんとか味が混ざってるくいもんは好きじゃない。でも野菜は食わなきゃいけない。
それでガキだった俺が見出したのが、このチョイスだ。ラーメンに煮卵つけたりチャーシューつけたり、それから更に野菜炒めってのが最終版だな。野菜がとれて尚且つ美味い。最強の布陣だ。
「…アンタしょっちゅうここでラーメン食ってんだもんそりゃ覚えるでしょ」
「へ?」
「…ま、いいや。ラーメン食べてさっさとその顔色治しなさいね」
そう言って、見知らぬ暗部は俺にラーメンを奢ってくれた。
…正直言って…。
神様ってのがいるならこういう存在だなと思いました。
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それから…ラーメンを食い終わるのを待ってくれた男が、無鉄砲に動くなとか、無茶すんなとか、もっと早く救援信号だしなさいとか、こってり叱られつつ優しくなでてくれた。
がんばったなとか、仲間を守ったのは偉いとか、でも調子に乗って怪我すんじゃありませんとか。
…母ちゃんみたいだ。
「ありがとう、ございます」
「いーえ。じゃ、気をつけんのよー?あとちょっとなんだから」
「?気をつけます!ごちそうさまでしたー!」
あとちょっとってのが分からないながらも、きちんとお礼を言っておいたんだが。
それに命の恩人としてたっぷり憧れもしていたんだが。


…あの暗部が随分昔から俺を監視していた人で、うっかりほれたから貰いますって言ったら、暗部抜けてからじゃないと駄目って言われた結果だったらしい…というのを、その次の春、同じ布団の中で聞く羽目になるだなんて、思っても見なかったのだった。


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適当。
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