山盛りのチョコレートを目の前に、流石にちょっと途方にくれた。 「これ、どうしよう…」 チョコは好きだ。 毎年それなりに義理と断り書きのある物を貰うし、この時期は商店街なんかでもちょっとした買い物をしただけでチョコをもらえたりするから、チョコを貰うこと自体はいつも通りだった。 だが、この量はおかしい。そしてそれよりなにより何がおかしいって、くれた人たちがおかしいのだ。 「なんでこんなに…上忍だの特別上忍だのからチョコが…?」 今日はの仕事は受付だけで、本当なら朝の一番忙しい時間帯さえ過ぎれば、楽になれたはずだった。 いつも通り任務を受け取りに来る忍たちが一番多い時間をやり過ごし、お茶でも淹れようかと思い始めた時のことだった。 「あ、いた!イルカ!はいチョコ!」 「え?え?な、なんですか?アンコさん!?」 信じられないほどの甘党で、甘いモノを奪い取る事はあっても人に分け与えることなど考えられない人だ。 それが任務報告書も持たずに。 しかも持ってきたのはチョコレートだ。彼女が普段ほお張っているものよりは幾分小ぶりではあるが、確かにこれも彼女の大好物である菓子だ。 「じゃ!がんばってね!」 なにをだと叫ぶ前に嵐のように去って行った彼女は、始まりに過ぎなかった。 …その後も、チョコを片手に俺の元を訪れる忍が後を立たなかったのだ。 「お?イルカ。ほいチョコ」 「これ美味しいのよ!イルカ先生!」 「青春だな!さあ!受け取れ!俺の青春チョコを!」 片っ端から持ち込まれるそれで、俺のカバンはあっという間に一杯になり、それでも舞い込み続けるチョコレートに泡食った同僚が、機転を利かせて段ボール箱を持ってきてくれなかったら、もっと大変なコトになっていただろう。 …まあ今でも途方にくれてはいるんだが。 ちゃぶ台にダンボール箱を載せて悩んでも、チョコは減らない。俺の精神の方がぞりぞりと削がれていくだけだ。 「…明日考えよう」 告白なわけもないし、とてもじゃないが突っ返せるほど図太くもない。 何がしかの遊びが上忍の間で流行っているのかもしれない。 …たとえば、不憫な万年一人身中忍にチョコレートを与えるボランティアとか。 自分で想像したくせに何だか空しくなってきたが、とりあえず飯も食ったし風呂も入った。 明日それとなく話を聞いてみるコトにしようと、何とか己を納得させた。 布団に入って、目を閉じて…朝まで目覚めないはずだった。 …窓からの闖入者がいなければ。 「イルカ先生」 「へ?カカシ先生!?」 驚いた。チョコを置いていった人たちと違って、この人はこういう類のお遊びにのっかりそうになかったからだ。 …それにしても、この人まで出てくるなんて、本当に一体何が起こっているんだろう。 とりあえずは他の人のように逃げそうにもないこの人に、事情を聞いてみればいいだろうか? 「あの…つかぬ事をお伺いしますが…」 「好きです」 「は?」 「このチョコレート。受け取ってくれませんか?」 こっちが驚くほど真剣に上忍が差し出したのは、小さな箱だった。 恐らく中身は今日うんざりするほど見たものと同じものだろう。 「あの、何やってるんですか?皆さん」 「あいつら…アナタに何かしたんですか?」 苦虫を噛み潰したような顔だ。それにしても妙に距離が近い。 チョコレート、これ以上受け取りたくないんだけど、何でこの人こんなに必死なんだろう。 それにさっき凄く気になることを言った気がしたんだが。 「チョコレートを頂きました。義理にしても…」 「あいつら…!」 何でこの人こんなに怒ってるんだろう?…っていうか、むしろこの人が原因なのか!? 「カカシ先生、アンタ一体なにやったんですか!?」 「あーうーその…!チョコ、受け取って貰えなかったら…その…!」 「なにもごもご言ってるんですか!もっとしゃきしゃき喋んなさい!」 「うっ!…アナタに、告白するってバレたんです。これを買ったから」 いつの間にやら俺の手に握らされようとしている箱。ソレはすなわちチョコレートで、もっというならこれはこの人が自分で買ったものらしい。 えーっと?なんなんだ?この状況は。 「あの?」 「…チョコレートをアナタに受け取って貰えなかったら諦めるって言ってしまったんです。鬱陶しいだの何だの言われてつい。…しつこく片思いしてたのは事実ですが」 「え、えーっと?で、何で俺にチョコを押し付けようとしてらっしゃるんですか?」 「…諦められないので、俺のことが好きじゃなくてもとりあえず受け取ってもらおうかと」 律儀なんだか律儀じゃないんだか分からない理屈だ。 だが一応この人なりに、自分の言ったことの責任を取ろうとしている…らしい。多分。 「…受け取りますが…その、このチョコは一体?」 「イルカ先生の天然って時々残酷ですよね…。好きですって言ったでしょ?」 「はぁそういえば…好き…好き!?」 「そ。好きです」 何故かふんぞり返ってやっと分かったかって顔をするのを、俺は今度こそ不可解な物を見る目で見つめていたと思う。 ***** 「…アイツら、アナタにチョコ受け取るの断らせようとしたんだと思うんですよ」 とりあえず差し出した茶を啜りながら、いきなり告白してきた上忍がシミジミと語っている。 確かにあれだけチョコを貰えば、わざわざさらに受け取る気になんかなれないだろう。 こんな事情がなければ。 なんとなくは分かる。この人は上忍仲間に愛されてはいるが、同時に構われすぎている。 この人があんまりにも一人でいるから、どちらかというと独立独歩…というより、唯我独尊な上忍たちもちょっかいをかけたくなるんだろう。 「…チョコは、受け取りました。でもあの、返事は…」 「ホワイトデーまで待ちます。でもどっちにしろ諦めないので早めに返事も大歓迎です」 それって意味があるんだろうか? 「早め、かどうかは分かりませんが、善処します。でも俺が必ずしもアナタの望む返事をするわけじゃ…」 「イルカ先生の、そういうトコも好きです」 そういって微笑むカカシさんが、眩しい。 もうとっくに。…その純粋で真っ直ぐな感情は、俺の胸に突き刺さっていたのかもしれない。 …小さくて可愛らしいチョコの包みは、他の大量のチョコにうずもれそうだったのに何故か妙に輝いて見えた。 ********************************************************************************* 適当ー! バレンタインな感じのままちょこっとだけ暴走。 すらんぷなんてふきとばせ!とばないからこそすらんぷなのだとしても! …あられくいたいな。←思考が散漫。 ではではー!なにかご意見ご感想等ございましたら、お知らせくださいませ! |