ちょっとだけ お笑い編?

「ねぇ。ちょっとだけでいいから側にいて」

その道を通りがかったのは偶然だった。
もう深夜と言ってもいい時間に、猫背気味の背中を更に丸め、うつむいて歩いていたのは、知り合いというには近しく、友人というには近寄り難い雰囲気と階級差のある高名な上忍だ。
正直、面倒だなと思った。
今日は週末。…何せ眠い。しかもだるい。
俺は教師だ。つまり、毎日毎日夢と希望とイタズラ心溢れる山ほどの子どもたちを相手にしている。
その最中は楽しいんだが、終わってからガクッと来るんだよなー…。
で、あとはうち帰ってとりあえず今日はしっかりがっつり寝ようと思っていたタイミングでこれだ。
銀色の髪は切れ掛かった街灯の淡い光をはじき、昼間ほど出ないにしろその存在を浮き立たせている。
そして、そのどこかしょぼくれたような様子も。
何かあったのかもしれない。ただ、相談に乗れるほど近しくもない。
第一正直言って面倒だし。
いい年した大人相手に…それもなんかこう、うっすらもじもじ臭漂う辺りがちょっと微妙な雰囲気だ…いまさらどうこう言うのもどうかと思ったし、なんとなーくだが不穏な気配を感じるし、警戒した方がいい感じだと思った。
…いいよな。適当に挨拶するだけで。
そう思って、俺はすれ違いざまに会釈してそのまま通り過ぎようとしたんだが。
「こんばんは」
声をかけられた。
声に落ち込んでいる様子は見て取れない。隠された素顔の中で、僅かだが表情を教えてくれる右目も柔らかく弧を描いて、むしろ微笑んでいるようにさえ見えた。
相手は上忍だ。下級の忍相手にそうやすやすと心情を悟らせるはずもない。
…ただ、一瞬でこうもあからさまに誤魔化されると、舐められてるんじゃないかと思わないでもない。
どうせ中忍だよ!でも今のわざとらしい笑顔がウソだっていうのは分かるけどな!
いや、でもまさか…この薄暗い闇が見せた錯覚か…?
「こんばんは。カカシ先生」
とりとめのない思考を持て余しながらそう返した。
“ただ、知り合いに会ったから。”
それだけの理由であって欲しいと思っていたのに。
いつの間にか、目の前にいた人は俺を背後から抱きしめていた。
挙句、唐突に側にいてくれと言う。
普段はどこかふざけたような口調でひょうひょうとしている人だから、あからさまに己の感情を露にする姿に、驚きと戸惑いを隠せなかった。
ヤバイ。これは…あからさまに面倒ごとに巻き込まれた。
せめてこれがセクシーなくの一だったら…!
…だめだな。きっと鼻血吹いて速攻病院コースだな。
ぎゅうぎゅうやられてる間に、思わず己の妄想に突っ込みを入れるほど動揺した。
まあとにかく…。
なにがあったのか…それを問うのは簡単だ。
だが、それをしてはいけないと、俺の中の本能が言う。
これは…下手に刺激したらまずい状況だと。
とりあえず請われるままに抱きしめられたままでいたが、もうすでに夜中に近い時間だ。
このままでは冷えてしまう。第一心が寒い。なんだってこう…うっすらともじもじ風味な空気をかもし出しているいい年した男に抱きつかれなきゃいけないだろうか?
色々と限界を感じた俺が僅かに身じろぎすると、抱きしめ続けることを躊躇うように腕の力が抜けた。
ヤバイ!これは…ひょっとして次なる行動を取られてしまうかも!?
「ああ、違います。冷えてしまうから、俺の家でお茶でもと!」
相手の反応が恐ろしかったので、慌てて自分のテリトリーに誘導しそうになったが…。
良く考えたらこれも相当マズイ。…家の中であからさまに様子のおかしい上忍と二人っきりって…何の拷問だよ!
このままどっか行ってくれないだろうか?そう思いながらそっと上目遣いで上忍を見ると、驚いたような答えが返ってきた。
「どうして、何も聞かないの」
呟くような声と、叱られた犬のようなしょぼくれた表情。
…怖くて聞けませんとは、とても言い出せない雰囲気だ。
ただ、その瞳が…寂しさと戸惑いと…もっと他の何かがごちゃまぜになったその瞳が。
ぎゅっと俺の胸を締め付けた。
この人を、放っては置けない。ほっといたら…どっかで悪い人に苛められそうな感じがひしひしと伝わってくる。
一応上忍!このひとちょっと変だけど上忍!むしろ変だからこそ上忍!
呪文のように唱えては見たが、どうにも理性が戻ってこない。
人恋しいなんて思うはずの無い人だと思っていた。だが、あんな顔をして見せるのだから、周囲に悟らせない実力があっただけで、本当は寂しがりやなのかも知れない。
気が付いたら俺のほっとけないメーターはピークに達していた。いや、むしろ振り切っていた。
これほどまでに俺の心のほっとけないポインツを押さえたのは…ナルトと初対面の時以来だ。
これは、もう理屈じゃない。とにかく…なんとかしないと!
「いいから、来るんですか。来ないんですか」
妙な焦燥感に駆られるままに、思わず生徒にするように挑発してしまった。
答えは決して子どもがするようなものではなかったけれど。
「行く…っていうか、行ってもいいけど、イルカ先生はいいの?」
「いいもなにも。ここにずっといるより家の方が居心地はいいでしょうが?」
とりあえず持って帰って、そんでなでてやって、一楽…は閉まってるからとりあえずインスタントラーメンだろうか? 「いいって、言ったよね」
「ええ」
こんな所で不安そうな顔のこの人放って置けるわけないだろうに。
心底不思議に思ったが、強い視線に気付いて身震いした。
向けられたのは鋭すぎるほど鋭い、獲物を狙う獣の目。
「…なら、もう遠慮しない」
それに気圧されるように、伸ばされた腕が俺を捕らえるのをただ見ていた。
やっぱりかよ!とはちょっとだけ思ったけど。
*****
そんな訳で現在の状況はというと…。
俺、上忍の家に連れ込まれてます。その上何かこう…一人テンション上がった上忍が俺をべ、ベッドに…!
「あの!冷静に!まずはお茶!ティータイム!っていうかタイム!何だこの状況!」
「だめ。だって…いいっていったじゃない?」
「言ったけど!こんな展開は予想外だ!なにするんですか!」
「なにって…全部貰うだけだけど?」
「さらっととんでもないこと言うんじゃねぇ!」
エライことになった。やっぱりあんな目ぇしてみせても中身は上忍だ。
…狡猾で打たれ強くて常識があんまりない。
この人はエリートらしくというべきか、それをしっかり体現している。
今のところそれは歓迎すべきことじゃないっていうか、嬉しくねぇ!
「寒い?エアコン入れたからすぐ温まると思うけど」
一応俺のことを気遣ってはくれたらしいが、エアコンが入っていようといなかろうと、今の状況が俺の心にめちゃくちゃ負担をかけているのでそれ所じゃない。
「温まるならうちのだるまストーブで十分なんで!失礼します!」
なりふり構わず逃げ出そうとしたはずだったが、やはり相手は上忍。そう甘くはなかった。
「…ああ、でもこれからもっと熱くなるから」
「ちょっとまてー!」
いつのまにやらマウントを取られている。その体捌きは見習いたいと思わず一瞬感激したが、このままじゃ俺の貞操が…!
「逃がさないよ?」
「可愛く小首傾げても言ってることが可愛くねぇ!」
冷や汗が滝のように背中を伝い、じわじわと自分の置かれている状況が絶望的なのだということが身に染みて…。
もがいてもびくともしない上忍に、思わず怯えた視線を向けたのも無理の無いことだと思う。
「だって、言ったじゃない」
さっきの、瞳だ。
寂しげな…欲しい物が手に入らないと知っている諦めに満ちた瞳だ。
「なんで…そんな顔…」
訳が分からない。どこがどうなってこんな状況になったのかがさっぱりだ。
ただわかるのは、さっきとは別の意味で俺の心臓がばくばくウルサイってこと位で…。
なんで野郎が悲しそうにしてるくらいで、こんなに苦しくならなきゃいけないんだ!
「だから、言ったのに。ちょっとだけって」
すねたような口調とは裏腹に、そ瞳は欲望の色をちらつかせている。
あれだ。これはもう駄目元で…!
「ちょっとソコへ直れ!このクソ上忍!」
「やだよ」
「やだじゃない!いいか?同意も得ずに…いきなりこんなコトしていい訳ないだろうが!」
「でも、いいって言ったじゃない」
「だーかーら!俺はアンタがもっとこう…そのだな!」
自分でも何が言いたいのか分からなくなってきた。
いきなり押し倒されるのはゴメンだ。でも、不思議なコトに触れてくる手に嫌悪感は感じない。
でも俺の意思を無視して色々されるくらいなら、説教したいと思った。
…俺は、どうしたらいいんだろう?
「そっか。そうだよね」
混乱の最中にある俺をおいてけぼりにして、カカシ先生が一人で深く納得している。
なんだ?いったい?
「イルカ先生をちょうだい」
手の速さとは別人のようにつたない口調で、真剣な瞳が物語る。
意味は分かった。だがそれだけじゃだめだ。もっと、ちゃんと伝えてもらわないと割に合わない。
「俺は…ものじゃありません」
そういうと、目に見えてしょぼくれかたが悪化したので、慌ててフォローする羽目になった。
「そうじゃなくて!…もっと、ちゃんと言う!」
照れくさいって言うか、めちゃくちゃ緊張してるせいか、思わず生徒たちにするように、カカシさんの両耳を引っ張っていた。
それになぜかほにょっと笑み崩れたカカシさんは…俺の手をするりとなでて、言った。
「すき。イルカ先生が好きです」
これだ。これが欲しかったんだ。
だって、こんなに不意打ちで恋なんかに落としたくせに、俺だけなんてやだもんな?
寂しげな瞳も、もじもじしすぎな所も、ぼんやりしてるようで執着心が異常に強そうなところも…ツボに嵌ってしまった。だからもう…しょうがない。もらってやらないとな!
「宜しい。じゃ、そういうことで!」
だが行為自体はまだまだみとめられないので、そそくさと逃げようとしたわけだが…。
「だめ。…イルカ先生は?言ってくれないの?」
うがー!なんて照れくさいことさせる気なんだ!俺もさせたけど!
…逃げちゃだめなところだってわかってるけど!
急にイイ子の顔をして、俺がその言葉をいうまでいつまでも待っていそうな上忍に、腹立ち紛れで怒鳴ってやった。
「好きになっちゃったじゃないか!責任とれ!」
意味が分からないと自分でも思ったが、その言葉に驚くほど瞳を輝かせたカカシさんは…。
「もちろん!」
当然のように俺を再び押し倒し、今度はためらいなど欠片もなく俺を貪る行為を強引に討ち進めたのだった。
*****
「いってー…」
新たなる世界を見た。…体が痛むが、それ以上に。
…羞恥心で人はしねると思う。
「ああ、大丈夫?慣れたら平気になるはずだから」
「す、少し黙る!」
「いいけどねー?」
ご機嫌な上忍にとんでもない所の後始末までされてしまった。…なんせほら、動けないからな。今。
嬉々として俺を風呂に入れたりあらぬところを洗ったり、ついでになぜか一人盛り上がってもう一線交えたりと盛りだくさんだ。
なにより、最中の俺が…!
「あ、あの…!俺の醜態は忘れてください…!」
シーツを被ったままお願いをしてみたんだが、にこにこと笑顔の大安売り中の上忍には、俺のお願いどころか、羞恥心も届かなかったらしい。
「かわいかったよ?」
「うがー!」
…俺の悲鳴にまで嬉しそうにしやがる!もうもう!この馬鹿どうしたらいいんだ!
「ずっと見てるだけで…我慢しようと思ってたけど。ちょっとだけって、つい」
「これのどこがちょっとだけですか…」
突っ込みどころは沢山ある。
アンタそこはかとなくもじもじしてたけど、やっぱりずっとみてたのかよ!とか、我慢しようってことは最初っからそっち方面の欲望があったんじゃないか!とか、ちょっとだけでついってレベルじゃないだろうが!とか。
…でもまあ、あれだ。今更だ。それに。
「うん。全部もらっちゃった」
でれでれと締まりの無い顔で笑ってるのを見るともうなんでもいいと思えてきた。
今回の件でわかったように、この人はほっとくと危険だから目は離せないだろうけどな。
「全部もらったのはこっちもですからね?ちゃんと色々責任とるように!」
きつく言い聞かせて、寝癖でさらにもっさもさになってる収まりの悪い髪の毛をなでてやって、にこーっと笑み崩れているちょっと頭の悪そうな笑顔を堪能した。

それからはまあ、なるようになったって話。


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ちょっとだけお笑いバージョン失敗したぜ!!!
でも上げてしまったので笑ってくだされ…!
ではではー!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー!

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