ちょっとだけ

「ねぇ。ちょっとだけでいいから側にいて」

通りがかったのは偶然だった。
もう深夜と言ってもいい時間に、猫背気味の背中を更に丸め、うつむいて歩く人。
銀色の髪は切れ掛かった街灯の淡い光をはじき、昼間ほど出ないにしろその存在を浮き立たせている。
そして、そのどこかしょぼくれたような様子も。
何かあったのかもしれない。ただ、相談に乗れるほど近しくもなく、気にはなっても彼の人の名も階級も、俺を近寄りがたく思わせるには十分で…それに、そっとしておいた方がいいのかもしれないという思いもあって、俺はすれ違いざまに会釈してそのまま通り過ぎようとしたのだ。
「こんばんは」
声をかけられた。
声に落ち込んでいる様子はないし、隠された素顔の中で、僅かだが表情を教えてくれる右目も柔らかく弧を描いて微笑んでいるように見えた。
相手は上忍だ。下級の忍相手にそうやすやすと心情を悟らせるはずもない。
…ただ、一瞬にしろ、ソレができないほどの何かにとらわれていたのかもしれないと思った。
あるいは、この薄暗い闇が見せた錯覚か。
「こんばんは。カカシ先生」
とりとめのない思考を持て余しながらそう返した。
“ただ、知り合いに会ったから。”
それだけの理由だと思っていたのに。
いつの間にか、目の前にいた人は俺を背後から抱きしめていた。
挙句、唐突に側にいてくれと言う。
普段はどこかふざけたような口調でひょうひょうとしている人だから、あからさまに己の感情を露にする姿に、驚きと戸惑いを隠せなかった。
なにがあったのか…それを問うのは簡単だ。
だが、それをしてはいけないと、俺の中の何かが言う。
今この人が求めているのは、言葉ではないのだと。
しばらく請われるままに抱きしめられたままでいたが、もうすでに夜中に近い時間だ。
このままでは冷えてしまう。
相手は上忍だというのに、何故かソレが酷くイヤで…。
僅かに身じろぎすると、抱きしめ続けることを躊躇うように腕の力が抜けた。
「ああ、違います。冷えてしまうから、俺の家でお茶でもと」
今にも姿を消してしまいそうな様子に、慌ててそう言うと、驚いたような答えが返ってきた。
「どうして、何も聞かないの」
呟くような声と、叱られた犬のようなしょぼくれた表情のこの人を、放っては置けないと思った。
…ただ、それだけの理由だったが、この人にわざわざ告げることもないだろう。
人恋しいなんて思うはずの無い人だと思っていた。だが、あんな顔をして見せるのだから、周囲に悟らせない実力があっただけで、本当は寂しがりやなのかも知れない。
「いいから、来るんですか。来ないんですか」
思わず生徒にするように挑発してしまった。
答えは決して子どもがするようなものではなかったけれど。
「行く…っていうか、行ってもいいけど、イルカ先生はいいの?」
「いいもなにも。ここにずっといるより家の方が居心地はいいでしょう?」
「いいって、言ったよね」
「ええ」
「…なら、もう遠慮しない」
伸ばされた腕が俺を捕らえるのをただ見ていた。
わかっていたのかもしれない。それを受け入れることが当然だと。
*****
冷えてしまうと言ったのを気にしてか、エアコンが静かに温かい風を吐き出している。
だが、それよりももっと。
「ねぇ?気持ちイイ?」
「ん、は…っ!あ、あ…!」
与えられる熱が俺の思考を奪い、ただひたすらに行為に没頭させる。
「だから、言ったのに。ちょっとだけって」
抑えきれぬ欲望に瞳をぎらつかせ、その凶器のように反り返った雄の象徴で俺を貫きながら、その表情はどこか寂しげでさえある。
と言っても、先ほどから唐突に始められた行為に、躊躇いは欠片もないのだが。
…こうなることさえ、もしかして俺は知っていたのかもしれない。
抵抗することよりも、ただ…これでもっとこの人を温めてあげることができると、ソレだけを思った。
だから、自分のしでかしたことを悔いているようでさえある彼の背に、そっと腕を回した。
また、さっきのように一瞬だけビクッと身体を震わせて、怯えたような瞳が向けられる。
そんな顔をさせたくなくて。
「いいから。…もっと」
「…そんなこと言って。…もう、知らないよ?」
今更遠慮していたとでもいうつもりだろうか?
だがその強がりが可笑しくて、そして愛おしくて、いつの間にか恋に落ちていたと知った。
俺の肌を欲しがるこの人の意図は分からない。…それでも。
「アナタが、欲しい」
白い肌にさっと朱が走り、殺気じみたチャクラが俺を包んだ。
俺の手首を戒めていた、忍らしく細く長い指が、より一層締め付けをきつくする。
「…もう、誰にも渡さない。俺のモノだ」
その強い口調とはうらはらに、まるで縋りつくように覆いかぶさってきた男に応えながら、この愛おしい人をもう二度と離さないと決めた。
いつかきっとこの人が俺を諦めてしまう日が来ても離れてなんかやらないと教えてやろう。
寂しいということすら出来ずに、”ちょっとだけ”なんていいながら俺を我慢できなかったこの人に。
だが、今は。
俺を求めるその体に溺れようと思った。
必死ささえにじませて、ただたすらに互いを求めるために。


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てきとー!
今現在半分寝てるので中身がちょうしんぱい!←でもアップするアホ。
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