れんあいのきほん(適当)



どうしてこうなったのか思い出せない。確かアカデミーの演習もあったってのに、急に倒れた同僚の代わりに受付の仕事もこなし終え、もう今日は飯はあるもので適当に誤魔化そうと決めて、そのまま家に帰ろうとして…。
それから、どうしたんだったか?
椅子にがんじがらめにされ、印も組めない。
チャクラも練れないところをみると、術印かチャクラ封じの毒も使われているらしい。
縄抜けをしようにも見たこともない結び方で、足掻いても緩むどころか逆に締め付けが強くなるばかりだ。
…本来なら必死で逃げるべき状況だというのはわかっている。
「好きって言ってくれたら解放する」
そう言って来るイキモノが、背丈が俺の半分もない子どもじゃなければ。
好きって言えというくせに、猿轡をはめているのはどうなんだとか、格好こそ暗部だが、子どもが駄々をこねているようにしか見えないとか、それから。
「んぐ!」
「早く言え。言ったら解いてやる」
必死で言い募ってくる所がまた俺のツボを付く。
か、かわいいじゃないか!いやでもやりすぎっていうか腹は立つんだが!実力差に空しさも感じてるが!
それを凌駕する一生懸命な子どもを見ている時の微笑ましさ。そしてその方向の間違っている一生懸命さが可愛くてついつい頬が緩む。
「か、かわいいじゃないか…!」
言うつもりはなかったのについぽろっと。猿轡をもごもご言わせながら呟いちゃった訳だ。
…いやだってな?言え言えうるさい割りに縛ってるだけで術とか使ってこないんだぞ?
どこで目撃されて懐かれたのかわからんが、縄なんかさっさと解いてくれれば目一杯抱きしめてやれるのに。
「かわいい?ソレってアンタのことでしょ?自覚あるならもうちょっと気をつけなさいよ!」
怒りながら猿轡を取ってくれたのはありがたいが、その内容はさっぱり理解できなかった。
「え、あ、ええ?いやそれはない。絶対ない。俺のどこにかわいさが!?」
「そーいうとこ。中忍っぽいよね。ま、アンタ中忍か」
「う、うるせぇ!中忍馬鹿にすんな!戦場で一番働いてんの俺らなんだぞ!」
雑用から戦闘までなにからなにまでこなせないといけない中間管理職の悲哀をなんだと思って…って子どもが知るわけないよなぁ。しかも暗部だしなぁ。
「で、どうするの?縛ったままでいい子になるまで閉じ込めちゃおうか?」
「あのなぁ。俺は中忍で任務もあるんだって。お前と違って外に出ることは少ないけど、ちゃんと里を支える仕事なんだぞ?わがまま言ってないで、なにがあったか先生に言ってみなさい」
物騒なことを言って粋がる年齢なのかもしれんが、流石に放ってはおけない。
口が自由になったからいざとなれば口で縄を噛み切ることくらいはできるだろうか。体勢的にちょっと厳しいが。
「なにがって、告白?」
あーちょっときゅんってきた。首傾げんなかわいいだけだろ!
先生ダイスキーなんて言ってくれるのはこの年齢の子たちだけだもんなー…。後は商店街のおばちゃんとかおじちゃんとか犬とか猫とか鹿とかなー…。
「俺も好きだけど、そういうのは大人になってから…」
大人になっても好きだったら考えると伝えるはずだったのに、不穏な気配に思わず口をつぐんでしまった。なんだこの…殺気ともつかない圧迫感は!
「今、言ったね?」
面の奥でくつくつと笑う声が聞こえる。
流石暗部。思春期特有の我侭が、こんなにも周囲にダメージを与えるとは。
だがここで退けばアカデミー教師の名折れ。クッと前を見据えて息を吸った。
「言ったぞ?あいにくお前みたいなやんちゃな子ども相手に毎日奮闘してるんでな。脅しにもならん!あのなぁ。遊んで欲しかったら俺の家で…」
本能的に強張る体を叱り付け、できるだけ普段通りに声を掛けたつもりだ。
だってこれは子ども。子どもなら平気だ。
「言っちゃったねぇ?じゃ、これで俺のモノ確定」
面が外されて、煙が上がる。カラーンと乾いた音を立てて転がったものを視線で追うこともしなかった。
いや、できなかった。眼前に迫る吐息に意識を奪われていたから。
「え?あ。はたけ上忍?」
「言質取ったからまずは体からで」
「えーっと?まさか年齢詐称…!?」
やんちゃ坊主が消えて、やんちゃなのは変わらんがほぼ同い年の知人が現れた。
体からってどういうことだ?ちびっ子が本体…なわけないよな?四代目様の弟子だったんだし。
「そ。あんた大人に厳しいけど、子どもだったらいけるかなって。ホントに弱いよねぇ。気をつけなさいね」
「アンタに言われたくありません!っつーか解け!ナニやってんですか!」
「告白?」
「認めねぇ!」
「や、だって逃げられると悲しいじゃない?」
真顔で言われて思わず納得しかけて気付いた。
…そうか。中身あの年の子どものまんまか。この人。
「いいですか?お付き合いというのはまずは告白からってのはあってますが、そこから少しずつ距離を縮めていくのが醍醐味です」
「へー?面倒くさい」
「なるほど。相性が悪いって事なら、他所行った方がいいですよ?」
「んー?そうしたら嫌いにならない?」
「なりませんね。…あーその。正直好みのタイプかもしれませんし」
ただし、子どもとしてはだが。そこは言わなくてもいいだろう。いつか正気にもどれば気付くだろうし。
「そ?じゃ、我慢するからご褒美頂戴ね?」
そういっていきなり唇を奪った男は酷く幸せそうで。
…どうしてこうも俺は厄介ごとに巻き込まれるのか…。
「まずは解きなさい。好きな人は縛ったりなんかしないもんです!」
「えー?俺は縛るの好きなのに。逃げないでね?」
「逃げねぇって言ってんでしょうが!」
しぶしぶといった顔を隠そうともしない男になんとかして縄を解いてもらった。…一瞬で。
なんだよそんなにすぐ解けるってどういうことなんだよ。あれだけ足掻いてもがいて駄目だったのに。
不思議なことにしびれも残っていない。まあありがたいと思えばいいか。だってこれで。
「こっちきなさい」
「ん。なぁに?」
無防備に距離を詰めてくる。…それだけ警戒されてないってことか、それともどうとでもできる相手だからか。まあ、どっちでもいいか。
「ほら、逃げなかったでしょう?」
ぎゅうぎゅうに抱きしめてやった。これをやると大概の子は大喜びできゃあきゃあいってくれるから、本当ならさっきの子どもにしてあげたかったんだが、中身は似たようなもんだから構わないだろう。
「ホント。無防備」
「うへ!なんであんた勃ってるんですか!?」
「やりたいから?」
「そういう問題じゃねぇ!」
疲れた…が、ここでヘタリこんではいられない。問題児が巣立ったが、また新たな問題児がやってきただけのことだ。
「アンタは難しいね」
「そりゃどうも。アンタほどじゃありませんよ」
意地でも抱きついたままでいてやると決意して睨みつけてやったら、拍子抜けするほどうっとりした顔が視界に一杯に広がって。
…まんまとまた唇を奪われたあとになにがあったかについては、黙秘権を行使させてもらいたい。


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適当。
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