真剣に悩むのもばからしくなるほど、男の態度は尊大で、それなのにおびえた瞳でいるのだからわけがわからない。 「ね、いいでしょ?ほら、きなさいよ」 強引に腕を引く男に逆らうのはこれといって恐ろしくない。 こんな態度のくせに意外と男は弱腰で、断ればすねたような悲しげな瞳で見るくせに、何かしてくるわけでもない。 それよりも男を崇拝する取り巻き連中の方は面倒だ。 こうして男に腕を引かれることも、ソレに逆らうことも、ましてや会話をすることすら彼らにとっては許せないことらしい。 幸い、この男に夢を見られるだけあって、実力も観察眼も大したことがない相手であることが多かったが、中にはそこそこやるのもいて、やりあうのも結構な手間になってきている。 それならいっそ、この男を巻き込んだ方が楽かもしれないと思うほどに。 男は多分自覚していないだろう。 俺が絡まれたときも殺気だけは激しく、だがなんでもない素振りで排除してはくれたが、男の瞳に宿るのは嫉妬めいた怒りだけで、自分を崇拝する存在に気付いてさえいないように見えた。 男は慣れすぎているのかもしれない。 自分が常に観察され、憧憬の視線を浴びることに。 幼い日に、いわれの無い蔑みの視線を浴びすぎているからか、男は他人の考えを察するのが苦手なようだ。 近づく者にも避ける者にも頓着しないのも、そんな理由だとしたら理解できる気がした。 生い立ちなんて話す男じゃないが、取り巻き連中はそんな所まで熱心すぎる。 俺に話したからなんだというんだとも思うんだが。 男は基本的に周りに興味を示さない。代わりのように己が執着したものに対しては、不器用ながら必死で食らいついていくようだが。 …それが、単に自分だったというだけの話だ。 正直言って、面倒だと思う。 こんな面倒な生き物を抱えこんだら、それこそ一生面倒を見なければならないじゃないか。 迷う。男を受け入れるか、それともこんな風に弱弱しい瞳で、だが俺の袖を絶対に放さないとばかりにぎゅうぎゅうと握り締める男を見棄てるか。 …出来ないと分かっている仮定はやはり無意味だろうか。 「なんですか?」 問いかけにびくりと体を震わせて、そっと視線を上げた男に、俺の中の何かが白旗を上げた。 どうしたものか。面倒ごとなど大嫌いだというのに。 「ご飯、一緒に食べて?麺類好きでしょ?鍋料理の店で〆がラーメンのとこが…」 …こういう生き物は苦手だ。 本当は勝手に生きていけるくせに、放っておいたらしんでしまうんじゃないかと思わせるから。 いじましく、間違った努力を続けるこの男は、本当ならもっと…この男にふさわしい相手の袖を引くべきなのに。 ぬくもりを求めてか、何かを間違ったか、雛鳥のように後を着いてまわり、俺から愛情をむしりとろうと必死な男をやり過ごすのは、もう限界だ。 「わかりました」 「え!…じゃ、じゃ、あとであとで迎えにいくから!待ってて…」 逃がさないとでもいうように早口でまくし立てる男の口をふさいでやると、ふがもがと奇妙な声をあげながら目を白黒させている。 まあソレでもしがみつくのをやめないんだが。 不敬なマネをとまた例の集団に罵られるだろうが、まあいいか。これからどうせもっとびっくりさせることになるんだから。 「ああ、いいんです。仕事もう終わりましたから。でも行くのは俺んちです」 いつも一方的にひっぱらせていた袖口の代わりに、俺が男の腕を握った。 触れるたびにびくびくされるのが嫌だったからだが、今回は一際反応が激しかった。 びくりと震えて、それから握りつぶされそうな勢いで俺の腕を握り返してきたのだ。 「ほんとに?ウソだったら…!?」 完全にうろたえて声まで裏返っているが、殺気立つ辺りがこの男らしい。 慣れって恐ろしいな。 特に恐怖すら感じず、握られた手を引いて引き摺るように歩き出すと、男もちょこちょこと後をついてきた。 かわいいというかなんというか。 「飯はあんまりいいモノはでませんよ。アナタと違って薄給ですから。でも…うちに帰ってくるならちゃんと毎日一緒にご飯を食べましょうね?」 そういって微笑んでやったら、キラキラしたでもまだ疑いを隠しきれない目で見つめてきたから、ついでに頭もなでて、そのまま歩き出した。 …まあ、なるようになるだろう。 「家…いってもいいんだ…!」 とりあえず…それはもう嬉しそうに言う男を、おもわず可愛らしいと思ってしまうことに抵抗がなくなった自分を笑っておいた。 ***** で、どうなったかっていうと。 その日のうちに手も足も出ないほどの素早さで貪られて、歩くことすら出来ないほどの目に合うとまではさすがに思わなかったが。 「ダメ!俺のことだけ見てなさいよ!」 そう喚き倒す男が今でも可愛いと思うので、まあこんなのもありだろうかと思っている。 ********************************************************************************* 適当ー! 勢いで今日はにゃんこ上忍。 プライドの生き物っぽいにゃんこの方が良かったかなぁ…。 |