おいかけっこ15(適当)



お腹がすいた。それにだるい。なんか…なんかうるさいし。
「あれぇ…?」
えーっと。天井がなんか白い。あと、薬臭い。この匂いは嫌いだ。母ちゃんとか父ちゃんとかが怪我した時の匂いだから。
ってことはここは多分…病院?だよな?
なんかすっごく肌がチリチリする感じがするから、多分母ちゃんが本気で怒ってる。
…えーっと?俺なんかやっちゃったんだっけ?
お遣いは頼まれてないし、ちゃんと庭の木に水もやったし、大体母ちゃんはそういうときはここまですっごく怒らないし、父ちゃんの巻き添えにしても怪我してるみたいな匂いはしない。
危ないことすると滅茶苦茶怒られるけど、危ないこと…えーっと、あとは…あとは?
「ん、かあちゃ、ど、して…?ん?とうちゃん?え?あれ?カカシは?」
そうだよ!カカシだ!
俺がへたくそだったせいでカカシまでぶっ倒れちゃったのかもしれない。
あとは…あ!じいちゃんだ!…それ、と。あの人は、カカシの父ちゃん。
もしかして、俺はとんでもないことしちゃったんじゃないだろうか。
「イルカ…!大丈夫か!」
心配そうにのぞきこんでくる父ちゃんが涙ぐんでて、お酒飲んだり感動すると泣いちゃうけど、こうやって心配されて泣かれたのって、鼻にでっかい傷作った時以来だ。
そうだ。あのときの母ちゃんくらい怒ってる。いやもっとかも。
なんだろう。なんでだろう。とにかく母ちゃんが怒ってるのが怖いし、それが俺に対してじゃなくても嫌だった。
「…今すぐ殺してやる!」
怒った母ちゃんは雰囲気変わるし、なんかもう腹がきゅーってなるくらいピリピリするし、めちゃくちゃ怖い。
でも殺してやるなんて聞いたことなかったんだ。今までは。
任務ではきっと必要になれば自分と里を守るために必要だってわかってるけど、だってそれカカシの父ちゃんなんだよ!
仲間だ。同胞を傷つけたら、もしかすると忍ではいられなくなる。それから、この里からも追い出されちゃうかもしれない。
「母ちゃん!待って!」
きっと本気だ。ちょっと変わった人だけど、カカシの父ちゃんなのに、母ちゃんが殺してしまう。カカシの父ちゃんも強そうだから、そうじゃなくても大変なことになる。
っていうかなにがあったんだよ!カカシの父ちゃんはなんかちょっと変わった人だけど、母ちゃんがこんなに怒るなんてよっぽどだ。
「そこで寝ていなさい。コイツとあの餓鬼を殺ったら、そのくそ忌々しい術も解けるはず…!」
息が苦しい。母ちゃんが印を組むだけで空気が振動して、そしてそんな母ちゃんをみて、父ちゃんがぼんやりしてる。なんかちょっとうれしそうっていうか…。
ダメだ!もう父ちゃんの馬鹿!止めてよ!
「母ちゃんダメ!」
「ええい!落ち着かんか!ここをどこだと思っておる!」
無言で立ちっぱなしのカカシの父ちゃんは、顔色一つ変えずに指の一本も動かしていない。
びっくりしてんのかな?逃げてよ!
それにじいちゃん…やっぱりいざって時はやるじいちゃんだよな!エロ本ばっかり読んでる訳じゃないもんな!
じいちゃんのチャクラもすごい。印を組むのもかっこいい。俺も将来は…なんてちょっとだけ憧れた。
…そしたら、いきなり白っぽいものが飛び込んできた。俺に向かってまっしぐらに。
「イルカ!」
「カカシ!よかった…!なあ大丈夫か?」
思ったよりは元気そうだ。でもやっぱり入院してたんだな。俺のせいだ…。
あとちょっとだけ顔色悪いのは…多分母ちゃんとカカシの父ちゃんのせいだよな?
「うん!元気だよ!ごめんねイルカ。父さんがびっくりしちゃったみたい」
いきなりぎゅうぎゅう抱きついてきて、やっぱり不安だったんだろうなぁってかわいそうになって、いつもみたいに頭をなでてやったらくふんと鼻を鳴らして嬉しそうに笑った。
そうか。カカシの父ちゃんがひっくりかえっちゃった俺を連れてきてくれたんだな。お礼しなきゃ。
「クソガキ。貴様か」
ぞっとした。さっきまでカカシの父ちゃんに向かっていた殺気が、俺と、カカシに向けられている。
え?なんで?何で母ちゃん怒ってるの?
「母ちゃん…?」
「イルカ。ソレからはなれなさい」
それ…ソレって、カカシのことなのか?駄目だ。母ちゃん任務先でなんかあったんだ。きっと悪い術にでもかかって…!
「じいちゃん…!母ちゃんが病気だ!どうしよう!医療班の人呼んでこなきゃ!」
でも実はさっきから入り口でガタガタ震えてへたり込んでる人もいるんだけど、アレってもしかして医療忍の人なのかな?いつも怪我して気が立ってる母ちゃんを父ちゃんとか父ちゃんの友達とかはさくさく治療しちゃうのに!どうしよう!?
「あー…そのじゃな。お前の母は別段問題はない。むしろ…」
「イルカ…」
いやそりゃ恐いよな?引っ付いてこられたら守んなきゃだし。えーっとでも相手は母ちゃんで具合悪い訳じゃないなら…寝てる間になんかしちゃった…んだよな?多分。
「お、おねしょ?まさかこの年で?」
二つくらいまではやっちゃったことあるみたいだけどあんまり覚えてないし!
なんだか俺まで悲しくなってきたけど、それだけでこんなに怒るかなぁ…。
「おねしょ?イルカおねしょするの?」
なんで元気になってるんだよ!カカシめ!そんなとこで喜ぶな!公園のトイレでうんこしてもこういう反応するヤツいるよな…。ここまで喜ぶなんて、酷すぎるだろ…!
「今はしてない!ちっちゃい頃だけだ!」
大事なことなので力いっぱい主張したら、父ちゃんがうんうん頷いてくれた。な!だよな!俺おねしょなんてしない!
「そっか…おねしょするならさ、一緒のお布団に寝たらすぐ分かるのにって思ったんだけど。綺麗にして上げられるし」
「でもしない!しないぞ!な!父ちゃん!」
父ちゃんに救いを求めたら、殺気の塊の母ちゃんがいつの間にか滅茶苦茶側に立っていた。
「え?わぁ!」
べりっとはがされて、父ちゃんの方に投げられる。うんうんしてたのってこっちか!
カカシが危ない!
…と思ったら、カカシの父ちゃんが抱っこしてる。
あ、ヤバイ。
すごい。母ちゃんより恐い。なんだこれ、殺気っていうより、えーっとさつい、そう、殺意ってやつだ。きっと。
「カカシ!」
「イルカ…!」
「邪魔をするものは排除する」
「イルカに触れるな。お前のモノなんかじゃない!お前には息子がいるだろう?大人しくソレの番犬でもやっていろ」
なんかすごい喧嘩始まったけど、とりあえずここは病院だから騒いじゃ駄目っていっつも言ってるの母ちゃんなのに!
「父ちゃん離して!母ちゃん止めなきゃ!」
「いいから、お前はじっとしてなさい。いいか?動くなよ?」
父ちゃんまでクナイを抜いた。じいちゃんは頭抱えてないで何とかして欲しいけど、じっとしてろって言われてじっとしてる必要はないと思うし、多分なんかわかんないけど俺とカカシが原因だ。くっつくとなんかが起こる術とかでもなさそう…だよな?それならきっとカカシが気付くし。
うん。ならしょうがない。とりあえず…逃げよう!そんで落ち着いた頃にアスマ兄ちゃんとかに助けてもらえばきっとなんとかなる。俺が窓際にいるし、鍵かかってなさそうだし、ちょっと開けて逃げればいけるはず。カカシもすばしっこいし、今はカカシの父ちゃんの方をターゲットにしてるみたいだし。
窓とカカシに向かって必死になって目配せしたら、カカシが驚いた顔をした。カカシの父ちゃんは相変わらず無表情だけど、頷いた。いつもは悪戯の気配だけで気付く母ちゃんは、今は怒り狂ってて気付いてないから、チャンスは今しかない。
「変わり身の術!」
「くっ!イルカ!?」
「っ!待ちなさい!」
っし!俺の方は成功した!あとはカカシだ!
「父さん。ちょっと行って来ます」
「ああ」
…なんでそこ和やかなんだよ。まあいいけど。カカシの父ちゃん変わった人だもんな。
「っ!待て!」
「ゴメン母ちゃん!カカシとちょっと反省してくるから許してねー!お土産とかもってかえるからー!」
悪戯して逃げるために身につけたこの素早さが、初めて役に立った気がする。
カカシもすぐに追いついてきたって言うか、いきなり俺を担いで走りだした。
「わぁ!俺走れる!」
「いいから。あのままじゃ病院壊されちゃう!」
…そういえばもう壁とか壊してたもんな…。俺のせいだよな…。あとでどうやって直すかも聞こう。
「とりあえず逃げて、あとでごめんなさいしに行こうな?」
「…う、ん」
なんだよー恐いのはわかるけどさー。母ちゃんは今ちょっと暴れん坊モードなだけだし、基本優しいし、あんなになるのは怒ってるときだけだし!
「大丈夫だって!俺が一緒に謝るから!拳骨はすっげぇ痛いけど!」
「そうだね」
よし。笑った!
…なんだろうなー?これだけで何とかなる気がするよな。
とりあえずカカシは怪我してないみたいだし、追っ手はじいちゃんが止めてくれるだろう。だってあのまんまじゃ病院壊れちゃうしさ。
ところで今どこ走ってるんだろう?アスマ兄ちゃんの隠れ家に潜伏する予定だったんだけど。
「カカシ?どこ行くの?」
「俺の秘密基地、かな?」
秘密基地!そっか。カカシも持ってたんだな!楽しみになってきた!
「魚とか木の実とかとってさ、ごめんなさいしような?」
「薬草もあるからそれも集めようか?」
「うん!」
その間に色々落ち着いてくれることを祈りながら悩んでいると、一瞬で視界が変わった。
「うお!すげぇ!」
山小屋みたいな所だけど、結構広い。暖炉もあって、お湯とかも沸かせそうだ。
「時空間忍術って本あったでしょ?まあここは俺の先生から受け継いだんだけど」
「へー?すごいな!」
俺も術の勉強がんばろう。そんでいつかこういうのを作ろう。
…俺の秘密基地は木の上に作ったヤツと、木の洞に作ったヤツだもんなー。洞窟にカンテラとか武器とかトラップとか仕込んだアスマ兄ちゃんのも本格的だけど、ここまでじゃない。
「ちょっと休んでから、何にするか決めようね」
「…うん」
正直言って疲れた。病院で寝てたのに急に動いたせいか、まだぐらぐらする。
カカシだって病院の服きてるから、ぶっ倒れちゃったんだろうし、今ちょっとだけ休んでもいいと思うんだよな。
「ベッドこっち。いっしょでいいよね」
「うん…」
ちょっとだけなら、いいよな?寝ちゃおう。
「お休みカカシ」
「おやすみ。イルカ」
幸せそうに笑った顔を最後にまぶたを閉じた。
ちょっとねたら…ちょっとだけだから…ごめんね母ちゃん。


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適当。
逃走補助は密かに三代目。
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