空が青い。 抜けるようなって言うのはこういうのを言うんだろうな。 「あー…」 このままここに転がってたって何一つ変わらないのが分かっていて、それでも動こうと言う気にはなれなかった。 同じ空をさっき見ていた人から、俺は逃げてきてしまった。 綺麗な人だ。うさんくさい覆面をとっぱらえば、もっと女にもてるだろうに、幼い頃からの習慣で今更外すのが面倒なのだと、どこへ行くにもそれを身につけていた。 それを、俺の前では外すようになったのはいつからだっただろう。 その前からいい人だとは思っていた。 性格は…俺は大雑把で、あの人は緻密すぎるほど緻密で、どちらかというと真逆に近い。それに階級も格下だ。 それでも、根っこの部分で気があったのか、色々あった割には、なんとなくつるむようになって、気付けば周りも友達なんだろなんていわれるような関係になっていた。 上忍におもねる中忍だなんだという連中はもちろんいて、まあある意味前歴のある身だから、それはそう思われるのもわからんでもないと思ってほっておいたら、ある日突然ずたぼろの見知らぬ忍片手にカカシさんがやってきた。 「あやまんなさい」 「う、うう…!」 頭を下げはしたが、それは明らかに謝罪ではなかった。 恐怖に歪む顔、一瞬滲んだ悔しそうな光さえ、上忍の殺気であっという間に怯えに変わった。 何が起こってるのか理解できるはずもなく、思わず救いを求めるように視線をやれば、「やっちゃった」って顔に書いてあるカカシさんがしょんぼりしてたんだよな。 …で、だ。二人とも並べてとりあえず怪我人は手当てして、アカデミー教師が上忍におもねる意味がないし、この人のやったことはやりすぎだということをきっぱりたっぷり語ってから解放した。 「だって!イルカ先生はそんなことしないじゃない」 そう駄々をこねるカカシさんを宥め、説教もし、ついでに勢いで酒まで飲みに行って足らなくてうちにつれて帰って再び絡み酒を始めてそのまま酔いつぶれた。 朝起きて真っ先に正座したカカシさんに謝られて、腹が立ったからってやりすぎだったかもしれないけど、俺はああいうのは気に食わないっていう顔で、まるで子どもみたいに頬を膨らませて怒っていたからつい噴出して。 そうしてそんなことがあった翌日からは、ただのアホ二人がつるんでるだけだという噂に落ち着いたのだ。 …俺までアホってのは失礼だろと思ったが、確かに夕方の人通りが多くもないが少なくもない往来で、正座させた挙句に長いことやりあってたわけだから、そりゃ言われても仕方がないかと諦めた。 カカシさんがなぜかそれを聞いてご機嫌だったのは理解できなかったけど。 そう、そうだ。それでだ。 今日も今日とて一緒に帰りましょうなんていうから、アカデミー生みたいに仲良く揃って家路を急いでいた訳だ。 ちなみに行き先は俺んちで、多分今日ものみ倒してから寝ることになるだろう。 ふと、空を見上げた。 「青い」 抜けるような青空は押しつぶされそうに感じるほど圧倒的な存在感でそこにある。 美しいのにどこか恐ろしい。目が離せなくなりそうだ。 ふと、そういえばこの人にも同じことを感じたなと思えば、隣にたたずむ男も同じようにゆっくりと天を仰いだ。 「え、ああ。ホントだ。綺麗だねぇ」 それは酷く自然で、勝手に湧き上がって胸の中を一杯にした。 ああ好きだなと、そう思って。 それから恐ろしくなった。 とっさに何も言わずに走りだした俺を、口をぽかんと開けて見送っていた。 空から視線を離して俺を見ている。その事実だけで背筋が震えた。 だめだ。こんなのは駄目だ。 それなのに気付いてしまった。 「あー…どうすっかなぁ」 今更あの場所には戻れない。どれくらい夢中で走っていたのか、この丘は里の随分はずれにあるし、どんなに急いで戻ったとしても、あの人はそこで待っていたりはしないだろう。…しないはずだ。待っているかもしれないと思ったとき、胸が締め付けられるような痛みが走ってそれすらも恐ろしい。 「どうすっかなぁじゃないでしょうが」 「うへ!」 びっくりしすぎて変な声がでた。空が、あの人に変わる。近い。近すぎる。ああもうアンタどっかいってくれよ。 もうそれでなくても頭の中はアンタで一杯なのに、何も考えられなくなるじゃないか。 逃げたいのに、覆いかぶさる男から視線が外せない。 綺麗だから?ちがうな。…俺はこれが欲しいからだ。 「ようやく気付いちゃってくれました?」 「なにが、ですか」 謝らなきゃとか、そんなことにまで頭が回らない。いっそ泣き出してしまいたい。 なんでこんな厄介なのにほれたんだ。俺は。 上忍で凄腕で、極めつけは同性だ。いずれは火影にとも望まれている。見合いの話は引きも切らぬほどと聞くこんな生き物が、俺のモノになるはずがないのに。 …真っ先に前線に飛び出していく、こんな生き物はすぐにいなくなってしまうかもしれないのに。 「んー?絶対俺からは言わないでおこうと思ったんです」 「へ、え?」 「でもね。アンタ逃げるでしょう。このままじゃ。もうそれなら我慢するのやめます」 だって気付いてくれたもんね? それが囁かれたのは唇に触れた後で、重なった感触にじわじわと体温が上がるのが分かっていたたまれない。 「ううううう…!」 「はいはい。唸ってないでカカシさん好きっていいなさいよ。そうしたら」 「そうした、ら?」 「俺もアンタのモノになるし、アンタも…俺のものでしょう?」 っていうか、とっくに周りはそう思ってるし。 悪戯っぽく笑いながら腕を絡ませてくる。 そうか。そういえば…え、ええ?初耳だぞそれ! 「好きだけど。アンタなんて…!ああくそ!」 「かっわいいなぁ。ま、これからも末永く宜しくね?とりあえずとっくに済んでると思われてる初夜からでもはじめましょうか?」 触れる手が卑猥にうごめく。簡単に息が上がるのが悔しい。 ああ、なんてやっかいな男にほれたんだろう。 「いつからだ。なんてことするんだ。くっそでも好きだよ!どうすんだ…!」 「どうするって決まってんでしょうが」 焦れたように深い口付けを仕掛けてきた男に圧し掛かられたまま、空なんかよりずっと俺を捉えて離さない男を見上げた。 こんなところでと思わなくもないが、この勢いじゃなきゃ無理だ。きっと途中でとめたら、俺は逃げ出してしまう。 だから、足を絡ませ続きを唆した。にやりと笑った顔にケダモノ染みた光が宿っている。 しょうがねぇ。惚れた方の負けだっていうもんな。 どうやらこんなごつい男を食う気でいるらしいのは心底不思議だが、俺はどっちでもいいからこの男が欲しい。 「逃がさないよ?」 囁きながら噛み付いてくる。痕を残しては目を細める姿はかわいいと思えなくもない、か?これも惚れた欲目だろうか。 空がこんなにも青いのに、人目がないとはいえ外で。 「そっちこそ」 好きだなんて気付きたくなかったのに。 全てを暴き出した青すぎる空に毒づいて、それから。 なによりもこの身を縛る男に縋りついた。一欠けらも残さずに食い尽くしてもらうために。 ******************************************************************************** 適当。 ブルーブルー。間に合うように誰かがんばれっていってくらさい。とかいってみる。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |